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ありがとうを循環する地域通貨 21
地域通貨「タル」で小樽のまちづくり
(取材・文/猪瀬 泰志)
 
 北海道では栗山町の「クリン」をはじめ、黒松内町の「ブナ〜ン」など地域によって様々な地域通貨が流通している。今回訪問したのは人口約15万人、石狩湾に面した港町小樽で流通しているエコマネー「タル」。タルは時間を単位とした地域通貨で、現在の参加者は68名だという。社会福祉士の資格を持ち法律事務所に勤務している「おたるエコマネー実行委員会」代表の関口由紀子さんと、電車の車両を再利用してお洒落なレストランを経営している副代表の比良嘉恵さんが迎えてくれた。
 
 「タル」を始めるきっかけは「自分たちの手でまちづくりをしたい」ということから。小樽は古くからの街でありながら隣近所のことには顔を突っ込まないほうがいいという考えが根付いていて、地域のコミュニティーが欠けているという。そういう地域性を何とかしたいと仲間たちで話し合った結果、先に栗山町でやっているエコマネーを導入してみようという結論が出た。実際始めるまでには、エコマネーの提唱者である加藤敏治さんの講演会を開催したり、「くりやまエコマネー研究会」に相談に乗っていただいたりで約1年間の勉強会を重ね、おたるエコマネー実行委員会を発足し、小樽の地名を取った「タル」が始まった。
 2001年11月から第1次実験、第2次実験と続き、現在、20代から80代まで幅広い世代が参加しているが、男女比は2対8程度で、中でも一番の多いのは30、40代の女性である。
ちなみに、実験は半年単位で、道庁から助成金が出ているため参加費は500円で、この経費は主に会報『おたるエコマネー通信』やメニュー表の送料に充てられる。
 
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小樽らしいデザインの地域通貨と交換手帳
小樽の街並みをデザインした紙券と通帳
 単位は1000タルで約1時間のサービスが受けられる。紙券は1000タル、500タル、100タルの3種類で、紙券は相手に渡してしまうため交換手帳も併用することによって、誰とどれだけ交換したのか一目でわかる工夫がされている。交換手帳に記入する内容は日付、メニュー、相手の名前、「タル」の増減を記入する。
 入会手続きは、参加申込書に「できること」「してほしいこと」「タルに望むこと」などを記入し、「おたるエコマネー実行委員会」へ申し込むことによって5000タルとサービスのメニュー表及び交換手帳がもらえる。
 基本的に交渉は、自分でメニュー表を見ながら直接相手と連絡を取り合い行う。ただし、相手の人をよく知らない場合などで、利用者から依頼のあった場合のみ関口さんか比良さんがコーディネートすることになっている。サービスの提供が終わったら感謝の気持ちを込めて「タル」を渡すと同時に交換手帳にも記入する。
 サービスの交換以外にモノの交換も行っている。たとえば、入会したばかりで知り合いのいない人や妊娠している人などは、サービスで「タル」をなかなか稼げないため、月1回開催のバザーで不用品の交換をして稼ぐのである。
 事故対応については入会時の約束で個人の責任においては対応するようにしている。地域通貨は信頼関係で成り立っているため、この約束事は重要だ。
 メンバーのほとんどが仕事を持っており日頃の問い合わせ対応などができないため、事務スタッフを小樽まち育て情報センターに委託。そこでは月に1、2回のメニュー表の更新、会報の発送、タルについての問い合わせ対応や、実行委員会の会議の連絡調整などが委託されている。
趣味の領域での交換が人気
 事務スタッフの松谷さんは「メンバーには高齢の方もいるため、なるべくわかりやすいメニュー表づくりを目指しています」とのこと。悩みは、「メンバーに入っても一度も利用していない方がいたり、なかなか新しい情報がメンバーから入ってこないこと」だとか。
 メニューは「してほしいこと」が育児関係、パソコン指導、レクリエーションなど様々で、「できること」もほぼ同じなのだが、実際の交換では育児関係などのサービスはあまり行われておらず、パソコンや家事、レクリエーションなどが多く取引されている。その理由として福祉的ニーズは責任も重く切羽詰ってから出てくるが、趣味の領域はゆとりがあるため、サービスが楽しくできるからだと関口さんは言う。
 交渉を直接行うので頼みやすい環境をつくることも必要と、会報の中に会員紹介を設けたり、バザーやパーティーなどで会員間の交流を深めるようにしている。メニュー表に記載されていないサービスの交換もあり、メンバー同士のコミュニケーションもとれている。「今後は行政と連携して福祉のネットワークをつくりたい」と関口さんの夢は膨らむ。「してあげる」気持ちと、「してもらう」気持ちが対等になってこそ、地域通貨は循環していくもの。どうか、多くの人に「安心して暮らせる小樽」の一環として「タル」が活用されますように!
 
交換手帳にはたくさんの記録が。
 
事故対策について
 地域通貨は会員間の信頼関係の下に成り立っているといっても過言ではない。しかし気軽で身近な助け合いといってもサービス中の事故などのトラブルで、その信願関係が崩れでしまう場合も考えられる。そこで団体として活動する場合は、まず保険の扱いを考えておこう。保険料は誰が負担するのか、会員個人が負担するのか、入会金などの中から団体として負担するのかなどを具体的に検討しておいたほうがよい。会員を事故から守る保険には次のようなものがある。
 
(1)ボランティア活動保険
 この保険は、ボランティア自身がケガをした場合の「傷害事故」と、第3者の身体や財物に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合の「賠償事故」がセットになっている。
 この制度は、ボランティア個人またはボランティアグループが加入申込者となり、ボランティア個人を被保険者として全国社会福祉協議会が一括して保険会社と締結する団体契約である(申し込みは地域の社会福祉協議会へ)。
(2)送迎サービスを伴う場合の留意点
 ボランティア活動保険では、自動車による事故の場合、加入者自身の傷害のみが対象となり、同乗者のケガなどは補償されていない。そのために、個人の車で送迎をする場合は、その人の自賠責保険や任意自動車保険の保険証券のコピーをもらい、契約忘れなどがないように、また保険の最低条件などを会員で話し合うことが必要である。移送サービスに関する保険には、「移送サービス交通傷害保険」、全国社会福祉協議会の場合には「送迎サービス補償プラン」などがある。
(3)その他の保険
 その他、在宅サービスに関するものには、「在宅福祉サービス総合補償保険」(社協取り扱い)や「市民互助団体スーパー安心プラン」「草の根市民互助団体補償共済制度」(市民福祉団体全国協議会)などがある。
(4)覚書・念書など
 地域通貨は、お互いが支え合うことが基本なので、ややこしい書類などは必要ないと思われがちだが、やはり万一の備えとして事故対策について会員間で事前に話し合うことも重要だ。
 保険以外にもたとえば、会員間で何らかの文書を交わすなど。こうしたいわゆる覚書や念書は法的な裏付けはないが、お互いの信頼に立った助け合いの中での確認を書類にしたものだということは承知しておこう。







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