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IV 今後の課題
 今回取りあげた事例は8例だけであったが、条件に合う事例を選び出すのは大変困難であった。研究をした某大学病院では確定診断と積極的治療が主であり、病名告知や生命予後についての告知をされていない事例が多かった。今回の研究では対象者は生命予後の告知を受けており、対象者が生命予後を知っていることや、生命予後よりも延命していることが必要条件となるため、対象者が限られ事例選択が難しかった。また研究期間が短く、多くの対象者を選ぶことができなかった。また、事例の耳鼻科疾患患者は告知を受けた時点では消化器系に障害がなく、食べられることで体力を回復し改善していった経過があった。このことから終末期癌患者ではあるが、生命予後が悪い疾患では延命は困難であり、生命予後の長短が延命に影響するのでないかと考えられる。今後は医学的な根拠を明確にし、延命につながる根拠をさらに事例を増やしていき、研究を続けていきたいと考えている。
 今回の研究では終末期癌患者の延命につながる要因に関しては明らかにできた。しかし大学病院の一般病棟におけるスピリチュアルケアに関する研究であったが、スピリチュアリティに関する概念の理解が難しく、また、定まった概念がないことから研究者間で概念統一することが困難であった。今後は、大学病院の一般病棟におけるスピリチュアルケアについて、入院期間短縮になってきている状況を踏まえ、どのようなスピリチュアルケアが可能であるか模索し検討していきたいと考えている。
V 研究の成果等の公表予定(学会、雑誌等)
 この研究で得た成果の一部である「終末期患者の延命につながる要因の検討」については、2003年3月に大阪国際会議場で開催される「第5回アジア・太平洋ホスピス大会」でポスター発表することが決まっている。また論文については専門雑誌に投稿し公表する予定にしている。
 
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