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グループホームの窓辺で
60年ぶりの青春
泣いてばかりの日々
 T子さん(80歳)の住まいは、2DK。ベランダに面した6畳ほどの居間にはソファセットが置かれ、隣の寝室にはベッドが2つ並んでいる。
 「1つきりだと何だか寂しくて。寝る人がいるわけじゃないんですけれど」
 T子さんは昨年、60年連れ添ったご主人と死別したばかり。子どもはいない。ご主人は体力回復を目的に入院した病院で、あっという間に逝ってしまったという。心の準備もないまま、独りの生活が始まった。
 「特別仲がいい夫婦だとも思ってなかったし、若い頃は離婚を考えたことだってあったの。それなのに、死なれてしまったら、何を見ても、何をしても涙が出るの。一人でご飯を食べながらポロポロ、外でご夫婦連れを見てはまたポロポロ。ただ座っていてもポロポロ。ほんとに泣いてばかりでした」と、T子さんは話しながら、当時を思い出して涙を浮かべた。
 居間の壁ぎわには、ご主人の遺骨が入った箱が安置され、白百合の花とチョコレートとお線香が添えられている。
 「おととい、献体した病院からようやく戻ってきて。主人はチョコレートが好きでしてね、さっそく、ご苦労さまでした、ってお供えしたんですよ」
 T子さんはご主人の遺骨に視線を向けてそう言うと、やわらかな笑顔を見せた。
週に2回はスイミング
 T子さんが暮らすふれあい型グループホームには、現在、2組の夫婦と1組の親子、そしてT子さんを含めて3人の単身者が住んでいる。部屋の間取りは3DK、2DK、1DKと3通りあって、それぞれにお風呂、トイレ、小さなキッチンがついている。
 T子さんに2DKの各部屋を見せてもらったら、ダイニングキッチンには食卓テーブルとイスと冷蔵庫、脱衣場には洗濯機と、マンション住まいを思わせる調度が揃っていた。
 「でもね、3度の食事はみんな一緒に食堂でいただきます。おしゃべりしながら食事できるのが、本当にありがたい。部屋にいる時は一人でも、日に3回は誰かと話ができますもの」
 朝食後は自室のソファで新聞を丁寧に読む。それが終わると、昔読んだ文学全集などを読み返す。居間のテーブルの上には宮本百合子全集が置いてあった。
 「主人が亡くなるまで、ずーっと現役の主婦でしたからね。買い物も食事の支度も後片付けも全部一人でやってました。ですから、ここに来た当座は何もすることがなくて落ち着かなかったですね。でも、これからは考えを変えて、今までできなかったことをしようと思って、水泳なんか始めたんです」
 午後は週2回、スポーツクラブに通っている。クラブまでゆっくり歩いて30分。プールで泳いで、クラブの広いお風呂に浸かって、また歩いて帰ってくる。プールは女学校で泳いで以来実に60年ぶりだという。
独りになったら、あそこへ
 横浜生まれの横浜育ち、19歳で結婚してからもずっと横浜で生活してきたT子さんには、このグループホームがある首都圏北郊の町は西も東もわからない全く初めての土地だった。女学校時代の友人たちは「何でそんな遠い所に行くの」と引きとめた。しかし、T子さんにとっては、これは予定の行動。横浜の自宅は他人に貸して、ここを終の棲家にするつもりでやって来た。
 4年余り前、このホームの経営者でありコーディネーターでもあるOさんが書いた『グループハウスの春夏秋冬』という本を読んだのがきっかけだった。お年寄りが共に暮らす下宿屋のような、笑いあり小さな諍いありの日常が描かれていた。
 その本に出合って以来、心の片隅に「独りになったら、あそこがある」との希望の火が灯った。
 ご主人が亡くなって数か月後、何を見ても涙がこぼれる日々に耐えきれず、T子さんは本を頼りにOさんに電話をかけた。電話口に出たOさんは、まるで旧知の友に話すような気さくさで、本に描かれているグループホームは満室だが、春にはすぐ近くに新しいホームができる、と教えてくれた。
 「でもね、私、春まで待ちきれなくて、その年の暮れにOさんの所に押しかけてしまったの。新しいホームはまだできないので、それならウチに泊まりなさいって、ホームの中にあるOさんのお部屋に居候させてくれたんです」
ドライブ、ペンション、映画
 経営者のOさんはT子さんより20も年下だが、入居者にとってはお母さんのような、お姉さんのような存在だ。Oさんは年2回の旅行やドライブ、映画鑑賞などいろいろなお楽しみを企画してはみんなを連れ出す。6月にはOさんの運転で河口湖から八ヶ岳をドライブ旅行し、ペンションに泊まってきた。「この指とまれ」方式で、映画を観たい人を募って連れて行く。先日も都心の映画館に「平塚らいてふの生涯」をみんなで観に行った。
 「この年になって初めてペンションというものを体験しましたよ。八ヶ岳までドライブするなんて、主人との生活では考えられもしなかった。そうそう、映画も何十年ぶりかで観ました。なんだか60年ぶりの青春がやってきたみたい」
 T子さんはグループホームに来て、涙ポロポロの生活を卒業した。人とふれあい、自分の楽しみのために時間を使う。T子さんは自分自身でそういう生活を選択した。
病気や要介護になったらどうする?
?病気になったら
 ふれあい型のグループホームに入居できるのは、おおむね自立的な生活ができる高齢者。程度にもよるが、すでに要介護状態にある人は難しい。
 おおむね元気な人が対象とはいっても、高齢であるから入居してから病気になったり、要介護状態になることはあるだろう。入居者の健康管理についてはホームの責任者が十分留意はしているが、病気になっても病状が安定していれば通院しながらホームで治療を続けるのが一般的だ。また、急病やケガなど救急治療が必要な場合は、ホームの責任者が救急車を呼んで病院に搬送する。仮に入院ということになっても、責任者やホームのスタッフが見舞ってくれるところなら心配はいらない。
 ふれあい型グループホームは地域に開かれた運営をめざしているので、開設時に地元医療機関とコンタクトをとっていたり、また経営者や責任者の多くは地域に根ざした活動をしてきているので、地元に信頼できる医療機関を持っている場合が多い。症状に応じて医療機関を紹介してくれるし、必要ならば付き添い送迎もしてくれる。
?要介護になったら
 介護を要する状態になったら、介護保険を申請して認定を受け(要介護認定か要支援認定)、ホームで生活しながら必要な介護サービスを受けるのは変わらない。グループホームはいわゆる入所施設ではなく家庭であるから、そこで利用できるサービスは、訪問介護や訪問看護、デイサービスやデイケアなどの在宅サービスになる。訪問介護の主なものはヘルパーによる家事援助や入浴介助、整容などだ。車イスや介護ベッドなどの福祉機器も介護保険でレンタルできる。
 介護保険のサービスを利用すると、利用料として介護報酬の1割を本人が負担することになる。介護保険以外でも地域のボランティア団体などが行っている低額の家事援助やデイサービスなどもあるので、介護保険と併用してメニューを立ててもらうとよい。
 介護保険制度での「グループホーム」は痴呆対応型であり、要介護認定を受けたからといって、ふれあい型グループホームの補助が出るわけではない。従って、必要な場合には痴呆対応型のグループホームや特別養護老人ホームに移るなど介護保険の中の施設サービスを選択することになるが、それも程度次第。「大声を出したり不潔行為などで他の入居者の迷惑になるようだと移ってもらうことになるが、そうした行為がなければ痴呆になってもスタッフで十分お世話できる」(あるグループホームの経営者)というところもある。そうした対応の有無も確認しておくべきだろう。
 
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さわやか福祉財団
年度スケジュールのご紹介
研修会・イベント等のお知らせ
 
 さわやか福祉財団では、新しいふれあい社会づくりを目指して、多方面から様々な事業を行っています。年度中に行う研修会・諸イベント等のうち主なものを順次ご紹介します。詳細等ご関心のある方はどうぞお気軽にお問い合わせください。
 (なお、財団ホームページでも併せて詳細等をご紹介しています。→http://www.sawayakazaidan.or.jp
 
組織づくり支援グループ
「地域たすけあい研修会」(リーダー研修会)
 地域でのボランティア普及啓発と団体設立促進に向けた研修会。秋より、30か所程度を予定し、全国で開催中。
(以下は日程が明らかになったものの一部です)
9月21日(土) 福岡県福間町
9月28日(土) 和歌山県和歌山市
10月5日(土) 北海道帯広市
10月5日(土) 熊本県熊本市
10月12日(土) 徳島県徳島市
「ふれあい活動実践研修会」(団体設立に向けた研修会)
 全国で50回の開催予定。各地で開催中。
「時間通貨フォーラム」
10月19日(土)
東京都千代田区 主婦会館プラザエフ
 ふれあい支え合いのきっかけづくりとして時間通貨をテーマにフォーラムを開催します。「タイムダラー」創始者エドガー・カーン博士(米国)と堀田力の対談ほか。
 
地域協同推進プロジェクト
「地域協同推進シンポジウム」
9月26日(木) 静岡県静岡市
11月18日(月) 兵庫県神戸市
 
社会参加システム推進グループ
「サッカーさわやか広場」
10月27日(日) 福井県鯖江市
「ワークショップ」(勤労者マルチライフ支援事業)
 中高年勤労者(退職者を含む)を対象にしたワークショップ。神戸に続き、東京、愛知でも開催予定(各地域20名程度)。
 
ふれあい社会づくりグループ
「介護相談員養成研修会」
 東京、大阪、神戸の3か所で6回予定で開催中。利用者の立場に立って、問題発見・提案解決するボランティア介護相談員の研修。(参加要件あり)
 
グループホーム推進グループ
「映画とフォーラムから考える! 自立と共生の新しい『すまい方』」
9月15日(日) 愛知県大府市 大府市勤労文化会館
11月22日(金) 群馬県前橋市
 
広報・企画グループ
「さわやか懇話会」
10月3日(木) 長野市メルパルク長野
(さわやかパートナー対象)
 
*なお、内容は変更となる場合があります。具体的お問い合せは各グループ・プロジェクト担当までお願いします。→TEL 03(5470)7751







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