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ありがとうを循環する地域通貨 19
ITを駆使した時間通過
「千姫」
(取材・文・坪井 映美)
 
 世界遺産姫路城の城下町兵庫県姫路市で完全IT(情報技術)による地域通貨「千姫」が話題にのぼっている。運営するのは兵庫県立姫路工業大学環境人間学部岡田ゼミが中心の、「姫路ITエコマネーアクション 千姫プロジェクト」事務局である。
 「完全ITによる地域通貨」に期待をふくらませて話を伺った。
何かできそう! と10日で始動
 岡田真美子先生らによるエコマネーとの出会いは、2001年5月に兵庫県宝塚市で開かれた「宝塚エコマネーフォーラム」。現在も中心的メンバーである和崎宏さんからエコマネー提唱者の加藤敏春さんの話を聞いていたこと、エコマネーの語り部である進藤淳三さんの誘いもあり、「いっぺん見に行こう」という感じでゼミ生を連れて見に行き、フォーラムの報告書を書いている最中に、「何かやれそう」と勢いに乗ってフォーラムから10日ほどで活動をスタート。メンバーには県の地域ビジョン委員や兵庫デジタルSOHO事業共同組合員、弁護士、近隣市民なども加わり、多彩な人材が集まった。最初はメーリングリストを使って振り込みを報告、手動でやりとりを記録していくというところから始まったとか。
“30分で千姫”が目安
 現在の「千姫」の単位は「姫」で、30分のボランティアで千姫という目安に。「千姫」では「ITエコマネー」という名のとおり、パソコンか携帯電話を使う。なお、携帯電話では子育て奮戦中の山田徳子さんら主婦層の参加も目覚ましい。まず、このプロジェクトに参加するためにはホームページ上にある参加登録フォームに必要事項を記入して登録するが、ホームページで公開されるため、隊員(会員)になるときには「ハンドル名」(ホームページ上で使う名前)を付ける。その名前の付け方も人それぞれで、個性があふれる名前が多い。参加者は10代から70代までの200名以上。
 参加登録後、IDとパスワードを記した「隊員証」が送られてくる。完全ITではあるが、隊員証だけは、コミュニティーへの帰属意識を強くするために名刺サイズのカードを作ることにしたのだそうだ。
 隊員証が届いたらホームページ上のメニュー表に自分ができること、してもらいたいことを自分で登録。「千姫」には固定化したメニュー表がなく、どんなことでもOKであり、またできなくなったり、用事が足りてしまえば自分で修正削除ができることが特徴。柔軟な対応ができるところにホームページを使った良さがあるという。メニューには、「学内のゴミ調査を手伝ってほしい」「イベントの駐車場係募集」「病院のパソコン教室のボランティア募集」「デジカメラマン募集」などさまざまで、また姫路から離れたところからは、「情報をあげる」「人生相談します」など、ITならではのユニークな参加方法も。
 隊員はメールで直接交渉し、コーディネーターは存在しないが、誰もやる人が出てこないときには、裏コーディネーターとして、岡田先生がコーディネートすることもあるという。「こういう世話焼きおばさんがもっと増えるといいんだけど・・・」とは岡田さんの願いだ。
 千姫の支払いはホームページ上の千姫家計簿から行う。30分のボランティアで千姫という目安はあまり意識せず、たとえば、「ありがとう姫」「ごめん姫」のような使い方もしているというところがユニークだ。家計簿は支払いだけでなく、自分の千姫のやりとりを知ることができるため、誰に姫を支払い、誰から姫をもらったかが一目瞭然である。「千姫」は手持ちの千姫がなくなっても大丈夫。人を儲けさせるのは功徳、マイナス○○○○姫ということがあっても構わないのだそうである。
 現在はメニュー表だけでなく、井戸端会議という掲示板での依頼交渉も増え、約半年ほどで500件を超すやり取りが行われている。ちょっとした「ありがとう」にも「千姫」を支払うことで千姫が循環し、コミュニケーションが活発になっている。また、ITを使うことで今までボランティアにはかかわりがなかった忙しい人も、細切れの時間を使って参加してくるようになったという。“IT弱者”といわれるパソコン等の苦手な高齢者も積極的に参加し、逆に若い人が話を聞いてもらうなどの交流も生まれている。
 
姫路城をモチーフにしたカラフルな隊員証
 
(上)ホームページの開設さえできれば運営資金はほとんど不要
(下)携帯電話でいつもでもやり取りができる
“方言同士”の広がりにトライ
 千姫プロジェクトは現在NPO法人化を目指している。千姫で作り上げたリソース(骨格)を千姫だけのものにしておくのはもったいない、千姫の骨組みをを自由に使ってもらえるようなフォローアップをしていきたい、それには大学の研究とは違って、きちんと形を整えていかなければと考えてのことである。
 「今、各地にあるエコマネーは時間を単位にするという共通言語があるけど、それぞれが方言で、方言同士が通じない。方言を翻訳するソフトを作れば、通貨同士のやりとりができるのではないか。千姫の骨組みを活用しつつ、各地域で“自分たち流”を作りつつ広がっていければ」という岡田先生の言葉を形にしていくのが、今秋に完成予定のニュー千姫システムなのだ。
 「何かやれそう」。そんな小さなきっかけが大きな夢につながっていく。
 
「千姫」HP→http://www.1000hime.jp/
 
地域通貨の名称、表現方法を考える
 地域通貨には地域やグループにふさわしい楽しい名前が付いていることが特徴だ。
 たとえば、愛媛県関前村の「だんだん」は、「重ね重ねありがとう」という意味の方言から。兵庫県姫路市の「千姫」は姫路城のヒロインから、など地域の方言やシンボルから名付けられたものが多い。地域通貨への親しみが感じられる名前を付けることも重要だ。
 名前が決まったら次は表現方法。表現方法には、およそ(1)通帳方式、(2)紙券方式、(3)チップ方式、(4)借用書方式、(5)パソコン記録・管理方式、(6)ICカード管理方式の6通りがあり、いくつかの方式を併用するところもある。
 
(1)
通帳方式
銀行の通帳のイメージで、サービスやモノのやり取りを受けたらマイナス、提供したらプラスの欄に内容とともに記入する。(例:レッツチタ、ピーナッツなど)
(2)
紙券方式
紙幣をイメージするようなカタチ、あるいは名刺カードのようなカタチで、裏面に交換内容を記入していく方式だ。(例:おうみ、クリン、かもんなど)
(3)
チップ方式
コインやオセロゲームのようなイメージ。チップのやり取りだけなので、記録は残らない。そのため記録方法を他の方式と併用するところもある。(例:だんだん、エッグ、いまづなど)
(4)
借用書方式
手形や小切手のイメージで、個人間のやりとりを裏書きしていく方法。
(5)
パソコン記録
サービスのやり取りをパソコンで記録・管理する方式。(例:千姫やアメリカのタイムダラーなど)
(6)
ICカード管理方式
公共施設や商店などに端末を置き、個人がICカードを持ってやり取りを端末を通して処理するもの。(例:金谷町福祉サービス銀行、LOVESなど)
 
 表現方法は、これという規則があるわけではない。デザインを考えたり、仕組みを整えたりしながら、自分たちが使いやすいように楽しく工夫してみてはどうだろうか。







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