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特集 新しいふれあい社会を考える インタビュー
選択的夫婦別姓は構造改革の象徴だ
 「旧来の制度を社会経済環境の変化に即してつくり変えていく。そういう意味では選択的夫婦別氏制の導入は最もわかりやすい構造改革だ」。そう主張するのはエコノミストの八代尚宏氏(日本経済研究センター理事長)だ。今回は、夫婦別姓選択を推進する立場から、問題とされるポイントと推進の意養についてお話をうかがった。
 
社団法人
日本経済研究センター
理事長 八代 尚宏さん
隣家の人の問題として
 本誌のアンケート結果にも世論にも根強い反対論がありますが、この点についてどのようにお考えになりますか?
八代 しばしば誤解されているのですが、これは夫婦は同姓と別姓のどちらが良いかという比較の問題ではなく、別姓を希望する人がそれを選択できるか、できないかという選択性の問題です。ですから、別姓は夫婦や家族の一体感を損なうと思う人は同姓で全く構わない。それで100%いいのです。問題は、夫婦の一体感は損なわないと思っている人が別姓にしたいというときに、それでもダメだと退ける正当性が問われているわけです。
 つまり「あなたの隣の家の人が別姓を望んだ時に、それに対してあなたはどう思います?」というもの。隣の人に賛成か、反対か、どうでもいいか。すごく積極的にその人の生き方に介入しなければ回答できないことです。なぜ隣の人の生き方にそこまで口を出さなくてはいけないのかということになりませんか?
 本人が別姓を好むまないの問題ではなくて、多くの人にとっては隣の人の問題であるのに否定する。しかし現実には、この問題の利害関係者である20歳代・30歳代の半数以上の人が選択できることを望んでいます。
正式な法律婚を望む人たち
 働く女性など別姓を求める声についてはどのように思われますか?
八代 女性の権利擁護という人権論でこの問題を論じることもできますが、私はむしろ経済活動における不都合を問題にしたい。結婚後も働き続ける女性が半数を超えて、かつて自営業や専業主婦世帯が大勢を占めていた時代には夫婦単位であった経済活動が今は個人単位になっています。個人単位で活動する時に、企業がコーポレートブランドを大事にするように、女性にとっても姓はその人のブランド。それが変わることで不都合が生じるのであれば、それは何とかしなくてはいけない。また晩婚化が進み、改姓によって結婚前のキャリアの継続に支障をきたす人も増えています。
 社会経済環境の変化に合わせて、今までのままでは立ち行かなくなった制度をつくり変えてみる。そういう意味では、選択的夫婦別氏制は最も金のかからない構造改革ですよ。全体から見れば少数ではあっても、姓が変わることで不自由な思いをする人が確かにいて、しかも他の人にとっては何の影響もないのであれば、なぜ別姓をダメだと言うのか。自民党の推進派の意見もこれです。
 
 しかし、別姓は家族の絆を壊すものという意見も根強いですね。
八代 反対派には、夫婦が同一の姓を名乗ることで家族の絆は強まる、という上位概念があります。確かにそういう価値観はあるでしょう。しかし、それは政府が強制するものではありません。夫婦が話し合って別姓か同姓かを決めるほうが、むしろ夫婦の絆を強めるという考え方もあります。別姓を認めると簡単に離婚するようになると危倶する人もいますが、別姓にしたい人たちは、正式に法律婚を望んでいる人たちなのです。
消費者主権を認めるかどうか
 子どもへの影響を心配する声は別姓容認派にも多いようです。
八代 子どもの姓が夫婦のどちらかと違うのは子どもを不幸にするというのも、それは親が判断すればいいことです。子どもを虐待するという例外的なケースはありますが、大部分の親は子どもの利益の代理人であり、何が子どもの利益かを判断するのは両親です。夫婦の姓をどうするかくらい自分たちで決められるだろうし、子どものことも親に委ねるべきで、選択的夫婦別姓はそうした消費者主権を認めるかどうかという問題でもあります。
 子どもが婚外子と間違われていじめにあうとの懸念もありますが、婚外子がいじめにあうという前提そのものがおかしいし、親と子の姓が異なる親子が増えれば、むしろ現在事実婚などで婚外子である子どもが受けている社会的な差別が減ることも考えられます。親と同じ姓の子もいれば、違う姓の子もいる、いろいろいるんだという多様性を、子ども自身は当たり前のこととして素直を受け止めるものです。
 大げさに考えず、自分の利益には関係ないが、それで他の人が幸せになるのなら、それでいい、と自然に受け止めればいいのではないでしょうか。







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