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III 実務編
 実務編では、各ステージにおける基本的な事項について記述されています。訓練士を目指す多くの方は、候補犬のトレーニングにのみ重きを置きがちです。視覚障害者にとっての「盲導犬歩行」は繁殖、PW、候補犬訓練、歩行指導、フォローアップ、引退の流れがスムーズにいってはじめてが完成されることを常に意識しておくことが肝要です。
 各項目は、例えば繁殖については福岡盲導犬協会、PWについては中部盲導犬協会といったように各協会で分担して行いました。それぞれの協会には歴史的な背景もあり、特徴もあります。従って各項目の内容に関してもその協会の独自性もありますが、今回の執筆にあたっては、「これから訓練士をめざす、若いスタッフのために」と極力独自性を排除し、共通部分を強調するようにしていただきました。
 内容的には各協会にとって、言い足りない部分、不足している部分も多々あります。不足している部分については、各協会で補うことを前提としていることを理解していただければと思います。特に内容の理解については「こうしなければならない」と理解せずに、「一つの方法であり、やり方である」と考えていただければ幸いです。
 
1. はじめに
 盲導犬協会における繁殖計画が順調であることは、盲導犬の育成が順調であるといっても過言ではありません。繁殖の基本は健康であること。盲導犬としての作業態度や日常での生活態度に優れていることが要求されます。繁殖は、繁殖ボランティアやパピーウォーカー等のボランティアに協力を依頼するわけですから、常に合格率の高い繁殖をを心がけなければなりません。卒業後ユーザーが使いやすい犬であるかなど2年後3年後を見越し、それらのデータをフィードバックし次の繁殖に活かしていかなければなりません。
 盲導犬協会における繁殖には、(1)盲導犬としての適性を備えた犬を事業の計画に沿って計画的、効率的に作出し候補犬を安定供給するというソフトの面。(2)犬の交配を行い妊娠すれば無事出産させ、パピーウォーカーに委託するという実質的なハードの面の2通りがある。
 このテキストでは繁殖の実際的なことに限定して述べることとする。
 
2.1 繁殖犬の選定
2.1.1 協会内繁殖犬より選定する
・遺伝的欠陥がないかどうかをチェックする。
a 股関節形成不全
b 進行性網膜萎縮
c 肘関節形成異常
d てんかん
e その他
・同胎犬の中より一番繁殖犬としての理想に近い犬を選び、次世代の繁殖候補犬として検討する。
・パピーウォーカーに委託中に決定するのではなく、訓練を実施した後にその結果を元に決定する。
・本犬のみでなく血縁関係にある犬に盲導犬としてふさわしくない性質を持っている犬がいない。
 
2.1.2 外部ブリーダーより選定
・雄・雌ともに盲導犬としての資質を備えた犬。訓練を実施した後にその結果をもとに決定する。
 
2.2 繁殖計画
(1)年間の盲導犬育成頭数を決定する。
 育成計画頭数以上の候補犬を確保するために何回繁殖を実施すればよいか計画する。
(2)個々の繁殖犬の発情サイクル、血統、盲導犬の合格率等を考慮して年間の計画を立てる。
(3)交配しても妊娠出産しない場合や計画通りの候補犬数が確保できない場合のための交配計画もたてておく。
 
(1)繁殖犬の選定
(2)繁殖ボランティアヘ委託
・雌犬 発情サイクルの記録
・交配予定日の1ヶ月前から育児中にワクチン接種日が重なる場合には、交配の1ヶ月ぐらい前までにワクチン接種の時期を早める。
(3)繁殖ボランティアより発情開始の連絡
・出血の様子
・陰部の状態
・犬の様子
・その他の健康状態
(4)協会より繁殖ボランティアヘ交配予定について連絡
(5)スメア検査 交配までに2回以上実施
(6)複数回以上交配し、1日おいて繁殖ボランティアヘ返却
(7)交配後1ヶ月 超音波による妊娠鑑定実施
(8)出産予定日2週間前までに産箱等の用意をすべて整えておく
(9)出産
 (初回の出産の場合協会職員が訪問)
(10)育児
 委託予定のパピーウォーカーの委託説明会実施
(11)離乳食開始
(12)協会にて子犬委託
 
(1)実際に発情が始まる前に交配の候補を決定しておく
(2)雄犬のコンディションを考慮して候補を2頭前後考えておくことが望ましい
(3)外部ブリーダーに交配を依頼する場合
打ち合わせる項目
・交配の場合の費用
・輸送方法と費用
・交配料 支払方法
・妊娠しなかった場合の条件
・交配の予定日
・返却予定日
・スメア検査で交配適期を決め、輸送日を決定し、先方の都合とあわせて決める。
・交配日の決定
 スメア検査を実施し、これまでの交配状況、雌犬の状態にあわせて交配日を決める。
・交配適期に最低2回は交配を行なうことが望ましい
 
(1)妊娠鑑定
 犬の妊娠鑑定は、大変難しくはっきりとわからない事が多いので受胎の状態を見るために獣医師の受診が必要である。
(2)妊娠中の食事
・妊娠後1ヶ月は、以前と同じ量の食事を与える。
・カルシウム剤を食事に添加する。
・1ヶ月以降は徐々に食事を増やす。
・妊娠後期になると胎児が腹部を圧迫するので、食事の回数を3回にする。
・交配後50日を過ぎると排泄の回数が増えたり、便が少し柔らかくなることもある。
(3)運 動
<1〜3週目>
 よほどの過激な運動でないかぎり、通常と同じ運動をしてかまわない。
 出産のために体力をつけておく。
<4〜6週目>
 妊娠犬に少なからず落ち着きが見られる。毎日の散歩と自由運動をさせる。
<7〜9週目>
 出産当日までは、続けて運動をさせる。ただし、ジャンプをさせたり、体を冷やさないように注意する。
(4)出産が近づいたら
・犬の妊娠期間は通常63日位であるが予定日は前後することがある。
・予定日の1週間くらい前から注意しておく。
・出産の8〜24時間前になると体温が平熱より1.1度ほど下がり、個体差はあるが、食欲が低下したり食べなくなることがあるので目安にする。
・次のような時は動物病院で受診する
・膿のような緑色のおりものが多量に出たとき
・妊娠40日を過ぎた頃、深緑色のおりものが出たとき
・妊娠末期の多量の出血
 
6.1 出産場所決定
・なるべく普段生活している場所に産箱を置く
・場所を変える時には少なくとも出産予定日の10日前までに行う
・出産は夜になることも多いので、電灯がついていると便利である
 
6.2 用意するもの
・産箱(ガードレールをつけておく)
・消毒用アルコール
・ハサミ(へそのおを切るため)
・糸(へそのおを縛るため)
・ゴム手袋
・タオル(産まれたばかりの子犬をふくため)
・古新聞
・毛布やぼろ布(出産する時に敷くため、出血や羊水で汚れるので多めに用意)
・保温箱(出産中仔犬を一時入れるための箱、中にタオルなどを敷いておく)
・カラーゴム10本程度
・メモ帳(出産記録をつけるため)
・はかり(仔犬の体重を量るため)
・ペットシーツ
 
6.3 その他
・出産中に様子がおかしくなった時のために、かかりつけの獣医に出産日を伝えておく。
・休日または夜間に往診してくれる獣医師の確保をしておく。







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