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平成14年度(2002年)研究報告

 事業名 医学医療に関する研究助成
 団体名 笹川保健財団  


4. 結果
 [肯定的評価]・[新たな目標の設定]の内容と[意味を見出す]の内容との間に関連がみられた。以下にそれぞれのカテゴリーの内容を示す。
 
(1)肯定的評価
 [肯定的評価]というコーピングは、11名の対象者によって話された。具体的な内容としては、「自分は他のがん患者より楽な状態にある」という発言が最も多くの対象者にみられた。また、がんという病気に対して「突発的な死ではないため、人生の整理をすることができる」、「病気を受け入れることで人間が大きく成長できる」といった発言がみられた。
 
(2)新たな目標の設定
 [新たな目標の設定]というコーピングは、すべての対象者によって話された。具体的な内容としては、生き方に関して「一日一日を大切に過ごす」、「楽しく一日を過ごせるように努力する」という発言が多くみられた。また、身体については「一日でも長く生きる努力をする」、家族に関しては「もっと元気になって家族と旅行したい」というものが挙げられた。終末については「より良く死ぬ・いい終末を静かに迎える」といった発言がみられた。
 多くの対象者が、目標を達成すること、あるいは達成するために努力することが、毎日の支えになると話した。
 
(3)意味を見出す
 [意味を見出す]というコーピングは、9名の対象者によって話された。これは、思考や行動に意味を見出している、あるいは、意味のあることをしているという発言である。具体的な内容としては、「家族と過ごすこと」が最も多く話され、その他には「生きること」、「社会への貢献」に意味があるという発言がみられた。病気の意味よりも人生の意味の方が多く述べられた。
 
 意味の発見や意味のある感覚は、新たな価値のある目標を設定する過程において発生するといわれている(Folkman & Greer, 2000)。また、重要な目標の追求と獲得によって意味が見出されるという指摘がある(Carver & Scheier, 1990;Emmons, 1992)。本研究の結果からも、[意味を見出す]ことが[肯定的評価]や[新たな目標の設定]と密接に関連していることが分かった。しかし、[意味を見出す]コーピングの発言は、他のコーピングと比較してあまりみられなかった。Folkman(1997)の提唱したmeaning−based copingにおいては、コーピングによって、重い病気のような高度にストレスフルな出来事に対して肯定的な感情が生みだされる場合には「肯定的な意味や価値が見出されること」がその特徴であるとされている。しかし本研究の結果によると、対象者の多くは必ずしも毎日の出来事やがんと共に生きることに対して肯定的な意味を見出してはいなかった。このことから、日本人の末期がん患者においては、意味にもとづいたコーピングは多くの個人がとるコーピングではないと考えられた。
 
 初対面の上、突然の依頼にもかかわらず、対象者全員において研究参加への同意が得られた。また多くの協力が得られ、ある程度の対象者数を確保することができた。しかしながら本研究は、一人の対象者に対して一回の面接を行ったものであり、個人の背景を十分取り入れることができたとはいい難い。また、身体的にも精神的にも安定した状態にある患者のみに対して面接を行ったため、データに偏りがあると考えられる。今後の課題としては、面接を定期的に数回重ねることによって、対処の過程をより詳細に理解できると考えられる。
 最期に、人生において最も大切な時期に快くインタビューに応じてくださった対象者の皆様に深くお礼申し上げます。
 
Carver, C. S., & Scheier, M. F. 1990 Origins and functions of positive and negative affect: a control-process view. Psychological Review, 97, 19-35.
Edwards, M. J., & Holden, R. R. 2001 Coping, meaning in life, and suicidal manifestations: examining gender differences. Journal of Clinical Psychology, 57, 1517-1734.
Emmons, R. A. 1992 Abstract versus concrete goals: personal striving level, physical illness, and psychological well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 62, 292-300.
Ferrero, J., Barreto, M. P., & Todedo, M. 1994 Mental adjustment to cancer and quality of life in breast cancer patients: a exploratory study. Psycho-Oncology, 3, 223-232.
Folkman, S. 1997 Positive psychological states and coping with severe stress. Social Science and Medicine, 45, 1207-1221.
Folkman, S., & Greer, S. 2000 Promoting psychological well-being in the face of serious illness: when theory, research and practice inform each other. Psycho-Oncology, 9, 11-19.
Holland, J. C., Passik, S., Kash, K. M., Russak, S. M., Gronert, M. K., Sison, A., Lederberg, M., Fox, B., & Baider, L. 1999 The role of religious and spiritual beliefs in coping with malignant melanoma. Psycho-Oncology, 8, 14-26.
Kissane, D. W., Clarke, D. M., & Street, A. F. 2001 Demoralization syndrome: a relevant psychiatric diagnosis for palliative care. Journal of Palliative Care, 17, 12-21.
Lazarus, R. S., & Folkman, S. 1984 Stress, Appraisal, and Coping. Springer, New York.
森田達也・角田純一・井上聡・千原明 1999 末期癌患者の実存的苦痛:研究の動向. 精神医学, 41, 995-1002.
佐藤雅彦 1997 納得できない死を受け入れようとする文化. ターミナルケア, 7, 225-228.
Thomas, S. F., & Marks, D. F. 1995 The measurement of coping in breast cancer patients. Psycho-Oncology, 4, 231-237.
Wagner, M. K., Armstrong, D., & Laughlin, J. E. 1995 Cognitive determinants of quality of life after onset of cancer. Psychological Reports, 77, 147-154.
Zautra, A. J., Burleson, M. H., Smith, C. A., Blalock, S. J., Wallston, K. A., DeVellis, R. F., DeVellis, B. M., & Smith, T. W. 1995 Arthritis and perceptions of quality of life: an examination of positive and negative affect in rheumatoid arthritis patients. Health Psychology, 14, 399-408.
 
淀川キリスト教病院ホスピス 池永昌之、田村恵子
東海大学健康科学部 村田久行
 
 日本に終末期がん患者への緩和医療が紹介されて20数年がたつ。また、厚生省によって緩和ケア病棟が初めて承認された1990年から、緩和ケア病棟の数は100施設を越え、急速に増加している。そして、緩和ケア病棟・ホスピスに限らず一般の病棟においても、もはや治癒を見込めない終末期がん患者にその痛みと苦しみを和らげるケアを提供する緩和医療の考え方が広がりつつある。このような現状の中で、近年、スピリチュアルケアに対する関心が非常に高まってきている。終末期患者の示すスピリチュアルペインのサインには、生の無意味や無目的、あるいは、癒されることのない孤独や虚無の不安を訴えるもの、また、身体が衰え、人に依存せざるを得ない自分を無価値、無意味と感じる苦しみの言葉がある。我々はスピリチュアルケアにおいて、これらの言葉の中にそのサインを敏感にキャッチしなければならない。
 この欧米から我が国に紹介されたスピリチュアルケアの普及に関連して、日本人のスピリチュアルペインに関する研究は多くなってきている。村田は、自分自身の死、ほかならぬ「私が死ぬ」という死の想念は患者に強い衝撃を与えるとともに、その時の患者の意識の志向性に応じてさまざまなスピリチュアルペインを現出させるとしている。そのなかで意識の志向性に応じて、時間存在である人間のスピリチュアルペイン、関係存在である人間のスピリチュアルペイン、自律存在である人間のスピリチュアルペインに分類されるとしている。そして、その分類にしたがって、個々のスピリチュアルペインに対するケアの指針についても報告している。
 今回我々は、この村田のスピリチュアルペインの理論的枠組みに従った、スピリチュアルケアの実践においても有用と考えられるアセスメントシートの開発における、予備的調査を行ったので報告する。
 
 今回、我々は村田の述べる時間存在としてのスピリチュアルペイン・関係存在としてのスピリチュアルペイン・自律存在としてのスピリチュアルペインの代表的な質問項目を含めた質問用紙(付表)を、村田のこれまでの患者データを元に作成した。そして、スピリチュアルペインの出現様式、質問項目内容の妥当性、そして質問による患者や質問者の印象や感想を検討し、実際的な臨床現場における活用を考察するために調査を計画した。
 本調査の目的は、1, この質問項目が患者に理解しやすい質問かどうか。2, 解りにくければどのような質問項目が良いのか。3, 各々の質問項目が、村田の3つの概念に適合しているかどうか。4, このようなスピリチュアルペインに関する質問が、患者の負担にならないかどうか。5, このようなスピリチュアルペインに関する質問が、患者自身のスピリチュアルペインの理解に役に立つかどうか。について明らかにすることとした。
 
 対象患者は研究代表者の属するホスピスにおいて、研究に対して文書での同意が得られた5名とした。調査は、受け持ち看護師ではない病棟看護師(ホスピス勤務歴5年以上)が勤務時間以外に行った。
 質問用紙による調査は、看護師が質問を読み上げ、「強く思う」、「そう思う」、「少し思う」、「思わない」に分けて回答を得た。また、全質問に答えた後、今の思いに最も近いものを、上位5つに順位を付けて示すように指示した。そして、質問調査の後にその調査に対する心理的な負担感とケアにおける有用性を評価する質問を行った。また、この質問は調査終了1週間後にも行った。質問紙調査は全てカセットテープに録音され、逐語的に文書化し内容の検討を行った。最後に、入院時診療録より患者背景(年齢、性別、原発部位、転移部位、PS(ECOG)、意識障害(混乱)の有無、がん診断日、ホスピス初診日、ホスピス初回入院日、ホスピス最終入院日、予後予測、配偶者の有無、キーパーソン、主な介護者、同居状態などの記載も行った。
 
 以下に、調査結果について、チェックされた回答項目を順位にそって示すとともに、質問項目以外の回答、回答直後と1週間後の調査に対する印象、質問を行った看護師の感想を示す。
 
症例1:T氏、52歳、女性、S状結腸がん、肝転移・副腎転移、PS2
1:「死んだら私はどうなるの? どこへ行くの?」
2:「何でこんなことになってしまったのか」
3:「人の世話になって迷惑かけて生きていても、申しわけない」
4:「私の人生は何だったのか」
5:「こんなことになったのは、バチ(罰)があたったからだ」
その他に気になること:「臨終時に自分はどうなるのか」
 回答直後と1週間後ともに、アンケートに答えることはつらくなく、現在の自分の気持ちを知るのに役に立ったと回答していた。
 
症例2:S氏、60歳、男性、胃がん、肝転移、PS2
1:「死んだら何も残らない」
2:「入院は退屈だ」
3:「人の世話になって迷惑かけて生きていても、申しわけない」
その他に気になること:「何にもない! みんなに感謝して泣いとる。」
 回答直後と1週間後ともに、アンケートに答えることはつらくなく、現在の自分の気持ちを知るのに役に立ったと回答していた。
 
症例3:M氏、50歳、女性、子宮がん、PS2
1:「何でこんなことになってしまったのか」
2:「私の人生は何だったのか」
3:「こんなことになったのは。バチ(罰)があたったからだ」
4:「誰もわかってくれない」
5:「死んだら私はどうなるの? どこへ行くの?」
その他に気になること:「娘さんのこと。一人になってしまうこと。」
 回答直後、アンケートに答えることはあまりつらくなく、現在の自分の気持ちを知るのに役に立ったと回答していた。1週間後は病状の悪化のために聞けなかった。
 
症例4:K氏、74歳、女性、胃がん、肝・腹膜転移、PS2
1:「早くお迎えが来ないか」
2:「人の世話になって迷惑かけて生きていても、申しわけない」
3:「自分で自分のことができないのは、もう人間じゃない」
その他に気になること:特になし
 回答直後と1週間後ともに、アンケートに答えることはつらくなく、現在の自分の気持ちを知るのに役に立ったと回答していた。
 
症例5:F氏、57歳、男性、胃がん、PS2
1:「人の世話になって迷惑かけて生きていても、申しわけない」
2:「孤独だ。自分一人取り残された感じだ」
3:「誰もわかってくれない」
4:「家族が付いてくれるが、ひとりぼっちのように感じる」
その他に気になること:特になし
 回答直後と1週間後ともに、アンケートに答えることはつらくなく、現在の自分の気持ちを知るのに役に立ったと回答していた。
 
質問を終えての看護師の感想:
 「何の意味もない」、「早く楽にして欲しい」、「早くお迎えが来ないか」、「こんなことになったのはバチ(罰)があたったからだ」、「私の罪は永遠に消えることはない」、「死んだら何も残らない」、「孤独だ。自分ひとり取り残された感じだ。」、「死んだら私はどうなるの?どこに行くの?」、「人の世話になって迷惑かけて生きていても、申し訳ない」、「自分で自分のことができないのは、もう人間じゃない」、「何の役にも立たない。生きている価値がない」という質問項目は看護師としても聞きにくく、患者もやや答えに詰まる印象があった。表現方法を変えたほうが良いのではないか。







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