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特集 新しいふれあい社会を考える
特集 子育て家庭を地域で支えよう
ストレスをため、孤立する母親
(取材・文/阿部 まさ子)
 
 核家族化が進み、子育て中の親同士が知り合う機会もあまりない。
 乳幼児と接した経験がまったくないまま親になった人も多く、「子どもは可愛いけれど、たまには一人になりたい」と思っても、頼みとする夫は長時間仕事に拘束されて帰宅が遅く、育児の相談をしようにも話し相手になってもらえない・・・。
 育児放棄、幼児虐待が社会問題化している中で、行政、NPO法人、ボランティア団体、町内会等による子育ての支援が各地で広がっている。
 札幌、東京・練馬、さいたまの子育て支援の現場を紹介しよう。
市が独自に子育て支援事業 札幌
 札幌市は全国の政令都市の中でも少子化と核家族化が際だっている。同市の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)は1.05で、東京都区部に次いで低く、少子化が急激に進んでいる。また、就学前の子どものいる家庭のうち核家族世帯は93%を占め、祖父母と同居している家庭は1割に満たない。この核家族世帯のうち妻が専業主婦の家庭は約7割(2000年度の国勢調査より)、0〜2歳児の約9割が家庭で母親に育てられており、保育園を利用しているのは1割強である。
 身近に相談相手もなく一人で育児を背負う母親にターゲットを当てて、札幌市は市の単独事業として1997年4月より地域子育て支援事業を開始した。当初の事業内容は、あそびの広場(サークルづくり)、サークル支援、子育てサロン(親子が共に交流する場)、子育て相談などで、翌年には子育て支援検討会議も開始され、99年度からは子育てボランティア講習会も始まった。
 「子育て家庭への直接的な支援として、交流の場の提供やサークルづくりのお手伝いなど、子育ての仲間づくりを積極的に進めてきた」(児童家庭部子育て支援課)という市では、全市の保育士500人のうち80人を子育て支援担当に当て、子育て中の親への支援と子育てボランティアの養成など地域への働きかけを行ってきた。
 初年度から継続している子育てサロンは移動バスに玩具や絵本を乗せて市内の児童会館を巡回、親子が一緒に楽しむ場を提供するもので、2001年度は市内の100の児童会館で通年実施された。1年の約半分は外遊びができない北国の子どもたちと母親にとって、定期的に回ってくる子育てサロンは他の親子とふれあう絶好の機会なのだ。
 子育て支援事業開始から5年が経ち、こうした市の取り組みは少しずつ地域に根付き、2002年度からはふれあいの場の運営が行政主導から地域の自主運営に移行しつつある。運営の形態は、児童会館、福祉のまち推進センター、社協、町内会などが主催し、これに子育てボランティアや主任児童委員などが協力するかたちで、地区の児童会館やコミュニティセンターを会場に週1回から月1〜2回の日程で開かれている。
 
(上)ボランティアさんと折り紙
(下)児童会館のホールは親子づれでぎっしり

「歌のお兄さん」は鍼灸師さん
 
仲間づくりをボランティアが支援
 札幌市東区の北光児童会館。ここでは毎週水曜日に「おやこのひろば・バンビちゃん」が、北光児童会館と子育てボランティア「バンビちゃんズ」の共催で開かれている。
 暖かい日が続いて前週までの雪が溶けた水曜日、40組94人の親子が集まってきた。対象は0歳児から就学前の子どもとその家族。時間は午前10時から11時半まで。受付で親も子も名札を付け、あとは自由遊び。ブロックを積み上げて遊ぶ子、おもちゃの電車を走らせる子、ボール投げをする子、そして子どもの相手をしながらおしゃべりを楽しむ母親たちで児童会館のホールはぎっしり。母親に抱っこされて眠っている赤ちゃんもいる。
 2人のお母さんに話を聞いた。
「うちにいると子どもとしか口をきかないので、ここで大人と話ができるのがうれしい。いろんな情報も耳に入るし」
「午前中ここで遊んで帰ると、午後はぐっすり昼寝してくれるので、ほっと一息、自分の時間が持てます」
 北光児童会館の小笠原美幸館長は、「登録している親子は170組に上ります。子育ては仲間ができると楽になるのではないでしょうか。みなさん、帰りの時間が過ぎても話し込んでいらっしゃいます」と母親たちの様子を話す。ここで知り合い、家が近いことがわかって行き来するようになることもあるそうだ。
 この日のボランティアは3人。佐々木直子さんは高校生と小学生の2人の子どものお母さんで、下の子が小学校に上がった年に子育てボランティアの講習会に参加した。この日は次週に使うお店屋さんごっこの品物を子どもたちと一緒につくった。森野寿美子さんはこの地区の主任児童委員も務めている。1人でも多くの若いお母さんたちと顔見知りになりたくて、家業の合間に自転車を飛ばしてやってくる。久永浩二さんは児童会館の近くで開業している鍼灸師さん。会の終わりにはギターを抱えてみんなの前に立ち、ミユージシャンに早変わりする。子どもたちには「歌のお兄さん」で通っている。母親たちとは同世代、「お母さんにエールを送る歌を歌います」とマイクで語り、盛んな拍手を浴びていた。







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