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特集
課税されたふれあいボランティア
「新しい公益」の担い手をどう育成するか
 
 各地で有償のふれあいボランティアサービスを行っている市民団体が、税金問題に困惑している。高齢者のお世話や子育て支援など、「困ったときはお互いさま」と地道に行ってきた活動が、「収益事業」に当たると課税され始めたためだ。ことは市民参加型の地域福祉サービスの是非、あるいは日本的ボランティアの今後にも大きく触れる。「新しいふれあい社会づくり」に向けた最前線の攻防。皆で関心を持って考えてみませんか?
(取材・構成/編集部)
流山ユー・アイ ネットが不服審査請求を提出
法人税課税「納得いかない」
 「今回の異議申し立ての件は、ボランティアの生命線にかかわることなので、あくまで正しい解釈を求めます」
 「お気持ちはわからなくはないですが、税法に基づいてやるほかありません」
 春先のとある1日、当財団の堀田力理事長と国税担当者との会話は穏やかな中にも静かな火花が散っていた。
 3月号の本誌「巻頭言」で報じたが、生活援助を核とするふれあい事業を有償ボランティアで行っているNPO法人流山ユー・アイ ネット(千葉県・米山孝平代表)は、昨年末に地元の松戸税務署に対し、同団体の2000年度(平成12年度)ふれあい事業に対する法人税課税を不服として異議申し立てを行っている。
 その後、4月5日付けで、松戸税務署長よりこの異議申し立てを棄却する「異議決定書」が届く。それに対し、流山ユー・アイ ネットは、異議棄却を不当なものとして、東京国税不服審判所長宛に「審査請求書」を提出。4月30日のことである。併せて同日付けで、堀田力理事長を代理人とする委任状が提出された。
流山ユー・アイ ネット概要
●設立
1995年6月(NPO法人格取得99年4月)
●事業内容
(2000年度)
   
「収益事業」
介護保険事業・・・居宅介護支援事業、訪問介護(年間9982時間)、福祉用具貸与、痴呆対応型生活介護
受託事業・・・介護予防・生活支援事業(年間1535時間)、ファミリーサポートセンター事業他
   
「非収益事業」
ふれあい事業・・・家事援助・介護等、相互扶助による助け合い活動。1時間当たり8点(800円)の有償ボランティア、うち事務費相当分200円。年間活動実績8031時間(月間約670時間)
●会員数
841名 内訳・友愛会員(協力者、利用者)744名、賛助会員97名。
「ふれあい事業」が請負業?
利用料は労働の対価ではなく“謝礼”だ
 流山ユー・アイ ネットは、1995年に証券マンだった米山さんが定年退職後に地元のネットワークを生かして立ち上げた。高齢者等への各種生活支援や話し相手など心の交流を行うボランティアを地道に展開し、99年にはNPO法人格を取得。2000年4月には地域のニーズに応えるため、併せて介護保険事業にも参入した。そうして迎えた決算で今の問題に突き当たった。
 流山ユー・アイ ネットでは、介護保険部門は収益事業、ふれあい部門は非収益事業として活動時も明確に区分してきた。今回問題のふれあい事業では、すべて「ふれあい切符」という利用券を使用、1点は100円換算である。1時間8点(800円)の利用料のうち、活動者に6点(600円)が渡り、2点分(200円)は団体に事務運営費として寄付される仕組みだ。松戸税務署からの指導で、昨年5月の確定申告時には、両事業を合算で申告し、課税対象額約1184万円に対し法人税291万円をひとまず支払った(地方税である県民税や市民税も合わせた納税総額はおよそ440万円にのぼる)。
 「しかし、どう考えてもおかしい。私たちは労働としてやっているわけではないし、有償のシステムも、利用者の方々の、まったくの無償だとかえって頼みづらいという気持ちを仕組みにしたもの。だから活動者の受け取る金額も地域の最低賃金以下としていますし、それに運営に携わっているスタッフたちはみな限りなく無償に近い。そうして何とか出した“黒字”も、皆さんのために活動していくためのいわば節約です。ふれあい部門はあくまで非収益事業として行っているため、税務署側には昨年7月3日付けで更正請求を提出しました」と代表の米山さんはこの経緯に至る思いを語る。
 これまでの交渉の過程で、税務署側は法人税を241万円とするなどの減額をした。しかし、肝心のふれあい事業についてはあくまで収益事業としてその姿勢を変えていない。これを不服として、今回の審査請求となった。
【収益事業って何?】
 一般に収益とは儲けのこと。非営利=無償のようなイメージを持つ人は、だから非営利団体が収益事業を行うの? と疑問に思うこともあるかもしれない。しかし、法律でいう非営利とは、利益を特定者に分配しないこと。つまり活動上はどんどん稼ぐことも職員に給料を出すこともまったく構わないが、それで余った儲けは分配せず、その団体の事業目的のために使うというのが非営利団体の使命だ。
 非営利団体が「儲け」のある事業をした場合、その収益に課税されるか否かは、その事業が法人税法の定める33業種に該当するか否かによる。収益事業のすべてが課税されるわけではない。
 しかも、法人税法の趣旨は、同種の収益事業を営む営利法人の競争条件を説くに不利にしないためである点にあることに照らせば、その想定する収益事業は、営利法人と同様の収益を上げるための基本構造をもって営むものに限定されるはずである。
 税務当局のNPO法人に対する課税の動きに対しては、法人税法の趣旨をはみ出していないかどうかを厳しくチェックし、毅然とした対応が必要である。
税額の多少は問題ではない
ふれあい活動の今後を左右
 法人税法では、収益事業に当たるものとして33業種を規定している。流山ユー・アイ ネットのようにNPO法人が介護保険事業を行う場合は、そのうちの一つ、「医療保健業」に該当するとして、所得800万円以下は22%、それを超えると30%と、一般企業と変わらない税率を課す。今回、同様の税率を課したふれあい事業は、「法人税法上、収益事業の『請負業』に当たる」というのが、国税側の言い分だ。
 これに対し、弁護士でもあるさわやか福祉財団の堀田力理事長は、大きく異を唱える。
 「今回の課税には、法律家としても納得できません。解釈論でいえば、彼らが根拠とした『請負業』は、民法に『仕事の報酬』を一つの要件とすることをはっきり規定しています。法人税法だけが特別の解釈をするということはあり得ません。流山では、有償といっても活動料の金額も最低賃金以下で、あくまで謝礼金の範囲。労働の市場価値である対価、つまり『仕事の報酬』ではない。また会員が拠出する入会金や年会費も事務運営費も、『仕事の報酬』として払うものではなく、その本質は団体の活動に共感して行う寄付です。一方、政策論で考えても、普通に“労働の対価”を支払えばまったくの赤字になるところ、一生懸命地域の皆さんのために節約して活動し、また皆さんのために使おうとしているところに課税するような税務政策で、本当にいいのか。有償といっても役員も無報酬で、収益を目的とする営利事業とは全く性格も事業の仕組み(構造)も異なります」
 指摘にもある通り、実は、課税を避けたり、節税する手段はいくらでもある。NPOの役員や事務運営スタッフをはじめ活動者にも世間並みの報酬と給与を支払えば収支は一気に赤字になり、合法的に税金を払わずに済む。「黒字にならないように、お金を払ってしまえばいいんですよ」と国税当局者自身がアドバイスしてくれる。
 しかし、そんなことをしたら、今度は、“有償(謝礼を支払う)”とうい日本にやっと根付き始めた助け合いボランティアの根が枯れてしまう。自発性をエネルギー源とする有償ボランティア事業に対する課税は、災害救援のような緊急支援とは異なり、地域で継続的に行うことが必要な「ふれあいボランティア」や、それに類した地域住民による日常的な助け合いを根こそぎにしかねない。
 米国ではボランティアに支払われるお金は「スタイペンド」(謝礼金)(「ことば・言葉」を参照)と呼び、労働の対価とはみなされない。日本の法制上も解釈は同じであって、流山ユー・アイ ネットの活動はあくまでこの謝礼金の範囲であり、非収益事業だというのが、さわやか福祉財団の主張でもある。







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