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10. ホスピスケア啓発のためのバリアフリー冊子の作成
北陸大学 薬学部病院薬学教室・教授 宮本悦子
 
I 研究の目的・方法
【目的】医療技術の急速な進歩は、困難とされた疾病の治療に大きく貢献しているが、バイオエシックス(生命倫理)については常に後追いの感がある。医療にかかわる言葉についてもマスメディアを通して、耳にする機会は増えているが、患者や家族は「理解できているのか」、一方医療従事者側が「わかりやすく伝えているのか」という両面で十分ではない。バイオエシックス教育のスタートは日常生活にある。本研究では、医療に関わる言葉の理解を通してバイオエシックス教育の実践を試みるための簡単な教材(絵本:「メディおばさんの木陰で」(図1)を作成する。教材は年齢や障害を超えて同じ教材が使えるようユニバーサルな観点にたち、開発する。特に障害をもった子供が共用できる教材は少なく、社会福祉など特別の用具開発の対象となっている場合が多い。点字、触画を備えるバリアフリー機能を組み込んだ冊子体を作成し、視覚障害者協会、盲学校において実際に使用を依頼し、キャラクターのイメージが伝わるかなど教材としての評価を受け、問題点などを抽出する。また、啓発活動用のツールとして使用を試みる。
 
図1
 
【方法】教材の作成
 冊子形式:絵・文字部(触画と点字の組み込み:ソフト:自動翻訳・点訳支援プログラムEXTRA2001(エクストラ)、点図くんVer. 2(リコー)、点字プリンタ・プロッタTEN−10(レンテック)と音声部(パネルスピーカーPanasonic Co.)からなる。なお、弱視者用に大きな墨字を用い、視覚障害者でも読むことができるようにする。冊子を開くと絵(立体画)、文字及び点字が表示される(図2、3)。立体画には登場人物(物)などのみを点字で表現し、相対するページには墨字と点字を付与する。なお、点字、点図については石川県立盲学校教員(健常者、視覚障害者各1名)の協力を得て、点密度、形などについて指導を受け、試作した。音声については市販のパネルスピーカーを組合せ、感知式で音声が流れ、物語が進行するようにした。音声は録音サウンドレコーダー、編集onmix053音声ミキサーを用いた(Microsoft)。将来的には音声は冊子体自体にボイスカードを組み込み、再生ボタンでページ内容を再生させることができるようにしたいと考えているが、現在のところ記憶容量・感知式スイッチ等開発の点で問題があるため、冊子体とパネルスピーカーをセットで1教材とする方式をとった。パネルスピーカーは題材ごとに録音したフラッシュカードの交換で内容を音声再生できるので、教材ごとに購入する必要はない。一話を紙芝居風に利用することも可能である。なお、冊子の末尾に関連用語をあげ、説明を加えた。
 
(パネルスピーカー)図2
下部の赤外線感知スイッチで音声が再生される。また、スピーカー上には点図を乗せ、絵を触りながら音声情報で理解する。
 
図3
墨字と点字
 
点図
 
アンケート調査
実施機関 石川県立盲学校、石川県視覚障害者協会
対象者 県立盲学校生徒(弱視学童を含む6歳〜30歳の12名、男子7名、女5名)
    視覚障害者協会(30歳〜78歳、男子6名、女子12名)
調査期間 平成14年10月(県立盲学校)
    平成15年1月〜2月(視覚障害者協会)
調査項目
● 年齢、性別、
● 使用文字県立盲学校(点字、墨字)、視覚障害者協会(点字、聞き取り)
● その他:障害時期(若年性・先天性視覚障害、中途視覚障害)
● 教材(1:緩和ケア、2:麻薬、3:胃ろう注1)について
1:内容が理解できたか
2:用語注2の説明について
3:内容の問題点(語句が難しい、文章の長短など)
4:絵について:大きさ、登場人物、点の間隔、絵の位置など
 
緩和ケア ホスピス、ビハ−ラ、緩和ケア、尊厳死、社会的ケア、宗教的ケア
麻薬 薬物乱用、依存性、精神的依存、身体的依存、乱用される薬物、ヘロイン、医療用に使う麻薬、モルヒネ
胃ろう 栄養補給製剤の摂取方法、経腸栄養、経鼻胃管、胃ろう、腸ろう、ペグ、中心静脈栄養
 
調査方法: アンケート調査については教員または協会ボランティアに協力をお願いした。点字アンケート用紙への点字回答、墨字アンケートへの回答、教員あるいはボランティアによる聞き取り回答方式で実施した。

注1:「胃ろう」については完成が11月となったため、盲学校では「緩和ケア」、「麻薬」について調査を実施した。
注2:巻末用語は以下の通りである。







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