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今 心の教育を考える
(取材・文/吉田 昭子)
地域での就労体験で心生き生き
宮農支援ボランティアの会
沖縄県立宮古農林高等学校
 
 沖縄の宮古農林高校の正門には、生徒たちが丹精込めた鮮やかなマリーゴールトの鉢植えが並んでいる。同校では2000年11月に宮農支援ボランティアの会の前身となるブロジェクトチームを設け、学校支援検討委員会として協議を継続、翌年6月にPTAや同窓会の会議で設置が正式に了承された。
 
 宮農支援ボランティアの会は、問題行動を起こす生徒たちに対して直接指導に当たる教員が不足していたため、学校がPTAや同窓会に働きかけたことが成立の契機となっている。問題行動を起こす生徒を学校だけで指導するのではなく、地域に呼びかけてOBや民間の専門家ともども問題を解決していこうとする学校はまだまだ少ない。
 この支援体制が確立した背景には、(1)卒業生の活躍が顕著であること、(2)PTA活動が活発であること、(3)従来の「学校と地域との連携」がかなり強固であること、などの要因があった。支援組織の構成は、(1)同窓会、(2)PTA、(3)ボランティア代表、(4)教頭、(5)その他となっており、学校長が顧問として名を連ねている。ボランティア代表は地域から農業関係者や元学校関係者等さまざまな職種の方々を募集し、学校の教育方針に基づき生徒指導に当たる。
 同会は、懲戒指導を受ける問題行動を繰り返した生徒を対象にインターンシップ(同会のメンバーの職場での就労体験)として職業観や学ぶことの大切さを肌で感じてもらうという支援ボランティア活動を行っている。どのボランティアの指導を受けるかに関しては生徒の希望も反映されており、日誌を付けたリ巡回指導をすることにより、ボランティアと学校との連絡はしっかり取れている。
 数多くの生徒たちが実習を受けてきたが、そのほとんどが問題なく進級、または卒業している。学校や家庭のような日常的な場ではなく、見ず知らずのOBや地域の人々の職場といった非日常的な場で、人生の先輩からの話を聞いたりその働く姿から学べることは、新鮮でまた限りなく深いものではないだろうか。この支援ボランティア活動は多くの保護者の支持も得ており、今後に大きな期待が持たれている。
 
「ひまわりの会」の活動から。老人ホームの運動会(上)と沖縄そば作り
 
 そもそもは特別指導生徒への支援活動であったものが、進路指導の面で大きな効果が上がったため、2000年度からは「積極的に職場実習を体験したい」というすべての生徒に支援を行っている。今後は学校生活に行き詰まったり、将来の進路を見失ったりしている不登校気味の生徒にも支援活動を広げて行く方針だ。教員と生徒間にも生徒同士にも、そしてそれを支える家庭や地域の人々の間にも強い信頼関係があればこそ「地域の教育力を学校に」というシステムが生まれ、根付いてきたのだろう。
 実際に指導に当たったボランティアの一人、上地登さんは、宮農のOBで農業に携わっている。元々後輩のために母校に出向いて話をするなど、同校とのつながりは深かった。支援活動には20歳の頃から加わり、今日まで一貫して後輩のために役立ちたいと支援を続け、ハウスや農場での実習を通して、農業を指導するのみならず生徒たちに人生を語ってきた。
 「勉強が全てではない。青春を無駄にするな。友達を大切にしろ」等々、真剣に向き合えば思いは通じていくものである。生徒たちの中には農業に興味を持つようになり、農業大学に進学した者もいれば、後で家を訪ねて来てふれあいができたケースもあるという。
 さらに特別養護老人ホームの施設長である比嘉克子さんにも話をうかがった。ホームには宮農だけでなく他の中学や高校からも生徒が実習に来る。が、生徒たちはお年寄りと接する機会が少ないため最初はこわごわで、慣れて来た頃に実習が終わるという現状だそうだ。事前学習を施設と学校がどのように分担すべきか、また教員の負担など課題もあるが活動がもっと深く広がっていってほしいものだ。
 このような温かな環境で育てられた生徒たちの中には「Bio-P」という有機肥料を開発し、地下水の保全を図るという活動をしている者、あるいは「ひまわりの会」というボランティアクラブで地域に根差した福祉活動に励んでいる者もいる。卒業後Uターンして島に戻る生徒の割合は多いとはいえないが、豊かな自然と人情とに育まれた生徒たちのやさしく穏やかな心がある限り、この島の未来はきっとマリーゴールドのような輝かしいものとなるだろう。
 
生徒が開発した環境にやさしい肥料
コラム
「総合的な学習」とモチベーション
 小中学校での「総合的な学習の時間」が実施されてから約1年。地域の方を講師として招き、教員だけでは対応できないような多彩な内容の授業を行っている学校も多い。取材に行っても、生徒たちが伸び伸びとした表情で学ぶ姿をよく見ることができた。今後も順調に進んでもらいたいと願うが、気が付いた点が一つ。講座全体が活気に溢れていた学校は、ほとんどの教員が自分がまず楽しんで授業に参加していた。逆に講師主導で、教員が一歩引いた様子で参加していた所では生徒も学習に乗り切れていない雰囲気があった。児童生徒の希望、地域の講師の意向、教員の意向、この3つを上手く調整しながら内容は決定されていくと考えられるが、カギは教員の乗り気、前向きな態度ではないだろうか。
 よく陥りがちなことにこんなことがある。「この内容は素晴らしいからぜひ授業でやるべきだ」との総論で一つの講座が設置される。しかし担当教員を決めるときになると誰も手を挙げない。仕方なく何らかの方法で担当が決まる。仕事になった以上やるべきことはやるのだが、さてこの担当者のモチベーションは・・・。たとえどんなに素晴らしいテーマを掲げた授業であっても、それを進める教員が興味を持って取り組めるものでない限り、通り一遍になってしまい、工夫も発展も期待できないだろう。子どもたちの先頭に立つ教員がしっかりとしたモチベーションを持てる授業が、「総合的な学習」には求められるのではないだろうか。
(飯村 薫)







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