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堀田力のさわやか対談(てい談)
「社会貢献教育に期待する」
第8回スクールボランティアサミットから
 
 「学校から地域へ、生きる力を地域に学び、地域と学ぶ」―地域と一体となった社会システムづくりを考えてきたさわやか福祉財団では、従来から「社会貢献教育、ボランティア体験学習の実施」を強く提言し、その一環として毎年、「スクールボランティアサミット」を開催してきた。8回目となった今年は、まず午前に、小中高に分かれての分科会を行い、午後の全体会では、各地の子どもたちによる生き生きとしたボランティア活動の発表、そして、「社会貢献教育に期待する」と題したてい談が行われた。丸一日に及ぶプログラムだったが、参加者からのアンケートには、「考え方が整理でき、今後の活動に大変参考になった」、また「子どもたちの意識の高さ、その行動力に感動すら覚えた」といった声が多く寄せられるなど充実した機会としていただけたようだ。今号ではそのてい談の模様をご紹介しよう。
 
ゲスト
北城 恪太郎さん
IBMアジア・パシフィック プレジデント兼
日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長
 
ゲスト
見城 美枝子さん
青森大学教授・エッセイスト
 
堀田 力(ほった つとむ)
さわやか福祉財団理事長、弁護士
社会貢献教育を通して養うもの 成績よりボランティア経験
堀田 先ほどの生徒さんたちのシンポジウムを聞いて、子どもたちは十分自分たちでやっていける、と頼もしく思えました。こういった自発性を促すのが大人の役目だとすると、さて、我々は、総合的な学習の時間という新しい枠組みの中で、これをどう社会貢献教育として進めていけばいいのか。具体的にどんな人間像を求め、何を期待するのか、ご一緒に考えていきたいと思います。まず北城さんにお伺いしますが、今の企業はどんな人を必要としているのでしょう?
北城 3年ほど前、経済同友会で会員企業に新卒者採用基準に関するアンケート調査をしたところ、131社中121社が「面後結果を最も重視する」と回答しました。行動力、熱意を面接で見る。出身校や学校の成績で選ぶと答えた企業ほほとんどありませんでした。
 かつて欧米に追いつけ追い越せと規格大量生産を目指していた工業化社会の時代には、知識を速く吸収し勤勉に働く均質の社員が必要でした。有名大学出を採用し年功序列の時代もありました。しかし今は人から教えてもらったことを踏襲するだけではだめなんですね。与えられた課題をこなすだけではなく、自分で課題を見つけ出し、結果を出した人を評価するように変わってきています。
 “新しい発想ができ、新しいことに挑戦する意欲を持っている”、これがまさに企業が今求めている人材なんです。このような変化が十分学校や親御さんに伝わっていないのは、企業側の責任でもあると思います。
堀田 自分で考えることができる人が求められると。それを見極める面接のポイントはどんなところにあるんですか。
北城 考える力や行動力を持っているかどうかは、たとえば学生時代にどんな経験をしたか、何をして達成感を得たかなど質問しながら、グループ討諭してもらうと見えてきます。そうするとリーダーシップや協調性のあるなしもが、わかります。偏差値的力は全く必要ありません。学生さんには、「自分が将来何をやりたいか見つけるのが学生時代なのだ」と言っています。勉強も仕事も自分がやりたいことは面白い。まず好きなこと、得意なことを探すのが先決だと思います。親も先生もそれを問いかけるべきです。
堀田 なるほど。では先ほどの「勉強よりボランティアが好きです!」なんていう子どもたちは面接テストで合格間違いなしですね(笑)。私も法務省時代に経験しました。少年院の教官が生徒を怖がって辞めるケースが相次いだので、ボランティア活動の経験の有無をポイントに面接重視の採用をしてもらったところ、これが良かったんです。ボランティアの経験者は人間好き、どんな人間ともやっていける自信を持っています。非行少年の心をがっちりつかんで、いい教官になってくれました。
北城 それはよくわかります。結局、それぞれの持ち場でいい仕事をしていく人を見つけ出すには、学校の成績は問題ではなかったということです。私どもの会社で、活躍した社員をさかぼほって調べたら、出身校や成績とは何の相関関係がないことがわかりました。企業は良い業績を上げる人を求めていますが、本質的な、人間としての倫理観を持っていないと成功しない。その基礎を、小さいときからのボランティア活動などを通じて基本的な素養として身につけておくことが重要だと思います。
 
北城 恪太郎(きたしろ かくたろう)
日本経団連産業技術委員会共同委員長、経済同友会副代表幹事など多数の兼職で多忙な北城さん。経済同友会副代表委員長時代には、経営者が自らの体験や考えを学校で離す社会貢献活動を起こし、自らも課外授業の講師を務めた。また日本IBMは社会貢献の一環として、今年5月、東京・三鷹市内の全15市立小学校において「三鷹市学校・家庭・地域連携教育プロジェクト」を三鷹市と共同で展開すると発表。情報ネットワークを活用した子どもたちの総合的な学習を支援している。
 
日本IBMが社会貢献活動として支援している三鷹一小のIT活用授業風景。
掲示板機能を使って6年生が5年生からの質問に答える
好きなことなら挫折しても立ち直れる
堀田 企業も家庭も変わってきています。見城さんは、これから21世紀を背負って立つ社会人として、どんなふうに子どもを育てていけばいいとお考えですか?
見城 子どもには持って生まれたものがあり、同じように育ててもそれぞれ違う。私も4人の子どもの親として、教え込むことの限界を感じることがあります。世の中に送り出すまでには責任を果たすべく必死でやっていますが、反省を込めて申し上げると、今お話にあった協調性、意欲、倫理観といったことを学校教育に託して、学校のブランドに押し込め、ブランド印を押してもらって、社会に巣立っていけば安心・・・、というパターンがあったように思います。日本は学校へ入ってくれれば親としては安心という時代が長かったですね。
 女の子は時代の流れもあって、今元気です。社会的なたががはずれたことで多様な選択ができ、のびのびしています。だから問題は男の子か。語弊があるかもしれませんが、価値観が変わってきた中で、どう現代の男の子を育てていけばいいのか、親としては、複雑な心境にあります。
堀田 友人の検事の話ですが、子どもが音楽をやりたいから進学しないと言い出した。弁護士を目指すんじゃなかったの?というと、あれは親を喜ばせるために言っただけ、と言う(笑)。見城さん、こういう場合はどうでしょう。
見城 それは男の子が言い出したから問題なんでしょうね、きっと。女の子ならお父さまも「まあ、やってごらん」と受け入れられるんじゃないですか(笑)。男の子でもそう言えるかどうかが親、家庭が変われる契機なんでしょうね。理想と本音には、ずれがあります。ですから先ほどの、もはや社会は学歴偏重、学力重視ではないのに、それが家庭の現場に届かないことの理由は、こういうずれがまだあるからなんですね。
北城 我が家は息子3人ですが、育った環境は同じなのに3人それぞれ進んだ道が違う。ある程度の価値観は家庭で義務として教えなければならないけれども、あとは自分の適性を考えて、それぞれの道を歩んでいけばいいと思いますね。
堀田 最近、家庭環境としては特に問題のない、いわゆる“ちゃんとした家庭の子”の非行化が少しずつ増えています。引きこもり、閉じこもりも増加しています。いい子・頑張り屋・親思いできていて、思い通りにいかないと、ある日突然、プツンと切れる。こういうケースが多い。好きなことをやらせれば、挫折してもまた立ち直れるということを親は理解しておきたいですよね。
見城 親としてできることは、愛情をはき違えないようにということでしょうか。最近読んだオーストラリアの本で、生まれた時から母親にさえ抱かれるのを拒否する自閉症児を、周囲が一丸となって育てていく話があります。この特殊な赤ちゃんは、成長して家庭内暴力もふるわず殺人鬼にもならず、親も子殺しをせずにすんだ。修道院、町のボランティアの人たち、コミュニティーの力でその子が救われていく、そのことに感動しまして、親もがんばらないといけないんですが、親も社会の輪の中にいて孤立しない、子どもも社会ともに育つことが大切ですね。
堀田 地域と親がどう協力していくかですね。社会貢献教育の実施にあたっては、親の反発もあるでしょう。そういう親をどう説得するか。無理に押えつけては子どもはまっすぐに育たない。納得しながらであれば挫折しても立ち直れます。とにかく子どもの本当の幸せを考えて、育てていく。お話のように、今では企業は人柄を見て採用するのだから、勉強を押しつけてももう就職できるとは限らないわけです。それより、もっと根幹から人間性を伸ばしていくことが大事、と、まとめさせていただきましょう。







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