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ありがとうを循環する地域通貨 13
時間預託から世代間交流へ
 
「海の手倶楽部」
 「コレはいい! 我々も夫婦で入会してみないか」
 傍らで新聞を読んでいた夫が、頬を紅潮させてこう叫んだ。それが、戸澤昌子さんとニッポン・アクティブライフ・クラブ(略称ナルク)との最初の出会いだった。
 ナルクは全国ネットで支え合うことを目的とした時間預託のボランティア組織で、会員相互の助け合い活動によってサービスを提供すると、1時間1点として預託通帳に記録。将来、自分が困ったときや思いがけず病気になったときに、預託したボランティア時間を引き出してサービスを受けることができるというシステムを採用している。
 さわやか福祉財団でも、こうした時間預託などを活用した助け合いのシステムを「ふれあい切符制度」と愛称で呼び、当初から推進しているのは多くの皆様ご存じのとおり。そして、このふれあい切符も、地域でのサービスの交換を媒介するという意味で、ここ2、3年、各地で話題になっている地域通貨の一種といえる。
 戸澤さんは、「自分にできることでボランティアをしながら、地域に助け合い、親睦の輪を広げていこうというのがいいわね」と、早速、夫妻で自分たちが住む千葉県内に拠点を置くナルク千葉に入会を決めた。1999年1月のことである。
 だが、当時のナルク千葉の活動は広範。「もっと自分の地域に密着した活動を」と、居住地区での活動を広げていく仲間の姿に刺激を受け、戸澤さんも自宅のある浦安市周辺での新拠点設立を模索。賛同者を探し、半年間にわたって8回の設立準備会を開催。そして昨年5月12日、会員数52名で、ナルク浦安・市川拠点「海の手倶楽部」を立ち上げた。
人の善意を目に見える形にしたのが地域通貨・時間通貨
 こうして「できることを、できるときにボランティア」を合言葉に、「海の手倶楽部」の活動が始まった。活動内容は一人暮らしのお年寄りの話し相手から、外出・移送支援まで様々。だが高齢者の生活支援を中心とした助け合い活動に加えて、戸澤さんにはぜひとも実現したい夢があった。「それは生活の知恵を介した世代間交流です」
 ところでさわやか福祉財団が今、地域通貨の中でも特に推奨していこうとしているのが「時間」を単位としてサービスを交換し合う「時間通貨」だ。ふれあい切符(時間預託)は「いずれ」自分や家族が使うといった異世代にわたったものだが、こうしたふれあい切符の広がりと同時に、福祉の分野だけではなく環境やまちづくりなど多分野で、半年や1年といった間に、もっと気軽に時間を単位としてサービスをやりとりする「いま」現在の時間通貨も近隣助け合いの手段として推進していきたいと考えている。
 戸澤さんも、少子高齢化の今日、高齢者や障害者だけでなく、若い世代の子育て支援もすべて不可欠というのが持論。
 「多様なサービスが登録されれば、その分、会員の選択の幅もより広がるし、地域の新たなコミュニティーづくりにも貢献できるはず」
 戸澤さんらは会員に訴えかけ、思いを形にすべく培ったネットワークを駆使し、また行政や社協、福祉団体等とも連携して、家庭から出る廃油を石鹸に加工する環境活動「石鹸教室」や「ナルクおもちゃ病院」「手作りおもちゃ工房」など、市民に向けたイベントの開催に乗り出した。おもちゃドクターの中には高校生もいるが、彼らには準会員となってもらった。また、厚生労働省が子育て支援事業の一環として新たに「つどいの広場事業」を創設するという情報を入手すると、今度は市の担当者に事業の実施を逆提案。運営の委託まで取りつけた。
 「“つどいの広場”の本来の目的は、子育て親子の交流、集いの場を提供することにあります。でもせっかくそういう場をつくるならば、もう一歩すすめて、世代間交流の場としたい。その具体的な構想を提案書には書きました」
 そこに行けば何かほっとする時間がある。ちょっとした子育ての知恵ももらえる。お気に入りのおもちゃが壊れたら直してくれる。手作りおもちゃも教えてくれる・・・。地域の子どもから高齢者までが自然な形でふれあえる場が提供できる、目指すは地域家族の創出であろうか。
 「たとえば子どもがおもちゃを修理してもらったら、その大人に地域通貨を渡す。子どもたちは自分のできることで地域通貨をもらう。ステキなデザインにして・・・、面白そうね」と戸澤さん。
 「人の善意が、目に見える形になったものが地域通貨であり、時間通貨。そうしてボランティア活動が形で残されていくと、楽しみや生きがいにもつながります。このツールを使えば、まだまだいろんな仕掛けが考えられそう」
 戸澤さんの心は今、ワクワクしている。次々にやりたいことが目白押しだ。そして「きっと、何かが変わる・・・」。
 それは新聞記事を見つけた、3年前のあの日の高揚感に似た思いである。
 
地域通貨を始めるには、どのくらいの初期資金が必要なの?
 ズバリ、ひと言で答えるなら、お金はまったくなくても始めることも可能。たとえば地域や職場の仲間数人で、手書きやあるいはパソコンで独自の「地域通貨」券をつくればオーケー。日頃は遠慮しがちなことも、地域通貨で互いに助けてもらいたいことがより気軽に言い合えるようになるのでは?
 では、もっと本格的にグループ、団体として、地域通貨をやってみたいと考えている場合はどうだろう?必要な経費はだいたい次のものが考えられる。
(1)紙券、通帳などの地域通貨ツールの作成費
(2)申し込み用紙、会員カードなどのコピー代もしくは印刷費
(3)活動内容のわかるチラシ作成費
(4)事務所・電話設置等にかかわる諸雑費、人件費
(5)会議費(会場費等)
 もっとも費用がかかるのは事務所家賃だが、最初から事務所を借りなくても、自分の家からでも十分始められる。また会議費にしても、公民館や地域のボランティアセンターなどの公共の場を上手に活用すれば無料で済むし、チラシや申し込み用紙はパソコンの得意な人に作ってもらうという方法もある。つまり工夫次第では必要経費はごくわずかで、数万円程度からでもそれなりに始められるということ。
 また初期資金だけでなく、実際に運営をしていく上でも、電話代などの経費がかかってくるが、そうした資金を捻出するには、大まかに次の5つの方法がある。
(1)会費(年会費か月会費)
(2)寄付
(3)助成金・補助金
(4)自主事業(リサイクル・バザー、セミナー、講演会の開催など)
(5)委託事業
 これらは通常、ボランティア団体の活動を行うのと同様のもの。特に地域通貨の場合は、地元の商店街などとも連携しやすい場合もあり、どんどんアタックしてみよう。







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