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III 研究の成果
<研究結果>
 対象者の概要:対象者は8名であり、男性6名、女性2名であった。平均年齢は53.6歳であり、50歳代の患者が多かった。家族構成では子供がいる患者が多く、ほとんどの患者は仕事を持っていた。また余命告知された後、現在までの期間は延命期間の2倍から長い患者は5倍ほどであった(表1)。
 
表1 事例の背景
事例 性別 年齢 病名 生命予後 現在までの生存期間 家族構成
事例1 男性 54 喉頭がん 3ヶ月 1年半 妻と二人暮し、息子は北海道の大学
事例2 男性 31 悪性リンパ腫 1年 1.9ヶ月 一人暮らし、両親健在京都で別居、弟夫婦
事例3 女性 60 食道癌 5ヶ月 9ヶ月 夫と子供2人(息子)、義母
事例4 男性 55 肝癌 6ヶ月〜1年 2年半 妻と子供4人
事例5 男性 58 大腸癌 6ヶ月 1年 妻と子供2人(息子・娘)
事例6 男性 65 胃癌、 6ヶ月 8ヶ月 妻と息子
事例7 女性 53 急性骨髄性白血病 1年 1年半 夫と娘二人
事例8 男性 53 咽頭癌 2・3年  7・8年 妻と二人暮し、子供3人
 
 8事例について各事例につき2.3回の面接で得た会話の内容をもとに、文脈から意味を取り出し延命に関する要因を取り出した。その結果、会話の内容は家族や仕事、治療、趣味、価値・信条や生き方、ストレス・コーピングなど7項目に分類できた。さらに家族や仕事に対しては「残される家族への強い思いがある」「やり遂げたい熱意がある」などが取り出された。「残される家族への強い思い」では「家族が不幸になることへの怒りの感情がある」や「罪の意識がある」「家族に心配をかけたくない」などから、「家族に対する思いやりがある」や「家族への配慮がある」などを抽出した。仕事に対しては「仕事をやり遂げたい」や「仕事をする喜びがある」であり、「やり遂げたい熱意がある」を抽出した。
 疾患や治療には「積極的に取り組む姿勢がある」であった。喉頭癌や食道癌の患者は食事が食べられる喜びを感じ、「体力をつける」や「治療に対して積極的に取り組む」「癌に勝てるよう積極的に問題を解決する」などから、「治療に前向きである」ことを抽出した。趣味では「充実した趣味がある」をもっており、「生活の楽しみがある」を抽出した。価値・信条では「生き方に自信をもつ」「時間を大切にしたい」「自分らしさを大切にしたい」などから、「充実した時間の過ごし方がある」を抽出した。生き方では「後悔しない生き方をする」や「自立した生き方をする」などであり、「積極的な生き方がある」を抽出した。ストレス・コーピングでは「積極的に問題を解決する」「気分転換が良好である」「充実した時間のすごし方がある」「心を平静に保つ」などが要因として取り上げられた。全患者に共通した要因は「生への強い希求がある」と「積極的なものの見方や考え方がある」であった(表2)。
 
表2 患者の供述から要因を抽出
面接から抽出した内容 要因 
家族を不幸にしたくない <家族>
家族への強い思いがある
強い生への希求がある
夫としての役割が果たせない
弟夫婦に恩返しがしたい
両親が心配である
夫と子供が心配である
母親には心配をかけたくない
ライバルに負けたくない <職業>
やり遂げたい熱意がある
仕事に戻りたい
仕事の整理をしたい
やり残したことを成し遂げたい
仕事を続けたい
会社があっての自分がある
仕事を続けることができ嬉しい
仕事がいきがいである
仕事は魅力的である
食べられる喜びを感じる <治療>
治療に積極的に取り組み問題解決をする
治療は頑張る
癌を治せるのは自分しかいない
早期発見し早期治療すれば延命は可能である
リスクはあるが最新治療に取り組むことで癌に勝てる
医師の期待に応えられるよう自分も頑張る
自分を治せるのは自分である
治療をしてよくなっている感じがする
梅酒造りをしている <趣味>
生活の楽しみがある
積極的なものの見方や考え方がある
おいしいと評判である
旅行をする
仕事が趣味である
生きてきたことに意味があると実感している <価値・信条>充実した時間の過ごし方がある      
逸話や学問を聞いてもらうことは勇気が湧く
自分の病気や生き方について考えを人に話す
時間を大切にしたい
納得のいく時間の過ごし方をしたい
くよくよ考えない
今目の前にあることを考える
髪の毛一本でも自分でありつづけたい
悔いが残らない生き方をする <生き方>
積極的な生き方である
治療、職業、趣味など頑張れる信念がある
精一杯自分の生き方で生きたい
あせっても現状は変わらないのであせらない
厳しい父親を見て育ち、子供の時から泣き言を言わない
その日毎の目標を持つ
一人でトイレに行きたい
動物を飼う <ストレス・コーピング>
積極的な気分転換の方法がある
自分で自分の心をコントロールする
立ち直りが早い
音楽を聴く
楽しみを見つけて笑う
人に会って話しをする
庭に実る実で酒を造り、人に飲んでもらう
怒らないようにしている
常に心が健康であるように心がける
散歩をする
 
<考察>
 取り出された要因で家族については、不幸にさせたくないし迷惑をかけられないなどの強い配慮や思いやりがあり、その思いが「生きたい」という感情を助長させているのでないかと考えられた。中には偉大な力に対して怒りの感情がこみ上げてきた患者もいた。2事例で死を意識した時残される家族のことを考えると、今までの家族との対人関係から様々な感情が沸き起こった。家族まで不幸にされる不平等性に対しての怒りが、さらに生きてやろうという意欲に変わり、生きたい気持ちが強くなったと供述していた。関係性についての研究を見ると、社会的な関係の弱さは死亡率が高く、社会的支援が癌生存率に関連する13)14)という報告がある。家族への強い思いは関係性を高め、生存率に影響しているのでないかと考えられた。
 仕事については、熱心に仕事に取り組み仕事をやり残した後悔や、やり遂げたい感情が高まり、「生への希求」につながっているのでないかと考えられた。疾患や治療については、自分の疾患は自分で治す自信を持っていたり、問題に対して積極的に取り組んでいた。癌に対して勝つという自信が身体の免疫力を高め、治癒力に影響しているのでないかと考えられた。そして悪性疾患であることを受容し、積極的に疾患に向かい合い、前向きに問題解決することが延命に関係しているのでないかと考えられた。池田15)は、がん体験を肯定的に受け止めるプロセスで「どん底の体験をくぐって上向きに切り替わる為に必要なものは、現実の直視、開き直り、負けない、という内的対処過程であった。」と述べている。患者の大半は癌告知や手術を受け、ストレスフルな体験を経験しているが、癌を引き起こした原因を他者の責任にはせず、自己の内面のありのままを見詰め直していた。そして自分の気持ちを徐々に伝え、他者のサポートを得られるよう努力していた。また、治すのは自分であり治ると確信している事例もあった。患者は癌の発生しやすい内向的な性格やストレスを自覚し、解決するために積極的な行動をしていたことなどが癌の進行を遅らせ、前向きに治療に臨んでいる姿勢が延命につながっているのでないかと考えられた。
 趣味については、趣味をすることで自分自身の生活を楽しんでいる様子が伺えた。価値・信条や生き方については、自分らしさを大切にした生き方を希求し、時間を大切にするといった人間の魂の根源に関わるスピリチュアリティに関連した内容であった。スピリチュアリティについて窪寺16)は、危機の中で失われた生きる意味や目的を自己の内面に見つけ出そうとする機能であり、危機に直面した時に力を発揮すると述べている。また田村17)は、スピリチュアリティとは人間としての生きる意味や目的を与えるものであり、人間存在を根源的に支えるものであると述べている。自分自身の人生をどのように生きるかはスピリテュアリティの高低により影響を及ぼす。今村ら18)はスピリテュアリティの表現形は統合レベルによって異なり、レベルの高い状態ではその人のもつスピリテュアリティがWell-beingな状態につながると述べている。高いスピリテュアリティである人間の内的な強さは人生を活性化し、延命につながるのでないかと考えられた。ストレス・コーピングについては、気分転換が良好で心は平静で過ごすことから免疫力が高まり、生命力を低下させる悪性腫瘍などに対して抵抗する力を高めているのでないかと考えられた。
 8事例については自分で喜びを見出す、積極的に取り組む、前向きに考える、自立するなどのプラス思考である患者が多かった。以上から様々な要因が重なり合い相乗作用として働き、スピリチュアリティを高め延命につながっているのでないかと考えられた。
 
<結論>
 延命につながる要因としては「生への希求の強さ」と「積極的なものの見方や考え方」が取り出された。このような要因が重なり合い治療と相まって延命効果をもたらしているのでないかと考えられた。







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