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今 心の教育を考える
取材・文/川尻 富士枝
地域と学校がつなぐ子どもの「心の教育」
配食に手紙を添えて―
神奈川県川崎市立西御幸小学校
 
 「おばちゃんたち、何をしているの?」と、ドアを開いた5年生の声が始まりだった。地元川崎市幸区で地域のお年寄り対象のふれあい型配食サービスをしていた「みゆきゆかりの会」は、それまで活動していた場所が使えなくなり、1998年に西御幸小学校の特別活動室(地域にも開放された部屋)を借りて毎週火曜日、この活動を続けていた。
 5月のある日、いい匂いが漂ってくるのに興味を持った当時の5年生がのぞきに来た。代表の中村美代子さんが事情を話すと、自分たちもお手伝いさせてというので、野菜を洗ったり切ったりという簡単な作業をやってもらっていた。「そのうち、『お手伝いもいいけど、お弁当につけるお手紙を書いてくれない?』と、話したんだと思うんです」と、当時を思い出す中村さん。子どもたちはさっそく担任の水沼富士位先生にお願いに行ったところ、すぐに「とても良い活動」と許可が下りて、お弁当に添える手紙を書き始めることになった。
 この活動は、今年度から総合的な学習の時間の完全実施に併せて、その中の地域に生きる子どもたちの心を育てる大事な活動として、年間110時間のうち10時間を使う。帯単元として位置づけるために、毎週火曜日1時間目の15分を1モジュールとして取り、15×3で1単位時間としている。教師も6年の担任はこの活動を当然のように引き継いでいる。「こうなるまでには4年間の中村さんたちの協力や、その時々の担任の工夫があってのことなんです」と語るのは、2000年(平成12年)度に6年を担任した川口和子先生。
 みゆきゆかりの会は、学校で活動を始めてから、毎年子どもフェスティバルの手作りコーナーを担当し、子どもとかかわろうと努めている。99年に6年の担任となった浜田浩一先生は、5年生の時の活動の継続を図るために、学級活動として「ゆかり係」を作り、係の子どもたちがパソコンで作った献立表に手紙を書く欄を設けて、クラス全員が手紙にかかわるようにした。
 3月にはバトンタッチの会を開き、6年生から5年生に活動を引き継ぐ見習い期間も設定した。これは2001年度の6年担任前田利憲先生にも引き継がれたが、継続していくうちに子どもたちの中には「どうしてやらなければならないの?」という素朴な疑問も芽生えたという。確かに毎週火曜日に必ず書かなければならないというのは、辛いと感じる子もいるのだろう。しかし、地域の方、保護者、先生、そして何より喜んでくれるお年寄りがいることが励ましとなり、今年度を迎えることができたのである。
 「校長先生の理解も得て、みゆきゆかりの会の人たちと仲良くなる先生がだんだん増えてきて、いい感じで創られてきたなあと思っています」との川口先生の言葉には、担任が替わろうと、教師が転勤しようと、この活動は西御幸小学校の大切な特色という自信があふれていた。
 
(上) 地域の皆さんが作るお弁当に添えられた可愛い手紙の数々。
(下) 「宛先を間違えないようにしないとね」。先生と確認する子どもたち
コラム
手紙ではぐくむ心の交流
冊子『おじいちゃんおばあちゃん元気かな・・・。』第2弾が完成しました!
 2000年度から2年間、社会福祉・医療事業団(子育て支援基金)の助成を受けて、手紙による心の交流事業を展開してきました。1年目には、指導者用冊子を作成しましたが、2年目に当たり、対象を児童生徒に。また、子どもたちが学校や地域で活動するときに具体的な手引きとして使えるように、活動を始めるきっかけや手順、手紙の書き方などを、わかりやすく簡潔にまとめています。一方では、指導者向けに、「指導のポイント」欄も取り入れました。
 中でももっとも力を入れたのは、本誌2002年3月号の「今、心の教育を考える」でご紹介した山口県鹿野中学校生徒の作文をもとに作成した絵本仕立てのコーナーです。子どもたちにも読んでみようと思わせるには、イラストがモノをいう。担当者はデザイナーと何回も打ち合わせを繰り返し、過度に子どもっぽくはなく、しかも明るく元気な感じになるように全ページカラーでステキな体裁に仕上がりました。おかげで学校現場の方々にも好評を呼んでいるようです。ぜひ、この冊子を通じて、さらに「手紙の交流」が各地に広がっていってほしいものです。
 
ミニレター付きで好評の冊子(B5判本文28ページ)
 
*ご希望の方にお分けします(郵送料のみご負担ください)。お問い合わせは、さわやか福祉財団社会参加システム推進グループまで。







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