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2. ターミナルケアにおける音楽療法の現状ならびに音楽療法実践記録の体系化
聖路加看護大学 看護学部・助教授 菊田文夫
 
「平成14年度終末期医療におけるQOL研究助成」
 
ターミナルケアにおける音楽療法の現状ならびに音楽療法実践記録の体系化
研究代表者 菊田 文夫(聖路加看護大学)
共同研究者 中村めぐみ(聖路加国際病院)
二見 典子(ピースハウス病院)
高須 克子(聖路加国際病院)
鈴木 玲子(聖路加国際病院)
中山ヒサ子(札幌大谷短期大学)
日野原重明(聖路加国際病院)
 
I. 研究目的およびその必要性
 本研究は、ターミナルケアの場面において実践されるようになった音楽療法の現状に関する実態調査と、その結果に基づいて、音楽療法実践記録のCD−ROM制作を試みる、音楽療法の基礎的研究である。
 音楽療法が、終末期医療に応用されつつある現状をみると、わが国において、終末期をむかえた患者やその家族に対して、どのような施設でどのように音楽療法が実践されているのか、について全国的に把握することが必要と考えられる。さらに、日本国内で注目すべき実践を行なっている施設については、その視察およびインタビュー調査を行ないたい。一方、特に医療機関において音楽療法士の活動が期待されるようになった現在、音楽療法の実践記録を体系的に整理し、それらを研究音楽療法士の養成、および継続教育に生かすことが必要である。
 そこで、本研究においては、これまでに聖路加国際病院緩和ケア病棟および財団法人ライフプランニングセンター・ピースハウス病院などにおいて、終末期の患者とその家族に対する過去の音楽療法実践記録に加えて、現在実践している記録についても体系的に整理する。これらのデータから、患者の状態、症状コントロールの状態などと、音楽療法の実践内容、それに対する患者本人や家族の満足度の関連性について分析したい。その結果、わが国における終末期医療における音楽療法が担うべき重要な点についても考察できると考えられる。
 さらに、終末期医療における音楽療法の実践記録は、音楽療法士の養成および継続教育の教材として活用される可能性の高いものである。そのため、施設の視察結果とともに、患者あるいはその家族から使用の承諾が得られた実践記録や音楽療法場面を撮影した映像については、プライバシーに対する充分な配慮の上に、映像素材も含めてCD−ROM化を試みたい。
 このような内容をもった本研究を遂行することによって、(1)わが国の終末期医療、ターミナルケアにおける音楽療法実践の現状を把握することができる、(2)終末期の患者とその家族に対する音楽療法実践記録を体系的に整理することにより、わが国の音楽療法実践の質を向上させていくために必要な示唆が得られる、(3)前項(1)および(2)の結果を受けて、音楽療法実践を記録したCD−ROMの制作を試みることにより、音楽療法士の養成および継続教育の教材としても活用できる可能性が期待できるといった結果が予測される。したがって本研究は、わが国の終末期医療の発展に非常に寄与できるものである。
 
II. 研究方法および実施経過
 本研究は、以下の3点について、この順序で進めていった。
(1)終末期医療に音楽療法をとりいれている実践について実態を把握するため、質問紙調査およびインタビュー調査を全国的な規模で実施した。(平成14年7月〜12月)
 終末期医療施設(独立型ホスピス、緩和ケア病棟)において、音楽を取り入れた活動の有無や、音楽を取り入れた具体的活動(音楽会、カラオケ、CDの貸し出し、BGM、有線放送、セラピーとしての音楽療法など)、音楽を取り入れた活動の場(外来、個室病室、多人数病室、多目的室、在宅など)、セラピーとしての音楽療法を受けている患者数、音楽を取り入れた活動に参画する職種(音楽療法士、医師、看護師、ボランティアなど)に関して、往復はがきによる郵送調査を実施した。
 対象とした施設は、緩和ケア病棟として承認されている全国の施設のうち、99施設である。これらの施設に対して往復はがきに印刷した質問紙郵送後、8月の下旬を締め切りとして回収した。さらに、回答のあった施設の中で、日本音楽療法学会認定音楽療法士が、セラピーとしての音楽療法を複数の患者に継続して行っている施設を選んで、インタビュー調査を依頼した。
(2)音楽療法実践記録についてデータベースソフトウェアを用いて体系的に整理した。
 (平成14年12月〜平成15年2月)
 本研究の共同研究者らが所属する施設において、すでに実践している複数の患者の診療録をFileMakerPro5.0を用いてデータベース化し、小集団を対象とする観察ではあるが、患者の状態、症状コントロールの状態、などと音楽療法の実践内容、それに対する患者本人や家族の満足度の関連性に関する内容分析的な検討を行い、終末期医療における音楽療法が担うべき重要な点について明らかにする。
(3)音楽療法士の養成および継続教育の教材としても活用が可能なCD−ROMを制作した。
 (平成14年12月〜平成15年2月)
 上記(1)および(2)の結果を受けて、わが国においては、これまでにみられない音楽療法実践を体系的に記録したCD−ROMの制作を試みた。この内容は、患者のプライバシーに抵触しない配慮を行った上で、音楽療法実践記録について、文書とともに映像を同時に記録したものである。この閲覧には、MS−WINDOWSを搭載したパーソナルコンピュータが必要である。
 
III. 研究結果および考察
(1)−1 郵送による質問紙調査について
 往復はがきを用いた質問紙調査の回収率は、73.7%(73施設より回答/99施設に依頼)であった。その中で、「終末期医療に音楽を取り入れた活動」をしている施設は、73施設のうち62施設(84.9%)であった。さらに、これら62施設について、音楽の具体的な取り入れかたを質問したところ、「音楽会(ライブコンサート、皆でCDを聴くなど)」が52施設(83.9%)、「皆で唄う(カラオケなど)」が36施設(58.1%)、「CDなどの貸出」が36施設(58.1%)、「館内一斉放送(BGMなど)」が14施設(22.6%)、「有線放送」が10施設(16.1%)、「衛星放送」が1施設(1.6%)、「セラピーとしての音楽療法」が20施設(32.3%)、「その他」が8施設(12.9%)あった。「音楽を取り入れている場」については、「外来」が7施設(11.3%)、「病室(個室)」が44施設(71.0%)、「病室(多人数室)」が18施設(29.0%)、「病室外の多目的室」が53施設(85.5%)、「患者の自宅(在宅)」が2施設(3.2%)、音楽療法室やホールなどの「その他」が8施設(12.9%)あった。セラピーとして音楽療法を行っている20施設について、「1週間あたりの患者数」を質問したところ、「4名以下」が4施設(20.0%)、「5名から6名」が7施設(35.0%)、「7名から9名」が2施設(10.0%)、「10名以上」が4施設(20.0%)、無回答が3施設で、その範囲は2名から20名であった。
 次に、「音楽を取り入れた活動にどのようなスタッフが関わっているか」について73施設に質問した結果は、「日本音楽療法学会認定音楽療法士」が18施設(24.7%)で、このうち、2名の学会認定音楽療法士が関わっている施設が3施設あった。「その他(海外も含む)の公的団体が認定する音楽療法士」は1施設(1.4%)、1名から2名の「医師」が関わっている施設が22施設、「看護師」は29施設(39.7%)において、1名から10名以上が関わっている施設もあった。また、「PT・OT」は4施設(5.5%)、「介護福祉士・ヘルパー」が6施設(8.2%)、「ボランティア」が49施設(67.1%)あり、「ボランティア」は多くの施設で複数名が関わっていることがわかった。事務職員や看護助手など「その他の職員」も16施設(21.9%)あった。さらに、「音楽を取り入れた活動」に関するスタッフ間の連携については、多くの施設において、これがみられ、例えば、「学会認定音楽療法士」、「医師」、「看護師」、「ボランティア」、「その他の職員」が連携をとって、音楽を取り入れた活動を行っている施設もみられた。
 以上、郵送による質問紙調査結果から、終末期医療に音楽を取り入れた活動の実態として、緩和ケア病棟として承認されている8割以上の施設において、その活動が行われていること、その内容として、「音楽会」、「皆で唄う」、「CDなどの貸出」が、「病室(個室)」や「多目的室」において主に行われているが、「セラピーとしての音楽療法」を行っている施設も3割程度あり、それらの施設では、1週間あたり5名前後の患者を受け持っていること、そして、この活動には、「日本音楽療法学会認定音楽療法士」をはじめとして、施設内の多職種が連携してあたっていることがわかった。さらに、「ボランティア」がこの活動を大きく支えている実態についても、7割近くの施設において確認できた。







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