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有償ボランティアで行っているふれあい事業は「請負業」なのか?
 今回の審査請求書で改めて我々が主張したポイントは大きく次の4つ。
 
■支払いは労働の対価(報酬)ではなく謝礼金だ
国税側
利用料金は、任意でなく運営細則に基づいて、提供サービスへの対価として支払われているので対価性があり、謝礼金とは認められない。金額の多寡は関係ない。
VS
対価であるかどうかは、労働の市場価値との比較で決めるべきもの。実勢価格に比べて極めて低額であり、利用者も活動者も労働報酬とは思っていない。この団体では時間預託制度をとっているが、6割の人が自分が得た点数を現金化せず、互いの助け合いのために預託していることにも、善意の活動であることが現れている。
 
■請負業とは「仕事の完成」が要件。しかしふれあい事業は、特定の仕事の完成を主眼としていない
国税側
協力者は依頼を受けた範囲でサービスを提供しており、「仕事の感性」だ。
VS
ふれあい事業では、相手の気持ちや状況に応じて、臨機応変に如何様にも対応している。ある特定の「仕事」やその「完成」という概念には基づいていない。完成度で判断されるのではなく、その時間内に、共にふれあい、心を交わし合うことにこそ力点がある。
 
■団体は助けを求めている人と援助者を仲介しているに過ぎない
国税側
ふれあい事業は、人材派遣業に類似する事業である。
VS
団体は両者の希望を聞いて意思を確認し、紹介するという調整役。サービス提供者と利用者が対等な関係であり、団体はその仲介の労を務めている(従って、誰からサービスを受け誰にサービスを提供するかの決定は本人の自由意思)。
 
■人の善意により運営も多く無報酬で行われている活動を収益事業とはいえない
国税側
ふれあい事業は家事サービス業であり民間営利事業と競合し得るから、収益事業として課税対象となる。
VS
非営利団体が一定の収益事業を営む場合の法人税法の課税趣旨は、同種の事業を行う営利法人への競争上不公平を考慮したもの。しかし、そもそもふれあい事業は、心のふれあいを核とするボランティア活動であって、運営にかかわる多くの人々の無報酬による従事で成り立っている。支払うべき経費すら支払われず人々の善意で行われているふれあい事業は、家政婦業とは、事業内容も事業構造も異なるので、競争上の公平を考慮すべき性質のものではない。
中央社会福祉審も高校教科書も有償ボランティアを評価、認知
 かつて有償ボランティアは、いくつかの市民グループがヘルパーを養成して無償で派遣しようと試みたが、住民が無償性を遠慮あるいは警戒して利用者が増えなかった、そこで会員制にし、なおかつ謝礼をもらうことにしたところ利用者が増えた、というあたりが最初らしい。さらにその後、無償援助に対する抵抗感を緩和するための仕組みとして時間預託システムが登場し、今は地域通貨という新しい分野にも広がっている。
 有償かつ双方向ボランティアによる地域の相互扶助システムは「互酬システム」とも名付けられている。旧厚生省の中央社会福祉審議会地域福祉専門分科会も93年7月29日、「受け手と担い手との対等な関係を保ちながら、謝意や経費を認め合うことは、ボランティアの本来的な性格から外れるものではない」(意見具申「ボランティア活動の中長期的な振興方策について」)と有償ボランティアをボランティアとして認知した。
 また、「さまざまなボランティア活動のグループが、NPO(民間非営利団体)として活動している(中略)。こうした組織は、まったく無償で行うボランティアより継続しやすく、利用する側にとっても、対等な立場で頼みやすい」(中教出版「公民科・倫理」と文部科学省検定済みの高校教科書にも登場した。
 確かに、一方で、「ボランティアは無償奉仕」と厳密に解する人たちも未だ少なからずいるだろう。ボランティアの無償vs有償論議は、過去数十年繰り返されてきた。しかし、これからの少子高齢社会という現実を考えれば、こうした学問上での不毛の論争をただ繰り返すばかりでは意味がない。有償ボランティアの仕組みによって、助け合い活動が広まり、互いに助け合おう、助けてもらおうという気運が社会全体に高まりつつある。そうした基盤から無償の助け合いも広がっていく。
 仮に有償ボランティアは請負業、謝礼は労働の対価という国税の解釈が通ったなら、今度は逆に最低賃金以下で労働基準法違反という問題が浮上しかねない。有料の人材紹介業だというなら職業安定法違反にも問われる恐れがある。旧労働省との間で、謝礼の範囲にとどまる有償ボランティアはこれらの法令に違反しないという了解ができているのに、この問題をむし返す恐れも生じてくるのである。
 しかし、ボランティアとは民業が展開しているすべての分野で可能なものだ。税務だろうが法律だろうが、移送だろうが家事援助だろうが、相手が困っていることを助けようというのがボランティア。そうした個々の活動を無理矢理同種の営利事業に当てはめて課税することは、助け合いの本来の概念を完全に覆すことになる。
NPOの育成が心豊かな高齢社会への鍵
 今回の経緯については、マスコミも関心を寄せている。
 5月2日付け朝日新聞は、早速3段抜きの見出しで、堀田理事長の「『助け合い事業にまで課税するのでは、ボランティア活動の芽をつぶしてしまう』と見直しを求めている」とのコメント、NPO側の「事務局員には報酬も謝礼金もない。活動のための資金に法人税が課せられるのはおかしい」といった反論とともに、流山ユー・アイ ネットが審査請求書を国税不服審判所に提出したことを報じた。同様に日本経済新聞も5月15日、夕刊紙面でこの問題を取り上げている。
 また6月1日付けの毎日新聞では、「ボランティアの在り方問う」と題した「ニュース展望」コラムで、不服審査請求に至った背景なども詳しく紹介。「審査請求は今後のNPO法人や団体の活動にも重要な意味を持つ」というシーズ=市民活動を支える制度をつくる会の松原明事務局長のコメントを掲載し、寄付控除が相手に認められる認定NPO法人が、昨年10月のスタートからわずか5団体にとどまっているなど、NPO法人への支援税制がほとんどなされていない現状を指摘している。
 NPO法人は、他の公益法人と同様、非営利で「公益の増進に寄与する」ことが目的だが、確かに税制の待遇には格段の差がある。みなし寄付制度が認められていないのをはじめ、NPOには助け合いの活動にまで課税しようとする一方で、社会福祉法人は介護保険事業すら収益事業とは見なされず、特例で非課税である。同じ営利を目的としない団体でも「社会福祉法人なら非課税、NPOなら課税」という不均衡。介護保険が始まった当時、旧大蔵省はマスコミに対し「社会福祉法人は公益性が高く、認定などにも厳格な要件がある。規制から自由なNPOと同等に扱うのは疑問」などと説明しているが、同じ非営利部門を担うNPO法が誕生した今、「措置」時代から行政の受け皿となって一手に福祉サービスを担ってきた社会福祉法人の過剰な優遇と取られても仕方がない。
 介護保険事業については、当初、旧厚生省もNPOは介護サービスの質量充実の重要な担い手だとして、その育成のために非課税を主張し、大蔵省側に課税免除の再考をうながしてきたが、その後は消極的な姿勢が見え隠れしている。NPO側は税制の抜本的な見直しを辛抱強く働きかけているが、現状大きな変化はない。
 流山ユー・アイ ネットのような市民互助型の福祉系NPOの多くは、介護保険事業であっても、企業が参入したがらない過疎地のサービスや介護報酬の低い家事援助などのサービスを積極的に担っている。ましてや助け合い活動は心と心の交流こそを主眼としており、「労働」とはおよそかけ離れた概念だ。一般にこうしたNPO活動に関する法の仕組みや法解釈はその本質を把握せず、営利事業に対するのと同様の理解に立っているため、社会的に有意義な活動を萎縮させてしまっている。
2000年度流山ユー・アイ ネットの決算
(数字は同会の確定申告書・損益計算書による)
 
●介護保険事業+受託事業(収益事業)
収入 34,281,294円(介護保険・受託売上、雑収入)
(1)経常収益 7,083,187円
●ふれあい事業(非収益事業)
収入 6,788,782円(ふれあい事業、補助金、寄付金、雑収入等)
(2)経常収益 4,371,971円
確定申告時
   
11,846,001円
指導により合算で申告した総所得金額
 
2,911,800円
上記に対する課税額
更正の請求時(流山ユー・アイ ネットの主張)
(2)の4,371,971円うち営業外損益を除いた本業のみによる収益1,274,289円
この部分について非課税を主張
農当局の最終課税額
2,413,800円←異議申し立てを棄却した際に税務当局が記した課税額
 
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「異議申し立て棄却」として届いた決定書の文言見本(上)と申請請求書原本(下)







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