喜・涙・笑 ふれあい活動奮戦記
在宅生活をトータルでサポートできるような支援体制をつくり上げたい
NPO法人ホームヘルパーノア(北海道)
NPO法人ホームヘルパーノア
「先日、奥様を亡くした方が、寄付金とノアの活動インタビューが掲載された記事のコピー20部ほどを持って、四九日の法要を過ぎた頃に事務所を訪ねていらしたんです。うちでは当事者からは寄付金はいただかないことにしているのでそちらのほうはお返ししたんですが、“ノアの存在を知らない人にぜひ、配ってほしい”と渡してくださったコピーのほうはありがたく頂戴しました。こんなふうに、サポートをさせていただいたご家族の方は、必ずといっていいほどご挨拶に見えて、亡くなった時の状況などをあれこれお話になります。きっと、共に手を携えて介護を尽くした同志という思いを抱いているんでしょうね。そういう形で感謝の意を表してくださることは、活動の何よりの励みになります」
こう語るのは、「ホームヘルパーノア」の発起人であり、事務局長を務める澤出桃姫子(ときこ)さん。話を聞くそばから、仕事を終えて家に戻るヘルパーさんたちに声をかけ、次々とかかってくる電話の応対をするという忙しさ。実にパワフルで、元気な人である。
利用者さんとのもみじ狩り(朝里湖にて)
義母の介護の失敗に学びNPOの世界へ
澤出さんが在宅介護の問題に目を向けるようになったのは、義母の介護がきっかけだという。
「衰えが進む主人の母を迎えるに当たっては、階段の昇降機を特注するなど家を改装してバリアフリーにし、できる限りの環境を整えたつもりでした。ところが、“いい嫁”をしようと、私が尽くせば尽くすほどに空回り。義母の心身の状態はどんどん悪化し、結局、3か月で夫の弟のところへ行ってしまったんです。いったい自分の介護の仕方のどこが悪かったのか、どうすればよかったのか・・・。その理由を知りたい一心で、ホームへルパーの2級と1級の講座を受講。その研修過程で心理学などを学び、ハッと気づかされたんです。問題は精神的なところにあったのだと」
義母はそれまでの生活から切り離され、寂しい思いをしていた。それによって澤出さんへの依存が高まり、互いに悪循環に陥ったのが原因だったのである。
「介護をする上では、当人の尊厳はもちろん、介護する側の尊厳も守らなければうまくはいかないんですね。そこを補い、介護される人の尊厳を守るためには、客観性を持ってサポートすることができる第三者の存在が必要なんだとわかった時、迷わず、助け合いの組織をつくろうと決めました。ちょうど子育ても終わり、残りの人生は何らかの社会貢献をすることで生きがいを見つけたいと考えていたところでもありましたから」
こうして99年5月に「ホームヘルパーノア」を設立して有償ボランティア活動を開始し、2000年2月にはNPO法人を設立。同年4月に介護保険制度がスタートしてからは、介護保険の枠外と枠内との2本柱で活動を展開している。
活動範囲は拠点のある札幌市厚別区青葉町内だが、同地区は65歳以上の高齢者世帯が半数を占めるという市内でも一、二を争う高齢化率の高いところ。ニーズの高さもあってまたたく間に組織は拡大し、現在は利用者180名、ヘルパー40名の計220名となった。
介護保険で財政基盤をつくり支援体制を充実
そんなノアの最大の特徴は、「介護保険で得た利益をボランティア事業に回すことで、在宅生活をトータルでサポートする」という姿勢にある。
「NPOであっても、行政からの助成や寄付を当てにせず、自立していくには介護保険事業への参入は不可欠だと考えています。また利用者にとっても、NPOが介護保険事業を行うメリットは大きいのではないでしょうか」と澤出さんは言う。
その理由として挙げられるのは、介護保険のほうが、利用者の金銭的負担が軽いこと。特に少ない年金でギリギリの生活をしている人などは、介護保険に頼らざるを得ないという現実がある。そこでノアでは、介護保険で賄える部分は保険を使い、賄い切れない部分は引き続き有償ボランティアで対応しているが、枠内・枠外を問わず同じヘルパーが対応するため、利用者に混乱をきたすことなく、質の高いサービスが提供できるのだという。
「介護保険から続けてサービスに入る場合、利用者からいただくのは利用料金900円(1時間当たり)だけですが、サポート内容は一緒なので、実はヘルパーさんには介護保険報酬と同じ金額を支払ってるんです。だから、会としては有償の部分は完全な赤字なんですが、それでもいいと思っています。こうした継続した支援体制が取れるのは、NPOならではですからね」
また、移送サービスも無料ならば、ヘルパーやケアマネジャーが各地で開催される研修会に参加する際の費用もノアで全額負担。さらには本当に生活に困っていたり、緊急サポートの必要がある人に対しては、状況によっては無償のボランティアで対応することもあるという。
「重度身体障害者やターミナルケアなど、法の狭間にあってどこも引き受け手がないようなケースが次々と持ち込まれますが、どんな難題であっても、いったん引き受けた以上は最後まで責任を持って面倒を見るのがモットー。こうした無理がきくのも、すべて介護保険報酬という財政基盤があってのことなんです」
かりんの森の冬
「花梨の森」。利用者さんと食事
「ある日の食事内容です」
看護師さんがお年寄りのインフルエンザ予防注射後の様子を見守る
|