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今 心の教育を考える
(取材・文/飯村 薫)
「やらしてくんない!」「たのむでね!」
PTA有志の学校ボランティア
新潟県上越市立大手町小学校
 
 7月初旬、廊下に座り込んだ20人ほどの子どもを前に、エプロンシアターを開いた一人の女性がいた。「大手ゆめ空間」の一員としてのデビュー。「やりたくてやりました。自分が楽しめて本当にうれしかった。これからもできる時にやっていきたい」と感想を述べていた。この言葉にグループの活動の特徴が現れている。
 
 新潟県南部の上越市にある大手町小学校(児童数345人)。この学校の教育活動を支えているのが「大手ゆめ空間」(1998年発足)という、約40人ほどのPTA会員有志で構成される学校ボランティアグループである。モットーは「できるときに、できるひとが、できることを(やりたいことを)」。活動は、メインとなっている自主的な意志で進めていく「やらしてくんない!型」、学校からの依頼で参加する「たのむでね型」、専門的な技能を発揮して参加する「この指とまれ型」の3つとなっている。
 「やらしてくんない!型」は、主に昼休みの時間に子どもにプログラムを提供する活動。決まった曜日に行われるもの、随時行われるものの両方がある。訪問した日はコルク栓を使った壁掛け作り、竹とんぼ作り、辻読書(廊下での読み聞かせ)、そして冒頭のエプロンシアターという内容であった。
 壁掛け・竹とんぼ作りは、活動のベースとなっているボランティアルームで、それぞれ15人前後の子どもたちが会員の手ほどきを受けながら、コルク栓や造花を台紙に貼り合わせたり、これから作る竹とんぼの羽の形についての説明をおもしろそうに聞いていた。この日参加した会員は約10人。やりたいプログラムを誰かが提案すると、それに応じて集まるのだという。子どもと一緒に楽しんでいる様子が伝わってくる。30分の時間は瞬く間に過ぎ、子どもたちは午後の授業へと向かっていった。
 活動に使う材料はリサイクルを心がけたり、時間内に作品を完成させ達成感を得てもらおうと、素材を予め加工するなどの工夫をしている。また子どものボランティアと一緒にガーデニングにも熱心に取り組んでおり、アゲハ蝶の舞うバタフライガーデンも完成している。
 
子どもたちのつぶらな視線と明るい笑顔が学舎のあちこちに・・・
 
 「たのむでね型」では、入学式の掲示や学校と地域が一体となった「子どもまつり」の飾り作りなどを担当する。「教員の手一杯の状態をよく助けていただいている」と大山教頭は話す。「この指とまれ型」の中では「家族PTA」という行事がある。地域の方を講師として招き、お茶や日舞・スポーツチャンバラなど、普段では体験できないことに挑戦する機会である。ここでのふれあいを通じて、地域の素晴らしさやそこに住む人々との交流の大切さを子どもたちに知ってもらおうという願いが込められている。6年目となった今年は子ども・保護者・地域の人々620人が参加する盛況ぶりであった。
 このような活動が可能になっている背景には、来年創立130周年を迎えるという大手町小学校への信頼とそれに応える学校の努力がある。1994年、学校・家庭・地域が共通の教育理念を共有しそれぞれの教育力を発揮しようという活動(同軸化)を開始。子育てに対して同じ考えに立ち、連携を取りながらもそれぞれの役割を果たそうという呼びかけである。「子どもたちを中心にして、学校も地域も家庭もあるんです」とさりげなく話されたとき、「同軸化」がしっかりと浸透していることを実感した。
 「これで帰るね」「手伝いに来たよ」という声が飛び交い、気づいたら廊下の隅で読み聞かせをしている人がいる。子どものためだけでなく自分が楽しみ成長するために、決して無理せず自分の好きなことを都合のつくときにやっていく。こんなリラックスした活動こそが、これからは必要なのではないだろうか。
 
竹とんぼ作りに目を輝かせる子どもたち
コラム
現場教師のホンネ投稿
学校支援ボランティアには登録したものの・・・
 学校から「学校支援ボランティアとして、協力していただけませんか。つきましては・・・云々」といったお知らせが来たことはありませんか? 小学校低学年に生活科が実施された頃から徐々に広まり、総合的な学習の時間が導入されたことでさらに多くの学校で行われるようになった教育ボランティア登録システムである。地域の人材バンクとも呼ばれ、いわば学校協力勝手連の消極的なタイプといったところ。実はこれがけっこう物議をも醸している。というのは、「登録したのにちっとも学校から何とも言って来ない。お願いするだけしておいて放っておくとは何だ!」と。確かにおっしゃる通り。なぜ、そんなことに? 地域に開かれた学校をつくれとの上からのお達しに焦った学校は、「とりあえず、地域の方がどんな能力を持っているのか、調査してみよう」と安易に地域に発信してしまったことが原因だろう。学校は、“言えば協力してくれるのが当たり前”と思っているところがある。また、この人で大丈夫? というような人が学校に来て子どもたちを指導するのでは、困る。だからといって、今後、地域とともにやっていこうという方向は変わらない。そこでやはり重要なのはコーディネーターの存在。正直言って学校には、そこまでの時間もなく、人間的にも連携していけるような人脈がないのが現状だ。PTA会長をはじめ、学校協議会委員など、地域とのつながりのある人がやってくれたらなあと思うのである。







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