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挑戦―幸福(しあわせ)づくり
数億の仲間の協力で誕生した尊い生命
堀田 力
さわやか福祉財団理事長
 
せっかく生まれてきたのだから、自分の体と心によいことをしてあげたい。
週に1回は思い切り朝寝坊するとか、晴れて緑の風が吹く日には、足にまかせて森を歩くとか、心の時間が埋まらない日には、遠くの友を訪ねて子どものように素直にすべてを語るとか、そのようにして生きていきたい。
 
 求められて中学生や高校生に人生を語る時、私は、自分が中学生だった時校長先生から受けた性教育のショックを話すことにしている。
 「中には、親に対して、“生んでくれと頼んだわけじゃない”などと居直る人も居るかもしれないが、君たちの素となった精子は、数億の仲間たちを押しのけ、卵子と結合したのです。あなた方の生命は、数億の仲間たちの生命を犠牲にして生まれたものなのです」
 生徒たちは、顕著な反応を示さないが、うつむき、静かになる。
 ところが、最近、さらにショックを受ける事実を学んだ。数億の精子は、互いに協力し合って自分たちの進む道を開き、仲間のうちの1匹(か2匹)が卵子と結合するのを助けた後、流れ去っていったというのである。彼らが「協力しよう」という意思を持っていたかどうかはわからないが、客観的には、彼らの協力なくしてヒトの生命の誕生はあり得なかったことになる。己を犠牲にしたのだから、生まれた生命はなおさら尊いといえるだろう。
 そのようにしてせっかく生まれてきた生命を大切にする方法は何だろうか。
 大切な生命だから、なるべく使わないようにしようというのは、実はもっとも粗末にしていることになる。身体も心も、使わなければたちまち滅びてゆく。生命は、いきいきと活躍することによって保たれるのである。
 いきいきと活躍するには、やって充実感、達成感が得られることをするのがいい。充実感は、自分の能力が生かされる時に感じられ、達成感は、ヒトに役立つことを成し終えた時生じる。生きているというのは、そういう状態をいう。
 しかし、生命力は有限であり、回転しっぱなしでは壊れる。その危険が生じた時、心は必ず教えてくれる。そういう時には、何をさておいても快い休息を取ることが必要である。それも、生命を大切にする方法として忘れてはならないことである。







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