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グループホームの窓辺で
まるで姉妹のように
66歳から94歳まで
 幹線道路から少し入った小路に、目指す2階建ての家はあった。周りは民家やアパートの間に家庭菜園が点在する静かな住宅地だ。
 「ここに来て10年になりますよ。今はもう足腰が弱ってみんなのお世話になるばかりでね。日中はデイサービスに行ってます。車イスで散歩するのも楽しみね。家の周りを一周してくると、ほんとに気持ちがせいせいしますよ」
 そう話すTさんは86歳。散歩もいつも連れ立って出かける仲良しのKさんは91歳。共にグループホームの2階に住んでいる。足が達者なKさんがTさんの部屋に遊びに来ることもしょっちゅうだ。
 このふれあい型グループホームには、TさんとKさんのほかに3人、合わせて5人のお年寄りが暮らしている。年齢は66歳から94歳まで。全員が女性だ。
 1階に60代の2人、2階に80代と90代の3人が、それぞれ6畳ほどの個室で寝起きし、3度の食事は1階の食堂で一緒にとる。2階に住む足の不自由なTさんのために、階段には昇降機が取り付けられている。
60代が食事の用意
 「食事係はもっぱらSさんと私の仕事。お料理するのが好きだから楽しいわよ。食べた後の片付けは2人ずつお当番でやってます」
 68歳のMさんと一番年下の66歳のSさんが台所を切り盛りする。朝はご飯とみそ汁、納豆、海苔、梅干しなど純和風。夕食は魚か肉の主菜に野菜のお浸しや煮物など。
 「みんなに何が食べたい?って聞くんだけど、みんな『いつもおいしいものを食べさせてもらってるから、別にない』って。言ってくれたほうが作りやすいんだけれどね」
 食材は以前はMさんが自転車で買い出しに行っていたが、今は肉屋、魚屋、八百屋それぞれに電話で注文して届けてもらっている。これで買い物の重い荷物から解放されて、ずいぶんラクになったという。
 食材を電話で注文するようにしたもうひとつの理由は、このグループホームの1階で経営者Oさんがデイサービスを始め、昼食用の食材が大量になったためだ。デイサービスの昼食作りもMさんが請け負っている。デイサービスの人もグループホームの5人も一緒にお昼を食べるので、20食余りを作ることになる。
 「大変ね、って言われるけど、誰かのお役に立てることって幸せだなあと思うのね。ここに来るまでは、独りでいることにほとほと嫌気がさして、誰かのいるところで暮らしたいって心底思ってましたから」
ヘルパー資格を取得
 Mさんは定年までデパートで働いた。洋裁の技術もあり、定年後は人に頼まれて洋服を縫ったりもしていたが、一日中誰とも口をきかずに、家にこもって針を動かす生活に、だんだん耐えられなくなっていった。気晴らしに昔の職場を訪ねても、みんな忙しそうに立ち働いている。場違いな自分を感じるばかりで、いっそう気持ちが落ち込んだという。
 「ほんとにもう独りがイヤになっちゃって、妹に愚痴をこぼしたら、『お姉ちゃんちの近くにグループホームがあるみたい。テレビで見た』って教えてくれたんです」
 それから程なくして入居できたのはMさんにとって願ってもない幸運だったが、経営者にとっても若くて元気なMさんの入居は大歓迎だった。開所当時から住んでいる人たちが80代、90代と高齢化していく中で、時には経営者の片腕となって年長者の生活をサポートしてくれるMさんのような存在は、高齢者の共同生活には貴重な戦力といえるだろう。
 入居してからMさんは経営者Oさんの勧めでホームヘルパー2級の資格を取った。資格があればデイサービスのスタッフとして食事作りを任せられるから、という配慮があってのことで、働いた時間に応じた報酬も入り、Mさんにとっては生活の張り合いになっている。
共同墓地を購入
 ホーム最年少のSさんは持ち前の人懐っこさでみんなの気分を盛り上げるムードメーカーだ。「思っていることがすぐ口に出てしまう性格」と笑うが、この遠慮のない物言いが、かえって5人の気持ちの風通しをよくしている。
 誰かが不機嫌そうにしていると、「何をブスッとしてるのよ。そういう顔してるとブスになるよ」と言わずにはいられない。そうすると、「余計なお世話よ。あんたこそブスにならないように気をつけなよ」と、言われたほうも黙ってはいない。
 付き合いの浅い間柄なら、あわや喧嘩になるところだが、5人の間ではこんな会話は日常茶飯事。その場限りの憎まれ口で終わってしまう。年の離れた姉妹のようにお互いのことがわかっているからこそ、根に持たずに受け流せるのだろう。
 Sさんも独りでいることに耐えられずに、ご主人に先立たれて1年後に入居した。死別後に起きたご主人の親戚とのいざこざ、独居と知って押し掛ける宗教の勧誘などに破れきってしまい、安全地帯を求めるように入居したのが今のグループホームだ。
 入居後、懸案だったご主人の分骨を果たした。郷里の墓から分骨して、新たに購入した共同墓地に納骨したのだ。これも経営者Oさんの尽力によるもので、郷里に同行して、分骨を渋るお寺と交渉してくれた。
 共同墓地は春と秋の2回、合同慰霊祭を執り行ってくれるし、いずれは自分も入る。
 「ここなら自分たちに墓守がいなくても寂しくないものね」
 死後の心配もなくなって、まるで5人姉妹のように言いたいことを言い合って暮らす今が「最高に幸せ」と、Sさんは穏やかな笑顔で話してくれた。
利用者の死亡後はどうなるの?
 ふれあい型グループホームは普通の家庭と同じように、病気になってもたいした病気でなければホーム内で治療するし、入院する場合も回復すればまた自分の部屋に戻ることができる。また、介護を必要とする状態になっても、基本的には家庭での介護で対応できる段階なら、介護保険の在宅サービスなどを利用してホームでの生活は続けられる。
 こうして最後までグループホームで暮らし、ホームで最期を迎えた場合に発生する問題についてまとめておこう。
 まず、入居していたグループホームが遺産相続の対象となるかどうかについて。入居に関しては、それが生涯にわたる利用権の取得か、所有権を伴う分譲か、それとも賃貸借による入居かなどホームの運営形態によって形式が異なる。所有権を伴う分譲だと遺産としての相続が発生するが、ふれあい型グループホームは一般的に一代限りの利用権形式なので、本人死亡に伴って利用権は消滅する。
 次に死後に発生する事柄の処理について。どのような葬儀とするか、死亡通知はどの範囲までするのか、また財産の相続や私物の整理はどのようにするのか、などについては、遺された人やホーム側が困らないように、元気なうちに遺言を作成しておくとよいだろう。死後の処理を託す適当な人がいない場合は、ホームの経営者や管理者がこれを行うことにもなるので、元気なうちから経営者や管理者に自分の意思をきちんと伝えておくことが肝心だ。
 また、ホームに迷惑をかけたくないと思う人は、第三者機関に死後の処理を委託する方法も検討の余地がある。
 
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さわやか福祉財団
年度スケジュールのご紹介
研修会・イベント等のお知らせ
 
 さわやか福祉財団では、新しいふれあい社会づくりを目指して、多方面から様々な事業を行っています。年度中に行う研修会・諸イベント等のうち主なものを順次ご紹介します。詳細等ご関心のある方はどうぞお気軽にお問い合わせください。
(なお、財団ホームページでも併せて詳細等をご紹介しています。→http://www.sawayakazaidan.or.jp
 
組織づくり支援グループ
「地域たすけあい研修会」(リーダー研修会)
 地域のボランティア普及啓発と団体設立促進に向けた研修会。30か所程度を予定し、全国で開催中。(以下は日程が明らかになっているものの一部です)
12月14日(土)愛知県豊川市
年内 奈良県
「ふれあい活動実践研修会」(団体設立に向けた研修会)
 全国で50回の開催予定。各地で開催中。
 
地域協同推進プロジェクト
「地域協同推進フォーラム」
 さまざまな団体等が地域で「協同」して助け合いを進めていくための啓発普及シンポジウム。
2003年1月23日(木)熊本市
 
社会参加システム推進グループ
「ワークショップ」―参加型体験学習(勤労者マルチライフ支援事業)
 中高年勤労者(退職者を含む)を対象にしたワークショップ(20名程度予定)
2003年1月29日(水)愛知県大府市
 
グループホーム推進グループ
「映画とフォーラムから考える!自立と共生の新しい『すまい方』」
2003年1月 愛媛県松山市
3月8日(金)沖縄県那覇市
 
広報・企画グループ
「さわやか福祉財団交流総会」
2003年2月19日(水)
 
*なお、内容は変更となる場合があります。具体的お問い合せは各グループ・プロジェクト担当までお願いします。→TEL03(5470)7751







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