日本財団 図書館


われら地域市民
全職員がホームヘルパーです
東京厚生信用組合
 
 職員全員がホームヘルパー2級の資格を有し、年間80時間の介護ボランティアを日常業務の中で行っている金融機関がある。金融業務と介護ボランティア活動がごく自然に融け合い、見事な成果を上げている。東京厚生信用組合、東京都台東区の浅草寺近くにある浅草支店を訪ね、間庭国広支店長と井田憲二副支店長に話を聞いた。
厚生信用組合とは、どんな金融機関ですか?
 業域信用組合といって決められた業種、当組合の場合は医薬業・社会福祉厚生事業・環境衛生事業に関連する方々との取引を柱としており、業務は預金や融資など一般の銀行と同じです。1953年に設立、東京都内に4つの店舗を持っています。特別養護老人ホーム、病院や薬局、精神障害者の作業所、福祉専門学校、ゴミ収集業者など取引先はかなり専門化されているのが特長です。
「ホームヘルパー2級資格認定者」と名刺に。職員全員が?
 82名の役職員全員がホームヘルパー2級の資格を取得しています。「医療・福祉の組合として、自分たちができる社会貢献活動は何かを考えた結果」(森啓二専務理事)、全職員が専門的な介護技術を身につけることで、高齢者介護に関する相談や実際の介護に積極的にかかわっています。99年に3か月間、土・日曜日をすべて返上し、取引先でもある文京福祉専門学校に通うか通信教育による講習と5日間の実地訓練で資格を得ました。
介護ボランティア活動を日常の業務に組み込んでいます。
 支店長はじめ全職員は台東区の社会福祉協議会にボランティア登録をし、年間80時間を目標にボランティア活動を勤務時間中に行っています。社協の窓口となる担当者(課長クラス)が情報や依頼、紹介を受けると各職場と話し合いを行い、仕事に差し障りがないよう2人1組のローテーションを組み、1回に4〜5時間、近くの特別養護老人ホームで介護ボランティア活動を行います。高齢者の話し相手、ベッドメーキング、車イス利用者の移動やリハビリ訓練の介助などのほか、知的障害者施設での手伝いや老人会のゲートボール大会への審判派遣なども行っています。
 
日常業務とボランティアの両立は大変ですね。職員から不満は出ませんか?
 業種的に福祉関係の取引先が多いので職員には自ずと使命感が培われているのでしょう、皆生き生きと喜んでやっています。
 「人と人とのつながりが密になり、細かなところに神経が行き届くようになった。これまでのアンテナでは感じ取れなかった部分が取れるようになったことが大きい」と森専務理事が言うように、お年寄りとの接し方や体験から得た知識など、実際の仕事の上でも大いに役立っています。
 「デイサービスの利用者さんは、いつも前向きで生き生きしていらっしゃいます。ボランティアに伺うたびに皆さんからパワーをいただき心が浄化される思いがします」(融資係・前川優子さん)と、職員は毎回お年寄りと会うのを楽しみにしています。
金融業務と並行して福祉・医療関係のサービスにも力を入れていますね。
 6年前から始めた「厚信電話保健室」というサービスでは、専門医療スタッフが年中無休24時間態勢で健康・医療に関する相談に電話で応じています。夜間・休日に利用できる医療機関の案内、専門病院の紹介、福祉施設の案内などから夜中に赤ちゃんが熱を出したが、家族の介護について相談したい、不慮のケガの応急処置は、といった相談を無料で受けています。また、店頭表示金利に、お迎えの賀寿にちなんだお祝い金利、たとえば還暦(60歳)の場合0.60%、喜寿(77歳)の場合0.77%を上乗せする定期預金「賀寿」は、ユニークなサービスとして喜ばれています。
今後もその特性を生かした活動を?
 在宅介護という時代の要請を読み取り、福祉ボランティアに力を注いできた当組合の生き方は間違いなかったと思います。「1つのホームにベッドが100床あれば100人から預金が集まる。その預金は別のホームの建設費や設備資金に充てられる」(森専務理事)ようにいい資金循環が始まっています。当組合本来の特性を生かした地域に根差し愛される組合を目指していきます。
(取材・文/三上 彬)
 
ホームヘルパー2級講習に熱心に励む職員の皆さん
コラム
 「近所のお年寄りがよく店に来られ、お茶を飲みながら世間話をしてお帰りになられます」と間庭支店長。上手なお金の使い方などのアドバイスもし、お年寄りのファンも増加中だ。効率優先主義の時代には逆行するものの、「こういう金融機関もこれからは必要ですね」と問うと、「必要でなく重要ですよ」と自信満々の答えが返ってきた。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION