ありがとうを循環する 地域通貨 18
会員相互のつながりを実感させる時間通貨
ゆうゆうヘルプ・波方
(取材・文/斎藤 達)
「ゆうゆうヘルプ・波方」のある愛媛県越智郡波方町は、県の最北端に位置し、三方を海に囲まれた風光明媚な地。かつては、水軍で知られた人口9834人、高齢化率21・4%の、現在は全国有数の海運の町でもある。ゆうゆうヘルプ・波方(以下「ゆうゆう」)代表の村上輝久榮さんは、愛媛県今治市で1971年から1995年まで看護婦学校の専任講師として働き、また、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターで高齢者にかかわってきた人。ちなみに、ゆうゆうは、時間を単位とする、いわゆる「時間通貨」で、アメリカで誕生したタイムダラー方式を基本とするものである。
紙券の裏に、活動の流れを記載
ゆうゆうの立ち上げは2001年4月だが、7月には愛媛県の地域通貨活用モデル事業に選ばれた。そもそもこのモデル事業の前に、同県は、1999年度の補正予算によって地域通貨検討委員会を設け、各地の地域通貨の視察や冊子「地域支え合いのきっかけづくり 地域通貨」の作成(この事業はさわやか福祉財団が受託)をきっかけとして、その後2000年度から2年間、県が地域通貨活用モデル事業に名乗りをあげたグループの中から年に5か所を選定して実施。同県のモデル事業には、こうした経緯がある。
ゆうゆうの目的は、助け合い活動の実施状況を目に見える形で残すことによって会員間の参加意識を高めるとともに、通貨の流通状況を記録することで相互のつながりを実感してもらおうというもの。現在のシステムは、1枚当たり30分の紙券(チケット)をサービスを受けた際に渡す仕組みで、裏面には、「月日」と受け取る人の名前を書く。ちなみに、裏面の記録は10人分が書き込めるようになっている。年会費はボランティア活動保険料支払いを含む1000円で、入会時に1人10枚のチケット(1枚30分券)が渡される仕組みで、チケットがなくなった場合には事務局から交付され、たくさん貯まってしまった人は会員間でプレゼントできるが、1年経てばまたゼロから始めるというもの。今年7月現在の会員は48名である。
ゆうゆうは、昨年4月のスタート時点では通帳方式による記録方法を採用し、サービスのやりとりをコンピュータで集計して、その分析をもとにメニュー表を作成。通帳方式は4月から12月まで試行してみたが、もっとシンプルな形のほうがよいという会員の声を受けて、12月16日から現在の紙券方式に変更したもの。
大切なのは信頼感
ゆうゆうで村上さんが心していることは、会員相互が親近感を増しつつ、お互いに頼みやすい関係性づくりにある。在宅介護支援センター在職時から介護者のネットワークづくりを進めてきた村上さんは、「最初は心を閉じている人でも、1時間あれば良好な人間関係ができる自信があります」という言葉が裏付けるように、それまでも、閉じこもりがちの高齢者や病弱者に対して真摯に接して人々の心を開いてきた。そうした彼女がゆうゆうを立ち上げた際には30人が集まったという。
全会員は自己紹介を兼ねた「してもらいたいこと」「してあげられること」や連絡先を記入した住所録をもっており、各自が連絡を取り合ってサービス交換を行うものだが、同時に、会員を3地区に分け、各地区の世話人がコーディネーターの役割を務めるとともに、地区集会を通じて相互の親睦を深めてもいる。「例えば、新会員の茶室で、自立して一人暮らしをしている97歳の先輩を囲んで『生きるパワーをいただく会』とか『藤見の会』などでお茶やお菓子を楽しむこともします。ちなみに、主催会員には、茶室でのお茶会の参加者は1人チケット2枚、藤見の会では1枚を払い、事務局はそれに対してアドバイスや連絡を行います。一方、主催会員に個別に協力した会員は、主催会員から相応のチケットが支払われることになっています。若い会員の方は企画にも参加し、それもまた、ゆうゆうで支払うのですよ」。
人は誰でも誰かの役に立つことがあるはず、というタイムダラーの理念を実践しているのである。
こうした積み重ねが、互いに頼みやすい関係づくりに役立っているのだと、村上さんは語る。事務所は彼女の自宅で、まだまだ活動費の持ち出しが多いとはいうものの、村上さんの熱い想いは尽きない。そして、彼女の想いを活動によって受け止める老若男女がいる。
サービス分野別利用状況
地域通貨の分類
地域通貨は、人々がこれまでに失ってしまった人間関係を改めてつくり上げていくための一つの手法であるが、(1)地域通貨活用の力点を主にどこに置くのかによって、[A]相互扶助、[B]地域経済の活性化、に主眼を置くものとがある。
次に、(2)交換の際の対象が、[A]サービスだけ、[B]サービスの他にモノも含む、とに分かれる。また、(3)交換の際の基準を、[A]時間を単位とする、[B]「地域通貨○○当たり△円相当」といったように経済的値決めを単位とする、といった大きく2通りがある(この他に回数を単位とする方式などもある)。
さて、当財団が特に推奨するのは、(1)(2)(3)のいずれも[A]によるもので、中でも時間を単位とする地域通貨を『時間通貨』と呼ぶこととしている。ところで、これまでふれあいボランティア活動のツールとして財団が推進してきた「ふれあい切符」(時間預託制度)も、交換を媒介とするものであるから、地域通貨の一種であり、時間通貨である。
そこで、ここ2、3年脚光を浴びている地域通貨と「ふれあい切符」では、どこがどう違うのかについて整理をしてみよう。
まず、使用する時期が、(4)[X]「いま現在」、[Y]「いずれ将来などに必要な時」によって区分けできる。ここ数年取りざたされるようになった地域通貨のほとんどは循環させることを目的としており、時期も半年や1年という期間限定が多く、[X]をヨコ型と呼び、[Y]をタテ型と呼ぶ。
さらに、(5)分野、(6)サービスの内容・頻度、(7)流通範囲(エリア)の順にみていくと、ヨコ型の(5)は、福祉・環境・教育・まちづくりから趣味・娯楽など多岐にわたり、(6)できる時にできる人がいればどんなことでもOKだが単発・不定期なことが多く、(7)近隣型のほうがなじみやすい。
これに対してタテ型の(5)は福祉系の一部で、(6)家事援助や介助などに限定されるが、しかし組織的・継続的に提供する必要があり、(7)プライバシー保護の問題もあって最低でも2小学校区程度以上というように広いエリアとなる。
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