症例5
1. 症例5の概要
H.M 年齢82歳(死亡時) 男性
病名 (1)アルツハイマー型痴呆 (2)多発性脳梗塞 (3)廃用症候群 遅発性ジスキネジー
2. 当院へ入院するまで
東京で出生。7人兄弟の第2子。経理の専門学校卒業後、すぐに出征。終戦後に復員、就職。勤め先を転々とし、最後は経理担当で役員となっていた。70歳で社長と喧嘩をして退職。このころ同居していた長女が結婚して一人暮らしとなった。
72〜73歳頃より、忘れっぽくなったと自覚(思い出せない、同じことを繰り返し話す、など)。徐々に妄想も出てきて、「お金を盗られた」「泥棒が入った」などと言うようになり、警察を呼んだこともあった。76歳頃からデイケアを利用するようになった。このころS・C病院神経内科受診。アルツハイマー型老年痴呆と診断された。もの盗られ妄想、家の中の徘徊、昼夜逆転などの症状が進行。夜中に長男宅に電話したり、家族の顔がわからなくなったりで家族介護限界となり、その冬、有料老人ホームに入所。閉鎖フロアーで向精神薬与薬され、日中もトロンとして返事もできない状態となっていた。78歳頃には鍵つきのつなぎ服を着せられ、79歳には車椅子抑制も受けていた。
その2月までは自力歩行していたが、3月27日、誤嚥性肺炎にてF病院に入院。4月28日、秦野厚生病院に転院。肺炎は軽快したが、食事食べられず、みるみる痩せていった。寝たきり状態だが、介護者を叩いたり、蹴ったり、つねったりしており、車椅子離床時にも腰と上体を抑制されていた。12月10日、栄養状態の改善を望まれ、当院転院となった。
3. 入院後の経過
重度の痴呆で、HDS−R0/30点。ジスキネジー著明で、身体全体の不随運動、口をモグモグ、舌をベロンと出したり、下肢筋力低下著明で、起立歩行不可。座位姿勢保持も不良で、首が後ろにのけぞり、ずり落ちる傾向。車椅子をロッキングチェアーに、食事時は背もたれつき車椅子へ等の工夫の必要あり。声かけ丁寧な説明をして納得の上で介助には応じたが、説明不十分だと介助者に対し攻撃的になる(つねったり、叩いたり)。
入院直後は経口摂取も一時良好となったが、基礎体力の低下が著しく、頭部打撲、発熱、嘔吐、吐血などのエピソード(いずれも軽症で一過性のものだが)を繰り返すうちに翌12年7月には疎通がとれなくなり、寝返りも打てなくなった。しかし、介護への抵抗は見られた。
平成13年(81歳)にかけて発熱を繰り返し、体力はさらに低下。発語もなく、疎通はとれず、自発的動きもなくなっていった。
平成14年(82歳)、嚥下困難、上気道感染、嘔吐、腹満、粘血便、不明熱などの軽快憎悪を繰り返し、対症的に検査治療していた。8月に入って、腹満強くなり、食止め、補液などにて経過をみていたが(X−P上、小腸ガス像なく、エコーにて腹水も認めず)、8月15日、嘔吐をきっかけに誤嚥性肺炎を併発。補液、抗生剤、酸素吸入などにて積極的に加療したが、翌日にかけて病状が悪化。8月17日には昏睡、無呼吸となり、蘇生治療を試みるも及ばず、PM2:50 死亡された。
4. コメント
向精神薬は、1ヶ月間CP12.5mg、フルニトラゼパム0.5gを使用。
塩酸スルトプリド10mmを迫間使用したことがあるが、他はフルニトラゼパム0.5mgのみ。
家族、長男と嫁の頻回な面会があった。始終見守り、全介助が必要だった。不随運動が激しかったため、私達に椅子の工夫の勉強をさせてくれた人であった。
誤嚥性肺炎で2日間で死亡。家族は間に合わなかった。
症例5 資料
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症例 5 図表記
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