12. 「高齢者の終末期医療に関する研究」在宅における終末期医療の現状調査
名古屋大学大学院 医学研究科老年科学・大学院生 服部文子
I. 研究の目的・方法
(研究の目的)
死を前にした患者が「最後は住み慣れた自宅で過ごしたい」と希望することは、自然なことであり、患者のQOLをより重視した医療が望まれる昨今、その要求に答える在宅ターミナルケアは今後、更にその需要が増加すると思われる。また、急速に高齢化社会を迎え、我が国における高齢者医療、介護に関する問題は非常に重要視され、なかでも高齢者における終末期医療・ケアの問題は、今後ますます社会的に重要視されていくであろう。更に介護保険の導入後、在宅医療の需要は高まり、その中には、在宅での終末期医療も含まれ、患者および家族が選ぶ医療サービス一つとして重要な選択枝のひとつといえる。このように在宅ターミナルケアは、今後益々重要性を増す領域であるが、一方、これまで在宅ターミナルケアにおいて、その実態、すなわち患者の症状・病態、行われる医療行為、必要な医療費などについて、実証的データを元にした報告は少ない。その理由として、死亡場所が自宅という密室であり、基本的に医療者の介在の稀薄さもあり、その臨死期における病態・医療行為の実態を把握することが困難であったということがある。今回の検討の目的は在宅で死亡する高齢者の病態・医療行為をprospectiveに一定期間記録することにより、その特徴を明らかにし、病態・医療行為以外の高齢者患者本人および家族に関する情報、あるいは在宅死をサポートした医療者の行動を記録することで、それらが在宅死に与えた影響を検証することである。また、以前に行なわれた病院およびホスピスでの調査で得られた結果と比較し、それぞれの終末期医療の現場で違いがあるのか否か、またどのような違いがあり、それらと比較することにより、在宅での終末期医療には、どのような特徴があるのかを明らかにすることを研究の目的とした。
(研究の方法)
(研究対象)
対象施設より訪問診療を受けている65歳以上のうち、在宅で死亡した患者。
(対象施設)
在宅ホスピス研究会会員で研究協力が得られた11施設。
(研究期間)
平成14年4月〜平成15年2月20日
(研究方法)
方法は診療記録をもとにした前向き研究である。対象施設において訪問診療を受けていた65歳以上の患者のうち、主治医により生命予後が約6ヶ月と推定された終末期患者をあらかじめ登録し、登録患者が調査期間中に自宅で死亡した時点で、所定の記録用紙に患者属性、臨死期の症状・徴候、臨死期に行なわれた医療行為、告知の状況などについて調査した。前年度、我々が老人医療専門機関およびホスピスで行った同様の調査(「終末期医療における自己決定のあり方に関する研究」として貴財団から助成を得て行った調査)で得られた結果と比較した。
II. 研究の内容・実施経過
(研究の内容)
訪問診療を受け、在宅で死亡した患者について所定の記録用紙(付録1)を用いて以下の項目について調査した。
1. 患者属性(年齢、性別、家族構成、主たる介護者の有無、居住場所の形態、年金給付の有無、介護保険における要介護度、ADL、痴呆の程度、職業歴など)、疾患名、死亡日時、臨死期(死亡前48時間)における患者の症状、実際に施行された医療行為、および対象患者に対する告知の状況。
患者のADLは厚生省の障害老人の日常生活自立度(8段階評価)を、痴呆の程度は痴呆性老人の日常生活自立度(8段偕評価)をそれぞれ用いた。
(研究の実施経過)
平成14年8月に主体となる研究協力施設を決定し、調査票の内容について検討した。同年9月〜10月にかけ研究協力施設の勧誘を行った。今年度の参加施設は計11施設である。同年10月から患者登録および調査票の記入を開始した。前述の施設において平成15年2月20日までの時点で在宅死した患者は41名であった。研究計画当初の目標患者数は100名程度であるので、平成15年9月まで患者登録期間を延長し、調査を続ける予定である。
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