(1)−2 インタビュー調査について
郵送による質問紙調査の結果をうけて、日本音楽療法学会認定音楽療法士が常勤あるいは非常勤で勤務している施設を対象としたインタビュー調査を実施した。本研究では、「救世軍清瀬病院」、「信愛病院」、「総合病院桜町病院」、「姫路聖マリア病院」、「六甲病院」を対象とした。これらの施設に対するインタビュー結果のうち、概要は、次の通りである。
1)救世軍清瀬病院
1990年、緩和ケア病棟開設とほとんど同時に職員として加わる。
音楽療法開始 1992年8月。
・月間及び年間の予定
火曜日午後集団セッション 木曜日午後個人セッション。
行事は宗教軍が計画し要請があればゲストとして行く。
・楽器:声、オートハープ、キーボード
・形態
個人セッション
大部屋の真ん中でリクエストをとる、30分程度 重体の場合はベッドサイドでオートハープ。 もっと重い場合はア・カペラ。
集団セッション
デイルーム、1時間、入口からほぼ近い狭い空間、 但し、和室が併設されていた。チャプレン、ボランティアも参加。
・他分野との連携
カンファレンスに参加、現状の把握。
音楽療法士の呼びかけを誰がやるか打ち合わせ。
新患についてはかなりの情報を医療スタッフと共に得る。
音楽療法士は基本的にケアの項目となっている。
・音楽療法士としての悩み
評価を看護師などから情報をもらうがその正当性に疑問がある。
霊的ケアと精神的ケアの区別に気付かない。
・音楽療法士
非常勤職員ではなくフリーで活動されている音楽療法士1名。
宗教法人として、音楽療法実践の難しさ(しばらく前までは賛美歌が中心であったなど)を音楽療法士の感想からも感じた。さらに、チャプレンのお話しをうかがうことができ、パストラルケアワーカーの必要性を感じた。
2)信愛病院
1997年4月、緩和ケア病棟開設と同時にかかわる。音楽療法は、1999年3月から開始。
・月間及び年間の予定
ホスピスとしては水曜の午後、集団と個人もその時の様子による、必ずチャプレンが
付き添う。
毎土曜日午後、ロビーでの土曜コンサートの前にボランティアの演奏が30分ある。
その他 お誕生会(月1回) 家族会(年1回)。
・楽器:キーボード・ツリーチャイム等 ワゴンで移動
形態:デイルームにて 既設のオルガンもある。
・他分野との連携
カンファレンス、デス・カンファレンス(月1回)に参加。
セッション参加は患者に医師からの口頭説明があり希望によって行う。
・音楽療法士としての悩み
音楽ボランティアのコーディネーターの他、各行事又は各病棟で月間50回前後のセッションを行っていて、振りかえりの時間がなかなか持てない。
・音楽療法士
常勤職員、1名。
・その他
毎日午後5:00〜5:30にBGM的演奏を1階ロビーにて行っている。
さらに毎週土曜日には、ボランティアによる土曜コンサートを継続して開催している。
化粧セラピーが企画されたり、アロマセラピストも常勤になったとのお話しを伺い、病院のケアに対する姿勢がうかがえた。音楽療法士も常勤の職員として、チャプレンや臨床心理士などとの良い協力体制が確立されていると感じた。
3)総合病院桜町病院
緩和ケア病棟開設は、1994年5月。(それまでは旧館のホスピス病棟で89年、1床から始まった。)
音楽療法の開始は、1998年4月(それまではボランティアとしてBGM的に行っていた。)
・月間及び年間の予定
個人セッションは、個室において、週2回(月・木の午後)に「音楽宅配便」。
1人30分以内で、看護師が同席する場合が多い。
集団セッションは週1回で、ホスピス内のチャペルや喫茶室で「音楽井戸端会議」を行っている。その他、毎月何かの行事があり参加していて、時には小金井公園で野外セッションをすることもある。
・楽器
個人セッションでは、特製のワゴンに楽譜・キーボード・オートハープを載せて訪問している。集団セッションは、これに加えてチャペルのオルガンを使用する場合もある。
・他分野との連携
カンファレンスに参加したり、セッション時に看護師の同席を得て所見を得ている。
・音楽療法士としての悩み
EBMを求める医学界とのジレンマを感じる。
・音楽療法士
ホスピスケア研究所非常勤音楽療法研究員が1名。
・その他
防音のカラオケルーム、ピアノもあり、いつでも患者は弾いたり歌ったりできる。
4)六甲病院
1994年12月に緩和ケア病棟開設。
・月間及び年間の予定
集団セッションは、月2回。緩和ケア病棟のエレベータホール前のオープンスペースで行っている。
・楽器
フルートとオープンスペースに置かれているピアノ。
・他分野との連携
セッション時に看護師の同席を得ている。医療スタッフが、音楽療法の有効性を認めて、緩和ケアの重要な要素のひとつととられている。
・音楽療法士
非常勤音楽療法士が2名。
5)姫路聖マリア病院
1996年5月緩和ケア病棟開設。
・月間及び年間の予定
集団セッションは、季節行事など、折に触れて行っている。場所は主として、デイルーム。
・楽器
デイルームに置かれているキーボードなど。
・音楽療法士
非常勤音楽療法士が1名。
救世軍清瀬病院、総合病院桜町病院、信愛病院、3病院の共通点は個人セッションから始まり集団セッションに発展している点である。施設によっては、集団セッションから始まり、その後、個人セッションに移行する場合もあるので、両者に相違を感じた。これは、それぞれの施設に関わっている音楽療法士のバックグラウンドの相違によるものではないかと考えられる。
これら3施設の常勤あるいは非常勤職員(研究員)は、カンファレンスに参加し情報を得ている。特に、信愛病院のデス・カンファレンスへの参加は、音楽療法士自身が行ってきたケアへの振り返りとなり、有意義であろうと思われる。
救世軍清瀬病院と信愛病院ではチャプレンがセッションに同席する。セッションがチャプレンの資質でも大きく左右されると感じた。総合病院桜町病院では、担当の看護師が個人セッションに同席していて、双方、患者と医療者のかかわりの中では見られない反応や親しみを感じてとても好感を持った。以上、5つの緩和ケア施設におけるインタビュー調査を実施して、それぞれの施設の背景(宗教法人、社会福祉法人、医療法人)により、音楽療法の雰囲気やそれに対する考えかたなどが異なる点について非常に興味を持った。さらに、これらの施設に共通した問題点として、音楽療法の記録とその評価であろう。どのようにして音楽療法の評価をまとめていくかが今後の大きな課題であると考えられる。
(2)データベースソフトウェアを用いた音楽療法実践記録の体系的整理
本研究の共同研究者らが所属する施設において、すでに実践している10名の患者の音楽療法記録と診療録をFileMakerPro5.0を用いてデータベース化した。音楽療法を行うごとに、患者番号や氏名のほか、「音楽療法の記録」や、「使用したCD」、「貸出CD」を入力するとともに、ターミナルケアを専門とする看護師の協力を得て、音楽療法を行った時点に対応する医学、看護学的情報、すなわち、麻薬を主とした「使用薬剤」とその量、「痛み」・「食欲」・「全身倦怠感」・「呼吸困難感」・「悪心・嘔吐」・「睡眠障害」・「麻痺」・「発熱」・「意識障害」の有無やその程度、「その他」の所見、「家族とのかかわり」・「友人・その他とのかかわり」・「その他(特記事項)」を診療録の中から読み取り、これらの入力作業を行った。対象となる患者数が10名と少なかったので、これらの記録を内容分析的に検討する作業を行ったところ、終末期の患者は、音楽療法士が定期的にしかも継続して訪問することを心のよりどころにしており、しかも、医療従事者とは異なった関係の中で、緩和ケアを必要とする自らの現実を忘れることができる大切な時間ととらえていること、そして、医療従事者に対して自らの体調不良を強く訴えている場合でも、患者は音楽療法を希望する場合が多く、従って、患者の音楽療法の必要性は、あくまでも医療従事者がその是非を判断するのではなく、音楽療法士自身が直接、患者に音楽療法を希望するか否かについて確認をする必要があることが明らかになった。
(3)音楽療法士の養成および継続教育の教材としても活用が可能なCD−ROMの制作
上記(1)および(2)から得られた結果に基づいて、音楽療法士の養成および継続教育の教材としても活用が可能なCD−ROMの制作をMS−WINDOWSベースで試みた。内容は、患者のプライバシーに抵触しない配慮を行った上で、以下のような音楽療法実践記録について、文書とともに映像を同時に記録したものである。
1)ターミナルの患者に対する音楽療法実践例
・個人を対象としたセッション
・集団を対象としたセッション
2施設における実践例を収めた。
2)ターミナルの患者、あるいは家族がともに参加する催し
・患者や家族が主体となって行う演奏会など
2施設における実践例を収めた。
・医療従事者、ボランティアなどが主催する音楽会、クリスマス会などのイベント
1施設における実践例を収めた。
3)残された家族を対象としたグリーフケア
・偲ぶ会
2施設における実践例を収めた。
IV. 今後の課題
音楽療法を医療の場に普及、発展させていくためには、専門職として緩和ケアに従事する音楽療法士を育成できる教育体制が必要とされる。先行研究によると、がん患者の20〜38%に合併したうつ病がみられるという報告がある。たとえ医学的処置によって症状コントロールに成功したとしても、患者自身が抱える絶望感や、やがて訪れる死への恐怖まで医学的処置のみで取り除くことは不可能である。患者がこのような状況におかれたとき、患者の生きる力を最大限に発揮できるような援助が必要であり、その方策として音楽療法が特に有効であることは、これまでの音楽療法実践から経験的に認められている。そこで、われわれは、この研究に引き続いて、緩和ケアにおける音楽療法実践研究を前向き研究としてとりあげ、緩和ケアにおける音楽療法が果たすべき重要な役割について医療職者に納得してもらうべく、その効果について科学的根拠に基づいた結論を導かなくてはならない。そして、これらの研究結果は、緩和ケアに携わる音楽療法士の養成のためにも有効に活用されるべきである。
V. 研究成果等の公表予定(学会、雑誌等)
本研究の成果は、日本音楽療法学会誌において公表する予定である。
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