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平成14年度(2002年)研究報告

 事業名 医学医療に関する研究助成
 団体名 笹川保健財団  


8. ターミナルケアにおけるコミュニケーションスキル評価
昭和大学保健医療学部 看護学科・助教授 伊藤まゆみ
 
研究分担
第一章 伊藤まゆみ
 
第二章
第1節 伊藤まゆみ 千葉京子 佐藤みつ子 塚本友栄 井原緑 能瀬真奈美 田上不二夫
第2節 伊藤まゆみ 千葉京子 井原緑 能瀬真奈美 田上不二夫
 
第三章 伊藤まゆみ
 
研究者所属
 
伊藤まゆみ 昭和大学保健医療学部看護学科
千葉京子 日本赤十字武蔵野短期大学
佐藤みつ子 山梨大学医学部看護学科
塚本友栄 国際医療福祉大学保健学部看護学科
井原緑 昭和大学保健医療学部看護学科
能瀬真奈美 昭和大学保健医療学部看護学科
田上不二夫 筑波大学
 
第1節 ターミナルケア場面における看護学生のコミュニケーション不安の要因
 
1. コミュニケーション不安とは
 ターミナルケアにおけるコミュニケーションの目標や目的には、看護師が患者との対人関係を築き、患者への理解を深め、結果としては患者の援助に役立てることがある。そのことは看護学生でも同様である。しかし、実際には看護者や看護学生ともに患者とのミュニケーションを取ることに対して不安や恐怖を感じ、ケア場面を回避する行動が起こる傾向があると指摘されている。特に、患者が病名を告知されていない場合や患者の心理状態が、否認、怒り、抑うつなどのネガティブな心理状態であると認知すると不安は強まる傾向にある(伊藤1998)。そして、その不安を起こす要因としてコミュニケーションスキル(Communication Skills:CS)の欠損が取り上げられてきた。しかし、そのことは未だ推測の域を脱していない。
 ターミナルケア場面における学生のコミュニケーションに関する不安は、患者とコミュニケーションを実際に取っている場面とは限らず、その場面が身近に迫り、その状態を予期しただけでも起こる。このような状態をマクロスキーが提唱したコミュニケーション不安(Communication Apprehension : CA)としてとらえると、「CAとは、単数ないし複数の他者との実際のコミュニケーションやその予期に対する個人の恐れ、不安のレベルである「(McCroskey1977, 1978)」と定義される。これまで、CAは、個人の特性によるものか、状態によるものかという論議がされてきたが、現在は、特性から状態への連続帯としてとらえられるようになった。このことからCAは特性的側面と状況的側面を考慮し、特性的CA、文脈CA、聴衆CA、場面CAの4つに分類されている(McCroskey,1984; McCroskey & Beatty,1986)。そして、それらは場面CA、聴衆CA、文脈CA、特性的CAとなるほど特性的な傾向を示すので、あらゆる場面で生起されるようになる。
 CAはシャイネスやレティセンスと同様に広い意味では対人不安に属すと考えられている。対人不安とは、現実のあるいは想像上の対人場面において、他者からの評価に直面したり、もしくはそれを予測したりすることから生じる不安状態である(Schlenker & Leaxy,1982)。また、不安とは身近に差し迫ったしかもひどい結果になることがとても避けられないと観念したときに生じる生理学的な覚醒状態(交感神経系の覚醒を意味する)と懸念(もしくはおびえ)を主成分とする漠然とした認知感情状態である(Dixon et al, 1957; Paul & Bernstein, 1973; Schlenker&Leary, 1982)。つまり、CAが、個人特性としての不安傾向のみならず、状況の認知や自己のCSに対する評価によっても喚起されると考えるならば、ターミナルケア場面で喚起される学生のCAは、コミュニケーション場面の状況と自己の能力との相対的な関係への認知により、否定的な評価を受けるのではという漠然とした思いから喚起されるのではないかと考えられる。
 
2. ターミナルケア場面における看護学生のコミュニケーション不安の要因
 CAの特徴から、CAの要因として、条件づけ、認知的傾向、コミュニケーション技能(Communication Skills:CS)の欠損が検討されてきた。ここでは、条件づけ、認知的傾向、CSの欠損のそれぞれの要因について検討を行う。
1)条件づけ
 CAが条件づけられたものであるという考え方は、CAの原因を過去の嫌な対人的経験にまで遡ることができるためである。その対人的な経験の多くは代理学習によるものと考えられている。過去における対人コミュニケーションにおける不快な間接的な経験により不安が学習され、そのような場面を予期するだけで不安は喚起されることになる。しかし、この見解は不安が起きた時点から過去を振り返ることで条件づけられたと推測しているもので、検証されてはいない。
 ターミナルケア場面でCAが条件付けによって喚起されると思われるパターンには、これまでの著者の研究から、次の2つのタイプがあると考えている。一つは、学生に実際のターミナルケアの経験がなくても、実習で間近にターミナル期の患者とコミュニケーションをとる可能性が生じたときに、ターミナル期の患者のケアをイメージさせるような刺激が提示されただけでもCAは喚起されることがある。これは、ターミナルケアにおけるコミュニケーションの困難さを講義やターミナルケアの経験のある他者から聴くことで認知学習した可能性がある。これらの学習を通して、ターミナルケアで求められるコミュニケーションとそれに対する対処行動の不足が漠然と予測されることによって、CAが喚起されると考えられる。このようなCAの喚起は、実際のコミュニケーション場面で、スキルなどの適切な対処行動が取れることで改善することが多い(伊藤2000)。
 次にターミナルケアを経験したことで、他の場面でも、ターミナルケアに関連した刺激が提示されるとCAが喚起される場合である。このようなCAが喚起している学生にインタビューすると、ターミナルケア場面でコミュニケーションを通して自我が脅威にさらすような経験を経ていることが多い。さらに、多くの場合、関わった患者はその学生たちの実習期間に死に至っていることが多い。つまり、学生が、ターミナルケア場面でのコミュニケーションに脅威を感じるような不快な対人的体験や患者の死も合わせて経験することで、CAを学習したといえる。その結果、そのような状況に関連した刺激が提示されると、CAが喚起される。このようなCAを喚起する学生は、その後の実習で不安によるパニック発作を起こすこともある。適切な支援がなされなければ、実習が中断されるか、看護師になることさえ、あきらめることにもなる。
 したがって、ターミナルケア場面におけるCAの要因の一つには条件付けによるもが考えられる。
 
2)認知的側面
 CAは脅威の認知プロセスによって喚起されるという立場である。例えば、同じターミナルケアの場面に2人の学生が居合わせたとして、ターミナル期の患者が「最近、だんだん、体力が衰えて来る感じがする。なるべく、起きて過ごしたいの」と言ったときに、この患者の心理状態を「死が近いことを自覚し、残された時間を前向きに生きようとしている」という死の受容の段階と認知するか、「体力の衰えを感じ、良くなるためには頑張って起きなければ」という未だに死を否認している時期と認知するかは異なる。また、その患者の心理状態への認知と自己のCSへの認知の相対的な関係によって、CAの喚起の程度は異なる。それでは、なぜ、そのような認知の違いは起こるのか。Beckの脆弱理論によれば、過去の不快な対人的経験が病的なスキーマを形成する。そのスキーマは、脅威にさらされた場面で活性化するために、状況に対する脅威の感受性を高め、さらに自己の能力を過小評価するとモードが起きやすいために、CAが起こるというものである。つまり、ターミナルケアにおける場面の認知も自己のCSに関する認知も、それ以前の経験によって、脅威の認知プロセスを形成されていれば、脆弱モードが活性化するための、事実を歪めて認知する傾向があるといえる。しかし、その認知の違いは、情動や対処行動にも影響する。
 いずれにしても、その場面の認知と自己の対処能力との相対的比較によってCAは喚起されると考えられる。さらに、その場面の認知と自己の対処能力との相対的比較によって、なぜ、CAが喚起されるかというと、その場面における個人の欲求があり、そのことは個人の能力では到達しないと判断したからである。また、学生の場合、自己の能力で不足を感じても、看護の役割を学ぶ過程では、困難であっても限られた期間で学習しようとする意欲によって回避することもできず、CAを喚起する傾向も考えられる。さらに、べックの脆弱モードが生じている場合などは、自己の能力の過小評価も起こるので、CAは強くなる可能性がある。
 したがって、ターミナルケア場面の状況と自己のコミュニケーションに対する能力への認知は、CAの要因の一つであるといえる。
 
3)CSの欠損
 CAはCSの欠損によって喚起されるという立場である。これは、コミュニケーション場面でCSが欠損していることで、コミュニケーションの相手からの否定的な評価を受けることでCAが起こるとしている。この仮説は、CAの高いもの、低いものによって、CSに差異があることから、概ね支持されている。しかし、不安が個人の内省報告を重視する以上、必ずしもCSの実際の状態と不安とが一致する必要はない。また、CSは個人の欲求、目的を達成するために用いられる技能である以上、その場面の公的性、相手の反応などによってもCSへの個人の認知は異なる。つまり、個人のCSへの認知、相手の反応をどのような評価として認知するかで、CAは変化する。
 ターミナルケア場面においても、学生は患者が話したり、質問されたりしたときに、上手く答えられないと、患者から嫌われたり、拒否されたりするのではないかと思いこむ傾向がある。特に、これまで述べてきたようなCAの要因が患者とのコミュニケーションの予期でも喚起されるのに対し、CSの欠損は、患者との実際のコミュニケーションに直接的に影響を及ぼしやすいことが考えられる。さらに、CSの欠損は、学生と患者との情報の送受信のみならず、受信した情報の解読、送信した情報がどのように受信されているかの解読にも影響を与える。つまり、ターミナルケア場面で学生は患者への情報の送受信を患者の反応を通して解読することで、CSの活用状況やその効果を判定している。このため、学生のコミュニケーションに対する患者の反応がネガティブな時は、CSが不足しているために否定的な評価を受けていると認知し、CAが喚起されやすいといえる。
 このように学生のCSは、実際のコミュニケーションに影響し、直接的にCAを喚起するようにも思えるが、むしろ、実際のコミュニケーション場面における患者の反応やCSの程度への認知を通して不安を喚起しているとも考えられる。このことは、学生が実際にはCSが獲得されていても患者の反応が少なかったり、拒否的であったりすると、自己のCSは欠損していると認知しやすい。その反対にCSが欠損していても患者の反応が多かったり、ポジティブな反応であったりするとCSは充足していると認知しやすい。つまり、CAにはCS行動の事実が影響するのではなく、その行動に対する患者の反応を通して認知されたCSが影響している可能性がある。
 したがって、ターミナルケア場面で学生のスキルの欠損は、CAの要因の一つであるといえる。







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