今 心の教育を考える
(取材・文/飯村 薫)
部活動から広がるボランティア活動
啓明女学院高等学校(兵庫県神戸市)
神戸市須磨区の啓明女学院高等学校。部活動が中心となり、多くの生徒がさまざまなボランティア活動に参加している。
「何て話しかけたらいいんだろう」
「失礼なこと聞いちゃったら大変だなぁ」
学校の近くにある高齢者施設に向かう高校生たちは不安げな様子であった。それから数十分後、すっかり打ち解けた表情で利用者の方と一緒にカラオケをしたり、楽しそうに話をしている彼女たちの姿が見られた。「高校生が来ると、利用者のとっても明るい笑い声が出てくるんですよ」と職員の方が説明してくれた。あっという間に時間は過ぎ、互いの名前を教え合い再会を約束してこの日の訪問は終わった。
この活動を始めたのは昨年11月から。25名の生徒が交代で週に4日、1回4〜5名で放課後に訪問している。メンバーの半数はYWCA部、残りはこの活動の呼びかけに賛同した生徒である。YWCA部は1953年に発足、86年に神戸ハーバーロータリークラブをスポンサーに迎え、インターアクトクラブ(IAC)としても活動をしている。地域社会に奉仕し国際理解を推進することを目的として同校の福祉・ボランティア活動の原動力となっている。
同校では幅広い活動が行われているが、海外と結び付いたものが多いことに特徴がある。卒業生がいるフィリピン・ミンダナオ島への文房具や玩具などの寄贈、卒業生の体操服・運動靴を海外に贈る活動、ネパールの小学校の給食援助のためのテレホンカード収集、チャイルド・スポンサーとしての活動などである。チャイルド・スポンサーとは国連世界保健機関(WHO)に公認されたプログラムで、発展途上国の子どもを個人あるいはグループが子ども1人について月額4500円支援するシステム。同校ではタイとフィリピンの2人を支援しており、募金箱を校内に設置したり希望者に配布している。多くの生徒・職員が協力しているという。また毎月学校の近隣の駅前での街頭募金も行っている。
一方、福祉体験学習や須磨海岸クリーン作戦への参加、駅頭でのあしなが学生募金の実施、施設訪問など地域での活動も積極的に展開している。95年の阪神・淡路大震災以降、長田地域に住む外国人住民に対して文化情報を多言語で発信し続けている地元のFM局での番組制作にも参加している。
これらに新たに加わったのが冒頭に紹介した高齢者施設訪問。学校の最寄り駅近くにある施設で、放課後の1時間半ほどの時間を高齢者と話しながら過ごす。今までの施設訪問が年に数回の行事的なものであるのとは異なり、ほぼ毎日の活動となる。生徒の負担は大きくなっているのではと思ったが、個々の事情に合わせて日程を組んでおり、1人の活動ローテーションとしては2週間に1回ほどとなっている。
YWCA部はこの取り組みでも中心となっているが、震災以前は地域に積極的に出かけて活動することはほとんどなく、校内で絵本を作ったり点字の訓練をすることが多かったという。転機となったのは震災後、学校の近くの仮設住宅の住民たちとの交流であった。
月に1度の昼食パーティーや生徒たちの演劇などを楽しむお楽しみ会などを通じてふれあいが始まり、毎日のように放課後仮設住宅を訪ね、学校や進路、恋愛のことなど家族や教員にも話さないことを相談するまでの関係に深まっていた。生徒たちがそれまで以上に生き生きと活動する姿を見て、地域での活動の大切さを感じたと同部顧問の藤川勝洋教諭は話している。
仮設の住民から聞いた犬の話を題材に絵本を作ったところ、毎年応募していた兵庫県芸術文化センター主催の手作り絵本展で優秀賞を受賞、またこの交流自体も「ひょうごボランティア賞」を受けることになった。仮設住宅の閉鎖とともに交流は終わったが、その経験が今回の活動の支えになっているに違いない。
校内に福祉・ボランティア活動を行う部活動や委員会がある場合、そこに任せておけばよいという傾向が強く活動の輪が広がりにくい。そのような中で、部活動の生徒たちを中心としながらも、多くの生徒が参加している同校のスタイルは貴重なものだろう。今後も着実に活動が継続されることを期待している。
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(上)駅頭での募金活動
(下)さわやかに校歌を披露 |
コラム
ボランティア体験で得たもの
愛知県東海市は教育研修が活発である。私もこの夏休みに「NPO法人たすけあい遠州」で福祉体験をした。
もう一つの心安らぐ家という意味で名付けられた「もうひとつの家」には、朝からお年寄りたちが訪れ、ゆったりと過ごしている。日替わりの「お母さん」たちは、その日の顔ぶれを見ながら昼食作りに腕を振るう。その間、外出介助の依頼電話がひっきりなしにかかり、スタッフは時計を見ながら飛び回っている。いったいこの「家」には何人の人がいるのだろう。決して時間に余裕のある人ばかりでない。学校では、「忙しい、忙しい」という言葉が飛び交っているのに、ここでは、誰もが限られた時間の中で、自分にできる活動をしている。
外出介助の車に同乗した折、90歳に手の届くご婦人が、「遠州の方には元気をいただいています」と言われた。こういう言葉が、スタッフの人には何よりの喜びなのだろう。お年寄りに対してスタッフは愛と尊厳を持って接し、お年寄りもスタッフに愛と尊厳の言葉を返していた。
これまで私は、「ボランティアとは・・・」「福祉とは・・・」と子どもたちに知識を教えてきたように思う。でも、次の施設訪問では、子ども達にそこにいる人と人との接し方、ふれあいを見て、感じてほしいと願っている。
(愛知県東海市立加木屋南小学校教諭 花房美砂子)
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