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情報誌「さぁ、言おう」 2003年2月号

 事業名 高齢者のためのボランティア普及啓発活動
 団体名 さわやか福祉財団 注目度注目度5


消防団の施設を活用しデイサービスを
 遠野市の高齢化率は28.5パーセント(2001年9月末現在)に達し30%の大台乗せは秒読みの段階。いち早く高齢化対策に取り組んだ市は第1回在宅介護サミットの開催地を引き受けるなど在宅ケアに取り組んできた。たとえば寝たきり老人の在宅健康診断を昭和60年(1985年)に全国に先駆けて開始した。寝たきり老人の自宅にポータブルのエックス線撮影機を持ち込むことは違法だと「待った」をかけた当時の厚生省を説得して実施にこぎ着けた。これは県立病院とスクラムを組んで得た快挙である。
 縦割り行政に風穴を開ける「在宅」優先の姿勢は、その後も貫いている。たとえば消防予算で設けられたコミュニティ消防センターでのサテライトデイサービス「ふれあいホーム」。消防センターに併設された座敷を活用する。掛け軸がかかる床の間を設けた座敷はお年寄りには馴染みやすい。雪模様の朝、その一つを訪ねると徒歩や送迎車で22人のお年寄りが集まってきた。保健師が血圧や体温などのバイタルチェックをする間も遠野弁が飛び交い、世間話に花が咲く。
 お世話役は20代と中年の保健師、2級ヘルパーら市と遠野市社会福祉協議会の職員3人だ。黒一点の男性の利用者(83歳)に「女性ばかりの中に男一人で気後れしませんか?」と聞くと、「いろいろな人に会えるから楽しくぼけ防止になります」と屈託ない。
 
消防コミュニティセンターはデイサービスの会場。地域資源を多角的に活用するのが遠野市の介護予防の特徴の一つ。外観は粋なデザインだ

「今日の血圧はどうかしら?」。消防コミュニティセンターの座敷で開かれる元気老人のための「ふれあいホーム」
介護予防の拠点を市内全域に
 遠野市は介護保険のスタート前に介護サービス提供体制の整備を終えていた。「今の最大の課題は介護予防」(佐藤民生部長)である。その核となるのが生きがい活動支援事業。その柱がデイサービスセンターと主に消防コミュニティセンターで実施する「ふれあいホーム」活動だ。後者は早池峰山麓の奥地まで市内全域22か所で実施。運営は社会福祉協議会に委託している。平均月2回、利用料は1回500円だが、天気が良ければ遠足にも行くなど福祉っぽくない自由さが受け、回数を増やしてほしいと要望されている。介護度が上がり施設介護が必要になっても施設に行かず「ここの方がいい」と居座るお年寄りも現れた。
 「ふれあいホーム」にはボランティアも参加している。その一つ「こがらせ園」はデイサービスセンターの座敷を借りて一人暮らし、老夫婦二人暮らしや日中独居のお年寄りを招いて月2回開く。保健師のバイタルチェックと昼の食事のほかは自由。お年寄りたちは「呆けない小唄」を歌ったり昼寝をしたりおしゃべりをしたりして気ままに過ごす。伝承園でウマッコを作るスマさんはここの常連だ。
 過疎地の商店街は寂れる一方。遠野市の中心商店街もご多分に漏れずショッピングセンター「とぴあ」のキーテナントが撤退。商店の多くが終日店を閉めたままの“シャッター通り”に閑古烏が鳴いていた。そこで市は士地ごと建物を買い取り2002年12月1日、中心市街地活性化センターとしてリニューアル・オープンした。国の市街地救済補助制度の適用第1号プロジェクトである。このとき設計段階から2階に500平方メートルの市民交流ホールを確保し、「老人いこいの家」を設けた。ここで市、ボランティア、社会福祉協議会、老人クラブによって高齢者サービスを実施するためである。
 このプロジェクトを陣頭指揮した菊池新一商工観光課長は農水省の施策であるグリーンツーリズムも福祉のインフラづくりとして活用する。グリーンツーリズムとは、旅館・民宿・農家民宿に泊まる都会人に土地の仕事や伝統行事などを実際にやってもらう体験型レジャー。遠野では農作業だけでなく炭焼き、しし踊り、渓流釣り、手機裂き織り、蕎麦打ち、ワラ細工など伝承技能を絡ませている。これらのインストラクターには地域のお年寄りに一役買ってもらっている。これもお年寄りの役割と生きがいの発見となり、結果的に介護予防に役立つ。
 
在宅介護先進地の基礎になった遠野市の寝たきり老人の在宅健診は県と市、医療と福祉の垣根を超えて取り組んできた画期的な住民サービスである
地域ぐるみの「産業福祉」を先取り
 菊池課長のもう一つの顔はグリーンツーリズム研究会の事務局長。会員は20歳代から70歳代の男女で、うち半数は都会から遠野に移住してきた「風の人」。そんな幅広い人脈が視野を広げるのだろうか、グリーンツーリズムを地域の住民と都市の住民が農業・畜産・伝承芸能・技能などを通じて個人レベルで交流する営みと位置付けている。キーワードは「個人主義」。グリーンツーリズムが都市の個人と農村の個人をつなぐ村起こしだとすれば、その理念は「家」よりも「個人」にべースを求め、「個人」の自立を支援する介護保険の理念と共鳴する。菊池課長は農林課長や福祉課長も経験してきただけに発想が幅広い。まぶりっと衆からグリーンツーリズムまで広がる多彩な遠野の地場産業振興策は、個人主義をべースに縦割り行政の垣根を取り払って行う農村都市ならではの「産業福祉」だ。
 課長自身も農家である実家に旅行者を泊め、高齢化した両親の農作業を手伝ってもらうグリーンツーリズムを実践した。よそ者を避ける老人の抵抗感を和らげ、いずれ老親にホームヘルパーの支援が必要になったときスムーズにホームヘルパーを受け入れるための準備である。
 竹内孝仁日本医科大学教授の言葉を借りれば介護予防とは「閉じこもり予防」のこと。発想の閉じこもりが地域福祉の開花を妨げてきた。厚生労働省老健局の通知(2001年5月)には「高齢者が家庭・地域・企業社会の各分野で、豊かな経験と知識・技能を生かし(中略)高齢者の生きがいと社会参加を促進するとともに、家に閉じこもりがちな一人暮らし高齢者等に対し、様々な施設を活用し、(中略)社会的孤立感の解消及び自立生活の助長を図る」こととある。
 「通知」には「文化伝承活動」のほか「木工・園芸・手芸等の生産・創造活動の振興」も含まれている。また「学校の空き教室、農林漁業関係施設、さらには地域の優れた人材等、既存の『人、物』を有効に活用」することを奨励している。遠野市のように個人をべースに縦割り行政を超えて取り組む「産業福祉」は国の趣旨にも合っているようだ。山崎史郎厚生労働省老健局計画課長(当時)は雑誌の介護予防に関する座談会でこう語っている。「各市町村が地域の状況に応じてテーマを見つけて、自分たちのわかる言葉で自由な形で政策や事業を組み立てていくことが大事です」(『介護保険情報』2001年7月号)。
 介護保険がスタートして今年で満3年になる。早くも制度改革が叫ばれているが、長い目で見れば、お年寄りが介護保険の厄介にならないようにすること、つまり介護予防のほうがもっと大事だ。かつて介護保険は地方分権の試金石と言われたが、介護予防は市町村の知恵比べ。発想の規制緩和なのである。







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