5. 日常生活態度
日常生活態度については仔犬時代のしつけによるところが大きいですが、成犬になってからも新たに生活習慣を作り上げていかなければなりません。盲導犬の場合、視覚を活用しないで犬の管理を行うことを念頭に置かねばなりません。
5.1 排便・排尿
盲導犬の場合、排便排尿は決められた時間ですますよう習慣づけられていますが、その処理方法は変わってきました。数年前まで、尿はそのままで便は、リードを長い状態でもち犬が主人の周りを動きながら場所を決め、排泄後ビニール袋を手にかぶせ拾い集めていました。現在は、「便ベルト」と命名した物を腹部に着け、それに付けたビニール袋に尿、便が直接入るように処理しています。ビニール袋には凝固剤を入れ、リードで犬を動かしながら便意を催すように声葉を掛けます。
動物にとって排泄行為は神経を使う行為であるため、仔犬時代からのしつけが大切です。訓練期間を通して慣らし、特にベルトを使用するには袋を着けず1ヶ月間ほど慣らした後、排泄の可能性が高い時間から袋を使用します。また、安心感を与えるためやさしく言葉を掛けるのがコツです。このベルトの効用は多大で、旅行の途中排便場所を探すことなく手近な常識範囲の場所で済ませることができ、犬に必要以上の我慢を強いることが無くなりました。
5.2 手入れ(ブラッシング)
盲導犬との生活で最も厄介なことは抜け毛の問題です。ラブラドールもゴールデンも皮毛が二重になっており、皮膚に近い綿毛は水や寒さを防ぎ外の硬毛は、外傷から肌を守ります。このため季節の変わり目には特に抜け毛が激しくなります。普段の抜け毛も全身が毛で覆われているため少なくありません。抜け毛で室内を汚すことの防止、においの軽減など、他の人に迷惑をかけないためにも毎日の手入れ(ブラッシング)が欠かせません。
犬の体全体にブラシするためには、犬が動き回ったのでは難しくなります。動かず静かかにさせるために、日々の手入れも訓練であると認識する必要があります。静かにブラッシングをさせるようにするには当然ブラシに慣れていなければなりません。初めは座った状態のほうが動きにくく、次に立たせ、片手で首の下のたるみを掴み動く気配で強く掴み『シズカニ』の言葉を掛け少しでも動きが止まったなら手を緩め静かに誉めます。
ブラッシングは犬の健康管理と親和を計るにも大切な時間です。また、外出時には洋服を着せ、雨の日には雨合羽を着せるなどの配慮をします。
5.3 ベッド
犬がいるべき定位置を称して『ベッド』と言います。普段自宅での生活では決められた場所に敷物を置きベッドとしています。しかし、旅行など外出先で主人から離れた場所で休まなければならないケースがあり、このような時に『ベッド』の訓練が役に立ちます。
60×90cm程度の敷物を犬舎内に敷いておき馴染ませます。その敷物を長時間待座の訓練で慣れた場所に置き『ベッド』の命令を教えます。場所を移動し練習します。次にトレーナーから少しはなれた場所に置き、命令と共に一緒にベッドまで行き伏せさせ賞賛します。徐々に距離を延ばすと其に、一緒に行くそぶりだけで一人でベッドまで行かせます。最後は隣の部屋にまで距離を伸ばします。
5.4 乗用車の乗り方
乗用車、タクシーへの乗車方法は基本動作として訓練されていることが必要です。乗用車の助手席の場合は、椅子を後ろに引き足元に伏せさせます。後部座席に乗る場合は、そのまま犬が頭から入ると、下りる時に幅の狭い場所で向きを変え難いため、座席に前足を掛けてしまいやすくなります。そのため乗車時より後ろ向きで乗せる訓練を行います。初めに『バック』の命令でドアーの前で犬を後ろに向かせます。次に前から下腹部に手を添え持ち上げるようにしながら、ステップに後足を掛けさせると、自然に自分から後ずさりしながら乗っていきます。ポイントはドアーを開け『バック』の命令で後ろに向かせることです。後ろを向けば犬から進んでバックで乗ります。
盲導犬の訓練はその犬の特徴を掴み、それに即した方法で完成させます。人間も犬も全て長所短所を持ち合わせています。長所は伸ばし短所は訓練で消していきます。しかし機械と異なり皆同じ盲導犬にはなりません。その個体の特徴を理解し訓練に励まなければなりません。そしてその犬の特徴を正確に評価し、視覚障害者とのペアを決定することが最終評価の役割です。最後に現在全国に9施設の盲導犬訓練所がありますが、それぞれ訓練方法、命令等に違いがあります。今回のこのテキストが共通の手助けになれば幸いです。
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