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今 心の教育を考える
取材・文/川尻 富士枝
先生は学校と地域を結ぶ総合プロデューサー
地域でのふれあい活動が教師のやりがいになるまで
石川県金沢市立森山町小学校
 
 「体験活動での地域の方々との交流を通して温かい人間関係が培われ、皆さんの心温まる指導のおかげで、子どもたちが終始意欲的に活動する姿が見られるようになりました。今では私たち教師は、伝統文化や工芸よりも、心の交流の方にやりがいを感じているんです」と語るのは、石川県金沢市立森山町小学校教諭の石井百合子さん。
 学校と地域が一体となったこの伝統文化を生かす取り組みは、文部省(当時)の推進校に指定された1995(平成7)年度から始まった。その中心となったのが当時転勤してきたばかりの石井さんである。今では、体験活動として4年生は焼き物、5年生は金箔、6年生は加賀友禅とそれぞれ年間計画に位置づけられ、また当地に伝わる能や狂言はクラブ活動として行われているが、初めは教師たちにとって未知の世界で手探り状態だったという。「金箔の職人さんの家では、子どもを連れて来られるのは仕事のじゃまになるから困ると言われました。でも、あきらめずに何度も足を運び、上がり込んで話し込むうちに、じゃあ来てもいいよということになって・・・。こんなふうに何軒も回りました」と、この時から総合プロデューサーとしての手腕を発揮し始めた石井さん。最初はあまりいい顔をしなかった職人さんたちも、後継者に恵まれない中、子どもたちが自分の家に来るようになり技術を教えるうちに仕事にやりがいを感じるようになったという。
 
笑顔のステキな石井先生
 
 同年9月には、地域のお年寄りに「はあと・めーる」を出すという活動も始まった。手紙だけでなくタネから育てた葉ボタンを11月に手紙相手の自宅に届けに行く。1年生から6年間、特別な事情がない限りずっと同じ人に出している。
 「最初は市から豊かな心を育てるとかで、5、6万円お金が来て。で、お年寄りのために何かできないか。タネから育てた植物を送ろうかということに。その時すでに夏を過ぎていたので、葉ボタンくらいしかなくて・・・。結果としてお正月にふさわしいと喜ばれました。その後、いい活動だから続けてと、健全育成推進協議会から毎年お金が出るようになり、すっかり定着しています」と、ここでもまた発案したのは石井さん。土づくりには子どもと一緒に教職員が汗を流す。「石井先生に言われると全員素直にやるんです。私が言うよりも効果がある」と校長の小阪栄進さん。600名の児童とお年寄りとをマッチングさせるのは大変なことである。丹念にお年寄りの名簿をもとに地図上に印を付け、町別にお年寄りの数によって担当児童を決めていく。
 この緻密な作業が欠かせない。若かったからできたと笑う石井さん。お年寄りの中には世話が大変だからと断る人もいるそうだ。しかし、入院したのを知らずに留守宅に置いてきたときに隣の人から、その方が退院されるまで預かって面倒を見ますと手紙が来たり、寝たきりのおばあちゃんからお嫁さんの代筆でお礼状が来たりと、毎年感動することがあるという。使った鉢は毎回きれいにして返してくれるため、使い回しがきく。当初は尻込みしていた教師も、やり始めると自身が温かい気持ちになり、活動に積極的になっていく。校長をもうならせ、学校や地域の人々を巻き込んで活動を仕掛けてきた石井さんに、これからの教師に必要なのは企画力と行動力であることを改めて教えられた。
 
児童も教師も脇目もふらずに土作り
 
上級生に手伝ってもらい「どうもありがとう」
コラム
行政が学校協力勝手連に名乗りを上げた?
 「国土交通省職員が、教室にゲストティーチャーとしてお招きいただいた際に実施する教育プログラムを作成することになりました。教育現場の声を反映したものとするために、ぜひともご意見を・・・」と河川情報センターから取材の依頼を受けた。何を隠そう、筆者はさわやか福祉財団に研修で派遣される前は小学校で環境学習を推進していた。小学校が川の環境保全のNPOとともに活動し、見いだした課題から保護者や教師をはじめ、大人に提言をするというもの。詳しくはオニコ環境カンパニー(http://www.geocities.co.jp/NeverLand/1277/)をご覧あれ。財団での研修に入る直前の3月に慶應義塾大学で「鶴見川子ども流域探検隊」として児童が発表したのが目に留まったようだ。国土交通省は、すでに昨年10月より学校教育現場における河川を利用した環境学習の支援ホームページ「川で学ぼう」を立ち上げている。学校用のパンフレットには「子どもがはじける!! 笑顔が輝く!!」というキャッチコピーが付き、川で学ぶことの楽しさを紹介している。「何でもご意見を」というので、それならばと、川で遊んで楽しいだけでなく、国土交通省として環境に対してどんな思いを持った子どもにしたいのか明確にすること、環境も福祉と同じく人とのかかわりを大切にすること、地域性を生かすこと、など様々に言わせていただき、その揚げ句に「これって、さわやか福祉財団で今まさに推進しようとしている“学校協力勝手連”の行政版ですよね。ぜひ成功するようご協力いたしますから」などとも付け加えて、しっかりPRしておいた。この記事が出る頃には学校現場へ戻っている筆者であるが、行政にありがちな「やりました」という記録だけに終わらせないよう、今後も注目していくつもりだ。







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