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IV 今後の課題
 本研究にはいくつかの問題点が挙げられる。まず、回収率であるが、49.8%と半分に満たない結果であった。しかし、これまでに述べてきたようにMSWの業務は非常に煩雑であり、多忙を極めている。最近のMSWの全国調査では、小嶋(2000)による調査の回収率が44.4%であった。また、2001年の日本医療社会事業協会員の動向調査により、2611名(会員数2806名;回収率93.1%)の年齢分布は20代31.7%、30代30.6%、40代20.8%であり、男女比は男性30.6%、女性69.4%であった。これは本研究結果とほぼ同様である。したがって、本研究結果は代表性があると考えられる。つぎに、調査項目については、著者自身の経験の浅さから数カ所の不備が判明した。例えば、兼任業務に対する項目では兼任業務がないという選択項目がなかったために、欠損値との区別ができない結果となった。心理的サポートにおける環境・体制に影響する要因を検討する項目として、面接室の有無といったハード面の現状等、改善策を探る設問がなく、それ以上の検討ができなかった。がんのEOLケアにおける患者・家族・医療スタッフ間の関係調整機能に対するMSW自身の重要度認識が低かった点についても、その理由を探るための設問項目がなかったために検証できなかった。
 また、本研究はMSWに対して実施した調査である。がんのEOLケアにおけるMSWの専門性を確立するためには、臨床での援助・介入プログラムの作成等、MSWに対するさらなる研究も重要と考える。そしてそれに加えて、医療サービスの消費者である患者・家族への研究も必要である。ここ数年、日本でもようやく患者の権利が主張され、医療機関の意識も変わりつつある。MSWが関与することによって心理的ニーズが満たされているか、関係調整がなされ、安心することができたか等、患者・家族に対する満足度調査も必要不可欠であると思われる。
 さらに、他の専門職に対して、MSWの役割、意義をどのように考えているか等の意識調査を行うことも重要である。MSWの専門分野である心理的・社会的側面や関係調整機能について、他の医療職にどの程度の認識があるのかを実証することは非常に意義のあることである。
 MSWだけではなく、他の医療職、一般市民に対して、オンコロジーソーシャルワークやがんのEOLケアへの関心度を高め、普及させていくために、さらなる研究が必要不可欠である。そして、その具体的方法の構築が今後の課題である。







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