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われら地域市民
“子どもたちからの絵手紙は私の宝物”
三菱地所ゆうゆう倶楽部 樋口 政雄さん
 
 孫の通う小学校では仕事で得た知識をもとに町の開発の話を、桜見物で出会った小学生たちとは趣味を生かして写真やビデオでの交流と、定年退職後の人生をゆうゆうと楽しむのは樋口政雄さん。建築技術者として三菱地所に勤務し、主に都市開発の仕事を手がけた。定年退職後は、珍しいOBたちのボランティア団体づくりに張り切っている。
企業人の仕事で培われたノウハウを教育現場に生かすことは良い事ですね。地域の小学校との交流は、お孫さんの先生へのひと言がきっかけだったとか。
 80年代後半、新宿区百人町3・4丁目地区(東京都)の再開発計画の仕事に携わりました。25階建ての超高層住宅ビルが3棟建っており、私も現在この住宅に住んでいます。ある時、地域の小学校の先生から電話があり、授業で児童から「周りは低い住宅が多いのになぜここだけあんなに高い建物が3棟も建っているのですか?」といった質問があったが私もわからないので教えてくれませんか、と孫を通して依頼がありました。
 どうして私に?と聞くと、その小学校に通っている孫が、「うちのおじいちゃんがここの建設をやったみたいだよ」と先生に言ったという。酒の一升ビンが入っていたダンボールの空箱で高いピルの模型を作り、学校へ出かけました。敷地内に避難広場などの広い空地を確保するためにビルの高さはこのくらいにしたとか、周辺建物への日影の影響を配慮して棟間のすき間を空け、3棟として建てたとか、昔の経験や知識を思い出しながら説明しました。
 子どもたちも納得したようで、私の経験や知識が少しですが教育に役に立ったのはうれしいことです。ただ、小学生にやさしく説明するのには苦労しましたね。こんなかたちで地域のお役に立てるならこれからもやりたいですね。先生にも、今後、建築関係でわからないことがあったら、いつでも言ってくださいと話しておきました。
 
その人柄で子どもたちを温かく包む樋口政雄さん
4年間続いた長野県の小学生との交流、いい話ですね。たまたま撮ってあげた記念写真がきっかけだったと聞きました。
 98年の春、長野県の高遠(たかとう)へ桜見物に出かけました。そこへ高遠小学校の2年生40名が遠足に来ており、彼らが揃って弁当を食べている風景を写真に撮った後、別の場所に移動しました。しばらくすると彼らもやって来ました。再会での気安さから皆の集合写真など何枚かの写真を撮ってあげたのです。後日、写真を送ってあげようとしましたが40名全員に送ってあげるわけにもいかず、ビデオに写真と声の便りを入れた“ビデオレター”として学校に送りました。先生の熱意にも惹かれ、これをきっかけに私と学校とでいろいろなやりとりが始まったのです。
 東京の隅田川の橋の写真や新宿の夜景などを撮ったビデオレターを送ったり、児童からは作文集や絵手紙が来たりと、昨年春の卒業までの4年間にわたる交流が続きました。
 横浜のランドマークの写真を送ったところ、修学旅行でぜひ見たいという児童の希望が多いので、と先生に頼まれ案内したこともあります。全くの偶然からですが、いっきに40名の孫ができた思いです。
 
樋口さんは2001年12月の三菱地所OB会「ゆうゆう倶業部」の設立に尽力、そこに社会貢献部会という退職者のボランティア活動を推進する組織をつくった。OB会のボランティア組織は珍しいのでは?
 OB会というと囲碁、ゴルフ、旅行などの会が多い。もちろん「ゆうゆう倶楽部」にもこうした会はありますが、ボランティア活動の会というのは珍しいと思います。社会貢献部会をつくったのには2つの理由があります。
 一つは、OB会設立にあたり、退職者にどんな活動がしたいかというアンケートを行った結果、240名のうち50名がボランティア活動をやりたいという意外に多い回答があったこと。もう一つは、三菱地所にはすでに社会環境推進室という組織があり、現役社員のボランティア活動を支援しています。社員のボランティア活動も行われていますが、仕事をしながらなのでなかなか時間がとれず、人もあまり集まらないのが実情です。会社も社会貢献活動の意義は十分認識しており、ボランティアの灯を消したくないので退職者の力を貸してもらえないか、という要請が社会環境推進室からあったことです。
現役の企業人と退職者が一緒になってボランティア活動をしている訳ですね、どんな活動を?
 たとえば、会社は目の不自由な方々へ毎年定期的に「野鳥と自然の便り」というテープを送っています。社員が野鳥の声を録音し解説を入れて作りますが、そのテープを梱包し1400人の方々に発送する作業をOBが手伝っています。
今後の課題は何でしょうか?
 退職者の居所がバラバラなので複数の人が一緒に活動することに限界があります。また、年齢や体力などに配慮しなければなりません。従って、会員に関する情報、たとえば通える範囲・特技・健康面・家族状況・地域で個人的にやっているボランティアなど、プライバシーに配慮しながらかなり細かく把握していくつもりです。と同時に、幅広く地域情報を収集し会員へ頻繁に提供すること、会員相互の情報交換の場として十分機能するよう努力しなければなりません。これからが大変です。
 
子どもたちから届いた絵手紙
コラム
 ボランティア活動をやる“きっかけ”となるものは日常いくらでもある。樋口さんの場合、その“きっかけ”はお孫さんのひと言や先生の熱意だった。知識や趣味を人のために役立てたいという気持ちを常に持っていたことが、“きっかけ”を生かして素直に行動につながった。ボランティアの原点を樋口さんの体験が教えてくれる。







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