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家族と病院をつなぐ施設を全国に
 こうした土地柄を生かした施設が全国にもっとどんどん増えてほしいですね。
長瀬 本当にそう思います。入院が長引くと、看護する家族の経済的、精神的な負担も重くなります。ここで温かいご飯とおみそ汁を食べて、力が湧いてきたというお母さんのお話を聞くと、全国の都道府県に少なくとも一つは欲しいと切実に思います。
 付き添い家族のための施設の整っている病院もありますし、各地の病院ボランティアグループが空き部屋の提供を呼びかけて、部屋の確保に苦心しています。AFLAC(アフラック)(アメリカンファミリー生命保険会社)さんのペアレンツハウスもあります。草の根的な活動は調べようがなくて、今すぐ数字が出ないのですが、いずれにしても圧倒的に足りない、というのが現状です。
 ただ私は、だからといって病院が付属施設を設けるべきとも思わないんですね。病院は、付属施設の運営や経営のことなどに頭を悩まさず、医療本来の仕事に専念すべきだと思います。患者さんの家族はボランティアで支えるから、医療に万全の注意を払って臨んでくださいって思うんです。こういう施設ができました、と報告しますと、皆さん「何かできることはありますか?」と言ってくださいます。企業には、今後の維持運営が大切だからと寄付や協力をお願いします。政府には、こういったボランティア活動団体に税制上の優遇措置をとることで後押ししてほしい、この一言ですね。
 これからは、官民の垣根を越えて、医療は社会が支えていく時代ではないでしょうか。ボランティアの力で、つまり市民の協力で、日本の医療環境を変えていけるのではないか、と思います。他の企業もこういった施設の建設に踏み出し、それぞれの特色を生かしたボランティアが展開されていくとおもしろいと思います。こうした社会が医療を分かち合う、というコンセプトを正しい形で全国に広めたいんです。
温もりのある社会をつくるには緩衝剤が必要
 病院と患者さん、社会と家族との良い関係をつくるためには、緩衝剤となるものを仲立ちにして環境づくりをすればいい、ということでしょうか?
長瀬 戸惑う方もありますが、ここでは利用者同士、患者さんの家族同士の交流もできるので、得るものも多いと思います。励まし合ったり、慰め合ったり、情報の交換をしたり。私たちは家族を孤独に追いつめないよう、くつろいだ雰囲気をつくり出すことを心がけるだけです。病院とボランティアが協力すれば、居心地の良さをつくり出せると思っています。
 患者さんが医師に不信感を抱いたり、医師の方でも警戒心を持ったり、という緊張関係の中では、いい治療ができないですよね。患者さんが、病院で聞き逃したことを確認したり、逆に、医師が直接患者さんには言わない、ちょっとしたことを、家族に伝えたりというときの仲立ちができれば、診療はスムーズにいくのではないでしょうか。こういった病院と家族をつなぐ役目が自然にできるのがボランティアの良さです。
 
 長瀬さんご自身、患者さんと医療との緩衝剤として役に立ちたい、ということが転身の理由だったのですか?
長瀬 病院で働く人間として、遠隔医療のシステムをつくるとか、病院の外来にボランティアの協力を導入するとか、親しみやすい身近な医療とは何か、と考えてきました。その集大成として3年前、大きな学会で「いのちの博覧会」という催しを成功させて、一応私の中では「やるべきことはやった」という達成感を味わって、区切りがつきました。すごく気が済んじゃったのね(笑)。それで、その催し終了直後、こちらに飛び込みました。私自身はずっとボランティアを続けていましたし、NPO活動もわかっていたので、抵抗はありませんでしたね。
 
 激務に追われる長瀬さんは、「箏曲演奏家」としての活動も続けておられるということですが。
長瀬 あなたが、何で、お筝(こと)なの? と驚かれる方もありますが、私はずっと自分を「8時半の女」と呼んで、出張や抜けられない用事以外は、この時刻には家に帰って、筝の稽古をしています。演奏会前は「8時の女」だったり「7時の女」になりますが。修行のようなもので、さぼれないんです。
 邦楽というのは、自分と対峙すると言いますか、自分と向かい合う精神的な音楽なんですね。演奏家として常に自分を律するため練習は欠かせません。「心の琴線に触れる」という言葉があるくらい、琴の音って、いいものなんです。若い人に、選択肢を広げてもらうために、いろんな音楽に触れてもらいたい、いい演奏を聴いてもらいたい、その中に邦楽があってもいいと、演奏会などの企画もします。そのためのNPOでもあるんですよ。古典から現代音楽まで日本の伝統楽器による音楽を、世界の多くの人々に聞いてもらいたい、というのが設立の趣旨です。
 また、朝髪振り乱してゴミを捨てに行く私に(笑)必ず挨拶する登校の子どもたちのためにできることはないか、と、ボランティアで近所の公立中学に教えにも行っています。ボランティアの基盤は地元でつくる、ということを実践しています。今回たくさんの方にボランティア応募していただき、個人面接して思ったのですが、肩書を背負っていてはできませんね。今できることを、できるときに、時間を捻出して、やってみる。ただし肩書ははずして。私は、自分が楽しいんだからいいじゃない、というのんきな人間ですので、無理せず両方続けています。
 
 
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