特集 新しいふれあい社会を考える
特集●清見潟大学塾
市民が教授になり塾生になる
「市民参加型生涯学習システム」とは
静岡県清水市にある「清見潟大学塾」は、市民参加型の生涯学習を実践して16年、全国でもその存在を知る関係者は多い。長年にわたり活発な活動につながっている秘訣は、「市民参加型」の生涯学習システムだ。今回は、ますます盛んな清見潟大学塾を改めて取材し、また、今後の生涯学習のあり方を考える機会としたい。
(取材・文/阿部 まさ子)
行政主導の生涯学習からの脱却
少し大きな町には生涯学習センターや文化会館があり、市区町村から家庭に届く広報紙には、無料か実費程度で学べる講座の案内が必ず載っている。好奇心と外出できる環境にさえあれば、地域の中で趣味やスポーツを楽しみ、教養を深める学びの場はたくさん用意されている。
文部科学省が3年ごとに全国の自治体を対象に実施している社会教育調査の直近のデータ(1999年10月1日現在)によると、生涯学習の場として最も身近な公民館(類似施設を含む)は全国に1万9000館、体育施設は6万1000施設ある。他に博物館(類似施設を含む)が5100館、図書館が2600館など、いずれの施設も3年前の調査時より増加している。
こうした場を利用して教育委員会や社会教育関係施設が実施している講座のうち最も多いのは公民館の講座で、調査の結果、27万4000件の講座が公民館で実施され、これを受講した人は1001万4000人にのぼったというからものすごい数だ。この他、教育委員会が実施したスポーツ教室などに630万9000人。このような数字を見ても、全国の町々でさまざまに生涯学習が行われており、市民が地域でお金をかけずに学ぶことができるのは良いことに違いない。
しかし、生涯学習への関心が非常に高い昨今だが、一方で、お仕着せの講座を受講するだけの学習に物足りない思いをしたことはないだろうか。
公民館などで講座を受講したことのある人はご存じだろうが、こうした行政による講座はほとんどが定員制か期間限定制で実施されている。行政の予算と人員に限りがある以上、講座に定員や一定の期間を設けるのはやむを得ないことである。行政の事業には自ずと限界がある。
行政の財政事情や職員配分いかんでは、生涯学習事業にかける予算や人が減少することもあるだろう。先の社会教育調査によれば、年々学習機会や受講者が増加している一方で、教育委員会の社会教育主事や公民館の公民館主事など指導的立場にある職員数が、99年度はマイナスに転じている。
そうした行政主導の生涯学習システムの限界に早くから着目し、学びたいという意欲のある限り、死ぬまで学べる場を自分たちでつくろうと、市民が教え教えられ、共に学び合う生涯学習の場として85年(昭和60年)に誕生したのが清見潟大学塾なのである。
3100人が集まって大学ゴッコ
清見潟大学塾の清見潟とは地元清水市の景勝地三保の浦の古称。自然豊かなこの地で「とことん学んで、ちょっと臥せって、あっさり死ぬ」のが建学以来の基本哲学だ。
「高齢者といえども行政にオンブにダッコの甘えは許されない時代です。清見潟塾が目指すのは、高齢者一人ひとりが自分の責任で最後まで生きがいに満ちた人生を送る自立的な高齢社会。なるべく行政のお世話にならずにみんなで大学ゴッコを楽しみながら元気に暮らそうと、従来の学習システムとは全く異なった発想でスタートしてすでに16年。我々はこれを『市民参加型生涯学習システムへの挑戦』と名付けているんですよ」と話すのは、清見潟大学塾の塾長、大石正路さん(77歳)だ。
まず清見潟大学塾の概要をご紹介しよう。ここでは受講生を「塾生」、講師を「教授」と呼ぶ。講座は第1学部(作品展示部門・書道、絵画、陶芸、写真、表装、人形制作、手芸、生け花など)、第2学部(ステージ発表部門・ピアノ、コーラス、ダンス、演劇、詩吟、舞踊、気功、楽器演奏、マジックなど)、第3学部(文化教養部門・古代史、郷士史、文化史、外国語、古典、短歌、俳句、シナリオ、パソコンなど)の3部門からなる。15講座を修了した塾生には「博士号」が与えられる。
現在開講中の第17期(2001年10月〜2002年9月)の講座数は138。3100人の塾生が学んでいる。このうち10年来の人気講座がピアノ教室。第17期も12講座が開講中だ。清見潟塾はいわゆる老人大学ではないから誰でも受講できるが、ピアノ教室だけは例外。50歳以上という年齢制限を設けている。
取材に訪れた日も、中央公民館では書道、ピアノ、気功、俳句、ドイツ語などの講座が開かれていた。教室は市内の1校区に1館ある公民館の空いている部屋を借りている。ウツワにお金をかけないというのも建学以来の方針だ。
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(上) |
書道教室。新入りの塾生は最前列に。昨年定年を迎えた男性だ |
(中) |
生活習慣病予防のための気功教室 |
(下) |
俳句教室 |
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