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3. 在宅ケアの実際
 ホスピスプログラム導入にあたり、まず明らかにされていることは、Do not resuscitate の記録がされているかどうかである。またdual power of attorney のサインがあり、誰が患者のかわりに意志決定をするかどうか明らかにされる書類があった。
 一人暮らしの患者さんも多くいたが、やはりケアシステムとして遠く離れた家族でもケアのために集まってきたりする家族内の協力があるケースはサポートもうまくいくようだ。しかしながら、家族が遠くに住んでいてこないとか、まったく一人であるという人も、友達のサポートがあったり、また24時間のエイドを雇ったりしていて、自宅でのケアを可能にしていた。それでも主介護者がいない患者のケースは難しい介護ということで、ナースのアセスメントのポイントとして、ケアシステムの存在は大きな重みをしめていて、家でのケアからSkilled Nursing facility (特別介護老人ホームのようなところ)などへ移行するケースもあり、このようなときは看護介入をおこなう。
 家族がケアのために消耗してしまうことを避けなければいけないという点では介護者、患者スタッフともにコンセンサスがあり、ケアの重みが主介護者に行くことを避けるようサポートをアレンジしていた。具体的には、患者直接ケアボランティアが、主介護者が用事で出かけるときに、患者のそばにいることをアレンジしたり、主介護者が友人と昼食をとりに外に出る間、その他の家族が患者のそばにいるという対応をとった家族に、是非そのようにすることを勧めていた。レスパイトケアとしての施設はなかったが、ボランティアが患者のそばにいることで主介護者の用事ができること、また老齢の主介護者では、ベッドバスや、患者の体位変換などの身体を使うケアも24時間対応の介護者を雇うことを具体的に相談にのっていた。この場合でもホスピスプログラムに参加ということで短期間であるという考えのもと(実際この患者はホスピスプログラムに紹介されてから5日間でなくなった)、24時間介護の人がつくことによる費用の心配をしている家族はなかった。これは、マリン地区が裕福な地域だから可能なことだったのかもしれないが、基本的にホスピスケアはメディケア、メディ・カル (メディケイドのカリフォルニア版)により支払われている。ホスピスプログラムが導入されて患者家族はまず、自分たちがすべてを背負わなくてもよいのだという安心感があった。
 
4. 地域で行われたアートセラピー
 アメリカの社会にとっても死について語ることはタブーになっている。とくにテクノロジーが発達した現在、誰にでも死は訪れるというコンセプトを持つことが難しいようである。患者は死について話すことを恐れたり、否認が続いてなくなるケースもある。アメリカが進んでいる国だからといって死についてオープンなわけではない。このような状況の中で死に直面した患者本人や、家族にとってホスピスプログラムの存在は大きなものであった。また地域もかかわりサポートがなされていた。
 2月のある日曜日に、地域のアートスタジオでペイントダンシングセラピーに参加する機会を得た。これは、がんの患者さんとその介護者のためのアートセラピー、絵の具をつかって大きな絵をかく。また音楽に合わせてダンスをすることで自分の状態を表現するというものである。5時間のセッションで、メディテーションを行い、今回のセッションでどのようなことを明らかにしたいのか皆で一言ずつ話し始めていった。clarity、heart、openness など色々なテーマをみんながそれぞれもっていた。
 音楽に身体の動きをあわせていき、それにあわせて絵をかいていくことで、自分がどこにいるのかが明らかになるようである。筆者はちょうど、このホスピスの経験を通して、死を取り扱うという怖さから、死が近い人の中にある生命の力というものを意識したため、オープンな素直な絵になった。このセラピーはこのように絵を通して自分のいる場所を認識し、次に進んでいくためのステップになるもので、患者さんや介護者だけではなく、医療従事者としてかかわる自分の気持ちの整理になった。
 また、このセッションを勧めてくれたナースに、毎日患者のつらさや死に向かい、自分の気持ちをどのように整理しているのか?と質問したところ、このような絵を描くことで自分の気持ちを整理しているとのこと。また自分のなかでどこで死を取り入れて話しをするか、どこで死を自分から押しやるのかというバランスを保っているということ。同じ職場の人とは、死について話をするが、うちに帰って夫には話しをしないなどいつも死といっしょにいるのではなく、バランスをとっているとのことであった。
 このようなアートセラピーは特にマリンカウンティーというユニークな地域にあるため、存在するとのことであった。参加者の絵はすべてパワフルであった。







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