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今 心の教育を考える
(取材・文/飯村 薫)
地域に根を張る ドリーム大学
長野県松本市立山辺中学校
 
 「私の悩みは、自分がどんな介護を受けられ最後にどんな死を迎えるかである。君たちは未来に夢を持ち自分らしく強く生きなさい」。このひと言が中学生を動かした。
 
 長野県松本市郊外の山辺中学校(生徒数304名)。2000年、高齢者を交えての授業の中で高齢者が語った冒頭の言葉に、生徒たちは「こんな大事な問題は僕たちだけでなく地域の人と一緒に学習しよう」「みんなが気軽に集まって楽しく学べる大学をつくろう」と考えた。これが「山辺ドリーム大学」の第一歩であった。
 全校生徒での討議、生徒の発想を中心として住民、PTA、職員が協議を重ねる「学社連携推進会議」の設置、住民が参加しての総合的な学習の時間の実施など、およそ1年間の準備を経て翌年6月に「ドリーム大学」が開学した。
 大学は温泉観光、郷土文化、地質、中国語、日本文化など17学科で構成され、総合的な学習の時間に開かれる。設置される学科は毎年生徒のアンケートにより決定される。大学運営はすべて生徒が担当、学長や学部長などが外部の方との折衝や連絡にあたっている。
 今年度、学科の講師28名を地域の方が担当、また受講生として282名の方(最高年齢82歳)が参加し、生徒とともに学習をしている。地域からの要望で、年3回、土曜日にも開講される。訪問した日、ゴスペル科の講座には、数名の方が生徒と一緒にステップを踏みながら楽しそうに大きな声で歌う姿があり、郷土文化科では生徒よりも熱心に(?)女性たちがワイワイとわらじ作りに励む姿が見られた。その光景はとても印象的であった。
 講義を通じて技能や生き方を学び、幅広い年齢層の中で学ぶ大切さを感じるなど生徒は大きな刺激を受けている。見過ごされがちであった地域の問題に自分で意識を持ち取り組むようになってきている。その一例が昨年7月に行われたぶどう園での体験学習である。
 地元のぶどう栽培農家の高齢化に気づいた生徒たちが、自分たちが協力できないかと考え、笠懸けや袋懸け作業を全校で行った。同じ地域に住む者同士が、心を寄せ合って生きていくことの大切さをわかり合ういい機会となったと、生徒も農家の方も感想を述べている。
 
ゴスペル熱唱
 
「うまく活けられた?」
 
 また、毎月松本駅前で行われる朝市で地域の方と一緒に地元産の農産物を販売する活動や、近隣のワイナリーでの手伝い、降雪時の独居老人宅や町内会の道路の雪かきなど、地域での活動に生徒は積極的に参加している。
 一方、地域にも大きな変化が現れている。開学2年目となった昨年は、大学の講師・受講生ともに倍増。共に学ぶことを通じて中学生が身近になり、みんなで挨拶をしようという「あいさつ運動」を始めた町内会があったり、年2回地区別公民館で実施される生徒との交流会に多くの住民が参加・協力するなど、学校の活動に協力する意識が強くなってきている。
 短い期間で地域の中の学校として生徒中心の活動が活発になった背景には、学校職員の真剣な支えがある。学校長はじめ職員が地域のさまざまな会合に精力的に参加、生徒の活動のきっかけになる題材を取材したり、講師や受講生の募集を呼びかけている。また、最低月に1度は学区内全戸に回覧板を回し、大学や学校の様子を知らせている。もっと地域を知りたい、もっと地域の人と触れ合いたいという触媒を生徒に播き、生徒の意欲を引き出すことに懸命に努力している姿勢が見られる。
 一時、学校開放を危惧する声もあったが、「しっかり開くことで地域の中に学校があるという意識を持ち、地域の方に学校をよく見てもらおうと継続してきました」と、取り組みを推進してきた小室教諭は語っている。「感性が土壌にあれば何かを感じ本気で勉強するようになる」と春日校長は話す。
 ドリーム大学を通じ着実に感性は生徒の中で育っている。生徒の夢は世界の学校とネットワークを結び「世界平和こども連合」をつくること。彼らの夢が実現する日を楽しみにしたい。
コラム
障害のある人たちの可能性を一緒に見つけましょう
 
 最近、児童生徒の商店や企業での職業体験が行われている。しかし、盲・聾・養護学校では、以前から職場での実習を通して就業意欲を高め、適性を見定め、場合によっては採用可否の判断が行われてきた。近年、知的障害児の事務系職務における実習の実施と、就職が増えている。さわやか福祉財団も、採用を前提としない「体験学習」として、知的障害のある3名の生徒を2週間ずつ受け入れた。
 3名は東京都青鳥養護学校高等部の2年生の栗山陽雄君と3年生の田中竜児君、中野倫之君である。3人とも最初は緊張していたものの、一緒にお弁当を食べるなどするうちに打ち解け、冗談を言い合ったり、趣味の話をしたりするようになった。
 仕事は、財団から送る資料の封入と発送、在庫資料の確認、パソコンのデータ入力等を行ってもらった。これらの仕事を、実に真面目に堅実にこなしてくれた。挨拶も気持ちがよく職場を和ませてくれた。事務職での就職を希望する3人の感想は、「言われた仕事は全部できました(栗山君)」「仕事をやり終えたときに充実感がありました(田中君)」「卒業後の進路に向けて力がわいてきました(中野君)」と、実に頼もしいものだった。
 皆さんの身近な場所でも、障害のある人たちとの活動の場をつくり、障害のある人たちとともに可能性を見つけてみませんか。
(伏見 明)







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