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2−2 フォーカス・グループミーティング
 本研究で作成した実践的教育モデルに沿った実習を受けた学生が、実習プログラムや在宅ホスピスケアに対してどのような感想や考えをもっているか、何を学んだかを明らかにすることを目的として、学生対象のフォーカス・グループミーティングを行った。
 
 フォーカス・グループミーティングの学生以外の参加者はファシリテータ1名で、表IV−3に示すガイドに従って学生達の発言を促した。質問項目は、前半は在宅ホスピスケアに関する質問、後半は実習方法に関する質問を行った。ファシリテータは、質問に対する発言は促すが、意図的に意見を引き出したり、討論を指示したり発言を強制することなく、学生達が効果的に相互作用しつつ討論が進行するよう配慮した。時間は1時間とし、参加者の了承を得てカセットテープに録音・ビデオテープに録画した。録音テープから作成した発言の逐語録からその発言ごとにコード化し、それをカテゴリー化して質的分析を行った。
 
表IV−3 フォーカスグループミーティング インタビューガイド
1. 在宅ホスピスケアで大切なことは?−概念・理念を問う
2. チームケアを行う上で、Dr、Ns、ヘルパー、ボランティア、牧師など、それぞれの役割についてどう考えましたか?
3. 在宅ホスピスケアにおいてどのようなチームケアを行ったらよいと思いましたか?
4. ケアプランを立案してみて、何が難しかったですか?
5. 本人だけでなく、家族へのケアについてどう思いますか?(遺族の話などから)どうして家族へのケアが必要と考えますか?
6. 実際に訪問したり、ご遺族の話を聞いたりと、家族と患者に接してみてどうでしたか?
7. 実習前と実習後で、亡くなっていく人の理解、亡くなっていく人へのケアについての考え方は変わりましたか?・・・どのように変わりましたか?
8. 患者さんや家族から、一番学んだものは何ですか?
9. 今回の実習で、初めての試みとして看護学生と医学生がグループを作り、合同で実習という形で行ってきましたが、このような実習の形態についてどう思いましたか?
10. 実際に患者を受け持って実習することに対してどう思いますか?
11. 事前に提供された情報についてはどうでしたか?
12. スタッフの関わり方、教員の関わり方はどうでしたか?
 
 学生たちの学びの内容には各専攻により違いが見られたため、医学生・看護学生に分けて検討していくことにする。
 
1. 看護学生が学んだこと
看護学生の学びは、1)専門職の役割と専門性を活かした関わりがある、2)看護師の特性と役割がある、3)チームでケアをする、4)在宅ホスピスケアにおける患者・家族・遺族、5)在宅ホスピスケアとは、6)患者を理解することの難しさを知る、7)ケアする人としての自分と他者について考える、の7つのコアカテゴリーに分けられた。
 これらのコアカテゴリーは、32カテゴリー、114コードからなっている。コード数の多かったコアカテゴリーは、「在宅ホスピスケアにおける患者・家族・遺族(32コード)」と「ケアをする人としての自己と他者(21コード)」であった。看護学生は、実習を通して在宅ホスピスケアについて学ぶ一方で、終末期を生きる人々に接し、生きることや自分自身を振り返りながら、ケア提供者としてのアイデンティティ形成につながるような学び方をしていた。
 以下に、看護学生の学びをそれぞれのコアカテゴリーから記述する。
 
1)専門職の役割と専門性を活かした関わりがある
 専門職の役割と専門性を活かした関わりがあるでは、(1)専門家には役割があり、固有の視点を持っている、(2)専門性を活かして患者と関わる、(3)ケアマネジメントが必要である、(4)医師の役割と医師と患者・家族関係のカテゴリーが抽出された。
看護学生は、患者の自宅を訪問する医師と訪問看護師に同行し、それぞれの専門職がどのように患者や家族と関わっているかについて学んでいた。「専門家として果たすべき役割」があることやその領域の「専門性を活かして関わる」こと、「ケアマネジメント」が重要であることに気づいていた。また、在宅ホスピスケアにおいては、医師の「真実を患者や家族に話す」役割が重要で、Bad Newsを伝えた後のサポートも医師の役割としてあげられた。このような医師との関わりがあることで、家族は「安心」し、医師は患者や家族から信頼を得ていると考えていた。
 
2)看護師の特性と役割がある
 看護師の特性と役割があるでは、(1)看護師は患者と多くの関わりがある、(2)看護師はその人らしい生活への援助をする、(3)ターミナルケアにおける看護師の役割、(4)看護の知識が必要である、(5)患者を理解するには感性が必要である、(6)わずかな変化に気づくのカテゴリーが抽出された。
 看護師は「様々な局面で患者と関わり」、患者にとって「最も身近な存在」である。患者が自宅での生活を継続できるよう、患者や家族と「一緒に考え」、「その人らしい生活への」援助をする。いいかえると、自宅での生活には、患者や家族とともに「生活を組み立てる調整」をすることが重要であることを学んでいた。
また、「重症な患者のケアには看護師が責任」を持たなければならない。そのためには、基礎となる「看護の知識」だけでなく、患者の言語化されない思いをくみとれる「感性」を併せ持って、「わずかな変化に気づく」ことが重要になる。
 
3)チームでケアをする
 在宅ホスピスケアでは、様々な専門職が患者に関わっているが、このことについても看護学生は学んでおり、(1)チームケアの重要性、(2)患者−ホームヘルパー関係、(3)対話から得られるがカテゴリーとして抽出された。
 在宅ホスピスケアでは、「チームケアが重要」であり、とくに患者や家族に「Bad Newsを伝えなければならないとき」は、より重要となる。そのため、ケア提供者による「話し合い」は欠かすことができない。一人の患者へのケアに対して、「異なる見解を話し合う」ことで、「ケアの新しい視点が生まれ」てくる。ホームヘルパーには、「その資格から行えない医療行為がある」が、「患者にとって一番近い存在」である場合もあり、このことからもチームでのケア提供やケア提供者同士による話し合いが重要になってくる。
 
4)在宅ホスピスケアにおける患者・家族・遺族
 在宅ホスピスケアにおける患者・家族・遺族では、(1)患者・家族の気持ち、ニーズ・価値を尊重する、(2)家族の役割、(3)患者・家族支援、(4)遺族支援、家族による看とりと遺族のカテゴリーが抽出された。
 終末期を自宅で過ごすことを選択した患者や家族には、彼らなりの「思い」や「大切にしているもの」がある。看護学生は、そのような患者や家族の「価値」や「考え方を尊重して」関わりたいと思い、このことは「患者が望む生活を医療従事者が考えなければならない」ケア提供者の責務ともとらえた。しかしながら、「患者の思いに応えていくだけでいいのか」や「遺族は患者が生きるために試みたことを話していた」、「在宅ホスピスケアでは、看護師や医療従事者が手を出すことがいいことではない」のように、在宅ホスピスケアにおけるその人のニーズをどのように判断し、援助していくかという課題にも気づいた。
 在宅ホスピスケアでは、家族は「ケアを提供する人」であり、「看取りにおいて重要な存在である」。ケア提供者としての家族は、「ケアを提供する立場の辛さ」があり、「ケアしながらケアされなければならない」存在であるとも考えた。
 在宅療養においては、病気、つまりがんであることが問題なのではなく、「病気をもって暮らすために困ることが問題」になる。患者や家族が問題を抱えながら自宅での生活を継続しており、そのために「支援が必要である」。
 家族は、看取りにおいて、亡くなっていく人から「生き方を学ぶ」。看取りを経験した家族は、その後「新しい家族の人生」を歩んでいくが、そこには、「生前の家族の思いが、遺族の生き方に影響」している。看護学生は、患者の亡きあと、その家族が新しい家族として再構築していく遺族の姿についても学んでいた。
 
5)在宅ホスピスケアとは
 在宅ホスピスケアでは、(1)生への希望を引き出せる場である、(2)在宅ホスピスは特殊なもの、(3)苦痛・症状の緩和をする、(4)メンタルケアをする、(5)生活に目を向ける、(6)病気をみる、(7)看とりをする、(8)終末期医療のあり方のカテゴリーが抽出された。
 在宅ホスピスは、医療一般からみると「特殊なもの」であるが、自宅で過ごす患者に出会い、これまで看護学生が学んできた「病態生理以上の余命がある」ことを実感し、「患者の生への気持ちを引き出せる」のではないかと考えた。
 在宅ホスピスケアでは、「苦痛をもたらしている症状を緩和することが大切」であり、苦痛から解放されるによって、「その人らしい生活ができるようになる」。また、病気よりも「生活に目を向け」、「最期まで人間らしい生活」を支援していく。生活という視点だけでなく、病気を持つ人として「病気をみる」こと「精神面のケア」も重要な課題であるととらえた。
 死にゆく人を援助する在宅ホスピスケアでは、「看取りは重要」であるが、医療的ケアの提供については、「重症な患者には必要な医療処置が行われる」。また、点滴のような「医療処置によって、わずかな延命効果が期待できるかもしれない」が、実際には「実施するかどうかの判断は難しい」ものであり、家族と患者の「思いにズレがあるときにはどうしたらいいか」、困難な状況を想定しながら終末期医療のあり方を考えていた。
 
6)患者を理解することの難しさを知る
 患者を理解することの難しさを知るでは、(1)入院・在宅患者イメージ、(2)病態生理を理解する難しさのカテゴリーが抽出された。
 これまでの病院での実習を振り返り、「病院で患者は死刑宣告、死刑執行されているような状態」、「在宅では、患者が生きているという印象」と、終末期における入院治療のあり方を批判的に捉えながら、他方では「病院で最期まで、少しでも長く生きたい」と思う患者もあるとする。在宅ホスピスケアを受ける患者に接し、人生の終わりにおいても「その人の生きてきた過程」が表れていることに改めて気づいた。
 看護学生は、患者の病態についても関心をもっていたが、メカニズムを理解するという点では、「病態生理がどうなっているか、不思議」という感覚的レベルの理解にとどまるか、「病態生理について調べたがよくわからない」のような理解することが容易でないというレベルであった。
 
7)ケアする人としての自分と他者について考える
ケアする人としての自分と他者について考えるでは、(1)人は違った考えをもつ、(2)人としての関わりを大切にする、(3)他者を尊重する、(4)普段の自分を振り返る、(5)生きることについて考えたのカテゴリーが抽出された。
 「人は皆、違った考えを持っている」ものであり、したがって「人それぞれのとらえ方がある」。在宅ホスピスケアにおいては、「看護師同士で見解が異なる」ことや患者と看護師でも「考えは違うことがある」かもしれない。このような差違を前提に、「患者との関係では、医療者であるよりも、人としてのかかわり」を重視したい、また「人を尊重することが大切」であると考えた。
 在宅ホスピスケア実習は、看護学生にとって自分と向き合う機会でもあった。接した患者や家族の様子から、自分自身を振り返り、「家族にも自分がいることの役割」を考え、「自分の思考や感じ方の傾向を意識しながら実習に取り組む」など、普段の自分を振り返りながら学びを深めていた。
 このような学びの様式は、看護学生に生きることの「役割」や「存在価値」を考えさせる実習となっていた。在宅ホスピスケアを受けている患者は、「自然に根源的な問いを考える」、あるいは「自分たちは考えないようなことを、患者は自然に思わざるを得ない」状況があるように思えた。これまでの病院実習では見られない、生きる人としての感覚を持った在宅の患者に出会い、「遺族の話を聞いていても、患者の生へ気持ちを感じ」、「生きたいという気持ちは、余命を長くする」のではないかとも考えた。
 
表IV−4 看護学生が学んだこと
コアカテゴリー(コード数) カテゴリー
専門職の役割と専門性を活かした関わりがある(13) 専門家には役割があり、固有の視点をもっている
専門性を活かして患者と関わる
ケアマネジメントが重要である
医師の役割と医師と患者・家族関係
看護師の特性と役割がある(14) 看護師は患者と多くの関わりがある
看護師はその人らしい生活への援助をする
ターミナルケアにおける看護師の役割
看護の知識が必要である
患者を理解するには感性が必要である
患者のわずかな変化に気づく
チームでケアをする(8) チームケアの重要性
患者−ホームヘルパー関係
対話から得られる
在宅ホスピスケアにおける患者・家族・遺族(32) 患者・家族の気持ち、ニーズ・価値を尊重する
家族の役割
患者・家族支援、遺族支援
家族による看とりと遺族
在宅ホスピスケアとは(18) 生への希望を引き出せる場である
在宅ホスピスは特殊なもの
苦痛・症状の緩和をする
メンタルケアをする
生活に目を向ける
病気をみる
看とりをする
終末期医療のあり方
患者を理解することの難しさを知る(8) 入院・在宅患者イメージ
病態生理を理解する難しさ
ケアする人としての自己と他者について考える(21) 人は違った考えをもつ
人としての関わりを大切にする
他者を尊重する
普段の自分を振り返る
生きることについて考えた







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