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情報誌「さぁ、言おう」 2003年2月号

 事業名 高齢者のためのボランティア普及啓発活動
 団体名 さわやか福祉財団 注目度注目度5


特集 新しいふれあい社会を考える
地域ぐるみで介護予防・生きがい支援
観光・商業・農業を総動員して取り組む民話の里
岩手県地方独特の人馬共住家屋「曲がり家」(遠野ふるさと村)
 
岩手県遠野市
 民俗学者・柳田国男の『遠野物語』で知られた岩手県遠野市は、いち早く在宅介護に取り組んできた介護先進地だ。
 介護予防・生きがい支援への取り組みも全国に一歩先んじている。
 観光、商業、畜産・農業に及ぶまで地域産業を「福祉」の中に取り込む「産業福祉」の形で高齢者の生きがいづくりと介護予防の輪を広げている。
(取材・文/尾崎 雄)
民話の里を支えるお年寄り
「まぶりっと」衆
 「民話の里」遠野市の観光スポットはたくさんあるが、お勧めは「遠野ふるさと村」。茅葺き屋根の農家が散在する農村風公園だ。日本の原風景を偲ばせる農村のたたずまいを再現した一種のテーマパークだが、バブル開発の遺産のごとく全国に乱立した○○ランドとは異なり、お金を取って遊ばせる乗り物や見世物など商魂たくましい施設はひとつもない。見どころは近郷から移築した曲がり家。住宅と馬小屋を鈎(かぎ)の手に連ねた岩手県地方独特の農家だ。馬小屋には半地下式のへっついがあり、大きな馬釜(まがま)がかけてある。これで昔は農家の主食であるヒエを茄でたりマグサを温めたりしたという。座敷に上がるとお年寄りたちが3人、コタツにあたっていた。「まぶりっと」(守人)の方々だ。遠野郷の人々が先祖代々営んできた村の暮らしや生活工芸・伝承技能を守り、それらをこの「村」で実演し、その手技(てわざ)を観光客に伝授する。
 
 その一人は井出林蔵さん、81歳。遠野を代表するキャラクター、木彫りの河童を日がな一日作っている。もう一人の男性は蕎麦などをすくう柄のついた小ざるを竹細工で作る。冷たい金属やけばけばしいプラスチックの素材ではない得がたいぬくもりがある。女性は手打ち蕎麦の名人だ。ほかにも門松作り名人、竹とんぼ名人、地元野菜の漬物名人や田舎菓子の名人ら古き良き生活文化を伝承するまぶりっとが30人。交代で曲がり家に“通勤”し、馬釜に火を入れ、軒先でそれぞれモノを作り、観光客に売る。毎日、馬釜の湯を沸かすために焚く生木の煤が茅葺き屋根をいぶし曲がり家の保全に役立っているから、彼らは文化財の守り人の大役も果たしている。
 まぶりっとのグループ「まぶりっと衆・早池峰の会」は2002年10月、農山漁村女性・生活活動支援協会の農山漁村いきいきシニア活動表彰の優秀賞(農林水産省経営局長賞)を受けた。
 
曲がり家の縁側で民芸品を売る「まぶりっと」
現金収入の手応えで生きがいを実感
 もう一つの観光スポット「河童淵」の近くにも「ふるさと村」をコンパクトにした「伝承園」があり、近所のお年寄りたちが世間話をしながら、ひねもす伝承工芸の人形や生活用品を作ったり、手機を操ったりする溜まり場になっていている。最高齢の女性は立花スマさん、89歳。口数は少ないが手先はしっかり。得意技はウマッコつくりだ。わらを編んで作る小さな馬の人形「南部駒」である。作ったウマッコは土間に並べて観光客に売る。民芸品を媒介とした観光客とのやり取りはスマさんの健康長寿を伸ばす刺激になっているに違いない。
 81歳の似田貝ツヤさんの特技はイズコを編むこと。イズコはワラの芯に蒲(がま)の葉を巻きつけて作る生活民芸品だ。蒲の葉は河原に行って採取するから自然と足腰が丈夫になる。80歳の川前シメさんは、おしゃべりをしながらトントンカラリと絹布を織り、小遣いを稼ぐことが生きがいだ。手機は遠野郷の女性なら娘時代に身につけた生活技術だったが、人口2万7000人の遠野市でそれができる人はシメさんともう1台の機械で木綿の裂き織りをする77歳の立花コトさんのほか数人足らずに減ってしまったという。
 
川前シメさん(80歳)の生きがいは「伝承園」で毎日、手機を織ることだ
 
観光客とのふれあいが長寿をもたらす(伝承園)
 
 JR遠野駅の隣やホテルなどには民話を観光客に語り聞かせるスポットがあるが、そこの語り部に正しい遠野弁の民話を伝承する師匠も土地の古老である。
 ふるさと村や伝承園に集うお年寄りたちはそれぞれの手技を生かしたモノを観光客に売って小遣いを稼ぐ。シメさんの稼ぎは多いときは月に10万円にもなるとか。年間100万円も稼ぐ人もいるという。お金というリアルな手ごたえによって実感できる生きがいは介護予防の妙薬に違いない。
 妙薬の効用は他にもある。農業の一線から退いた岩間良平さんは69歳。市の高齢者肉牛貸付制度を利用して黒毛和種の雌を借り自宅の牛舎で飼っている。手塩にかけて子牛を産ませれば、市に返却する1頭分を除いて残りはすべて自分のものになる。産ませた子牛は10か月後に平均30万円、最高50万円で売れる。利用者は「毎年80人から90人。その8、9割は65歳以上」(遠野市畜産係の話)。地元の保健師によると「サラリーマンと同じように農村の男性も現役を引退すると一気に老け込むから、牛飼いは呆け予防のグッドアイデア」だ。
 ふるさと村や伝承園は遠野のお年寄りにとって、寄り合いの「場」、小遣い稼ぎの「場」、生きがいをつかむ「場」、そして社会参加の「場」。すなわち、お年寄りの「居場所」なのである。それを宅老所と見るかデイサービス施設と位置付けるか、シニアボランティアの溜まり場と呼ぶかどうかは自由だが、お年寄り自身が自分自身の生きがいや楽しみを自由に選べる「場」を数多く用意することが介護予防であることは間違いない。







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