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5, 考察
 今回の調査は患者数5名であり、比較的情報の得られやすい患者が選択されている可能性は考えられるため、解釈については注意する必要がある。
 質問項目についての患者の理解はおおむね良好であった。所要時間も20分程度であり、看護師が付き添うことにより、短時間で理解することのでき、時間的に負担の少ない項目であったと考えられた。しかし、いくつかの質問項目に対して、看護師は直接すぎる質問内容であるために、質問について心理的な負担を感じていた。これらの項目については、看護師の意見を参考にして質問内容の練り直しが必要と考えられた。
 今回の質問項目が、村田の3つの概念に対して適合しており、信頼性及び妥当性のある内容になっているかについては、今回の調査が5名という少ないサンプルでの質的な評価を実施したために、判断は難しいと考えられる。しかし、各質問項目は独立して選択されており、少なくともスピリチュアルペインの重要な構成因子として評価できるものと判断される。今後、サンプル数を増やし、統計学的な評価が必要であると考えられた。
 また、今回の対象患者において、2名以上の患者に選択された質問項目は、「こんなことになったのは、バチ(罰)があたったからだ」、「人の世話になって迷惑かけて生きていても、申しわけない」、「誰もわかってくれない」、「死んだら私はどうなるの? どこへ行くの?」、「何でこんなことになってしまったのか」、「私の人生は何だったのか」であり、我が国におけるスピリチュアルペインの志向性についても、今後検討できる可能性が示唆された。一方、各患者における個別的な気がかりも認められ、出現するスピリチュアルペインを広く捉えるのが良いと考えられた。
 最後に、今回のアセスメントシートの実施による患者の心理的負担は、調査後の質問から非常に少ないと判断された。また、ほとんどの患者において、現在の自分の気持ちを知る上でも役に立ったと回答されていることから、アセスメントシートを看護師とともに実施することが、スピリチュアルケアを行う上でも有用である可能性が考えられた。
 
 今回、我々は村田のスピリチュアルペインに関する理論的枠組みに沿ったアセスメントシートを作成し、臨床現場における活用について予備的調査を行った。研究代表者の所属施設において5名の末期がん患者に調査を行ったが、共通するいくつかの回答項目がみられ、我が国において共通するスピリチュアルペインの存在が示唆された。また、今回実施した調査に対する印象としてはおおむね良好であり、実施に対する患者の心理的負担も少なく、現在の患者自身の気持ちを知るためにも有用であった。このことは、本調査が患者のスピリチュアルペインをアセスメントするだけにはとどまらず、看護師との一対一のコミュニケーションをとおして、スピリチュアルペインに対するケアにもつながる可能性も考えられた。
 
村田久行:スピリチュアルケアとは何か. ターミナルケア12(4):324-327, 2002
村田久行:スピリチュアルペインをキャッチする. ターミナルケア12(5):420-424, 2002
村田久行:スピリチュアルペインの構造とケアの指針. ターミナルケア12(6):521-525, 2002
村田久行:スピリチュアルケアの実際. ターミナルケア13(1):66-70, 2003
今村由香、河 正子、萱間真美、他:終末期患者のスピリチュアリティ概念構造の検討. ターミナルケア12(5):425-434, 2002
 
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