日本財団 図書館


5. 視覚障害のある人に対するケアマネジメント実施上の留意点
 視覚障害のある人に対するケアマネジメント実施上の留意点を、ケアマネジメント過程に沿って考察してみましょう。
 
5.1 対象者の把握と相談における留意点
 この段階では、特にその利用者がケアマネジメントの対象になりうる人であるかどうかを仕分けすることが重要なポイントとなります。1回の相談や社会資源の活用を紹介するだけで利用者の問題が解決し終結する場合もありますが、ケアマネジメントは利用者が複合的なニーズを有するため、継続的な関わりが必要な人が対象となります。我が国においてケアマネジメントを必要としている視覚障害のある人の発見は、病院・福祉事務所・視覚障害関係機関・当事者相談員・民生委員などと連携し積極的に行なわれなければなりませんが、中途で視覚障害になった人の場合、できるだけ早期にケアマネジャーが利用者に接することが望ましいのは言うまでもないことです。
 氏名、生年月日、住所、電話番号、緊急連絡先、生活歴(学歴、職歴を含む)、家族構成、収入(年金、手当の受給を含む)、医療機関の受診状況、相談主訴など、一般的な相談面接時の質問項目についても情報を聴取しますが、特に視覚障害のある人の状況、複合的なニーズの把握などのため、以下の点を十分考慮し相談面接を実施することが望ましいと言えます。
 
5.1.1 視覚障害の程度と受傷時期
 視覚障害の状況を的確に知ることは非常に難しいものですが、視力や視野検査を通じて本人の申し出に従い最終的には眼科医が判定することになっていますが、現実的には身体障害者手帳の等級や障害の程度だけでは正確に視覚障害の状況を知ることはできません。例えば、光覚弁があるのか・ないのか、あるいは、どの部分が見えるのかなど、直接面接の中で状況を細かく把握しなければなりません。なぜならば、ほんの少しの保有視覚であってもその人の生活視覚として有効に活用できたり、ニーズが変化することがあるからです。視力や視野の判定だけでなく、光覚弁・手動弁・指数弁・視力や視野の係数をはじめ、色弱の有無、天候や体調による視覚の変動など、具体的に視覚障害の状況を把握することが大切です。その結果、その後は視覚の状況と本人のニーズに応じた対応が可能となるのです。
 視覚障害の場合、受傷時期によってその人の現在の状態が異なる場合が多くあります。例えば、形・色・文字(漢字)・立体・空間などの概念が形成された後に視覚障害になったのか、あるいはそれらの概念形成以前に視覚障害になっていたのかによって、その人に対する説明の仕方や対応、指導内容や援助などが異なります。
 
5.1.2 合併症や他の障害の有無
 糖尿病や脳血管障害・網膜色素変性症などによる視覚障害のある人は、合併症や他の障害を重複することがあります。知的障害以外の障害と重複している場合は、しばしばその障害を過大視もしくは過小視する傾向があって、一見障害受容ができているように見えますが、実際にはそうでないことが多く、それが生活上のさまざまな問題や人間関係上の不適応など新たな課題を作り出していることがあります。
 
5.1.3 リハビリテーション(特に生活訓練)受講の有無
 視覚障害のある人の場合、リハビリテーションの中核とも言える生活訓練(社会適応訓練)を受講したか否か、あるいはそれと同様の過程や経験をしたかは重要なことです。
 生活訓練の目標として、生に対する積極的な姿勢の獲得、可能性の拡大(追求)、正しい自己理解と評価などがあげられますが、訓練受講結果として主体的かつ自発的に自らの問題を解決していこうとしているのかが重要な視点です。勿論それは当事者に認められるべき自由ですが、障害の受容や自己覚知がされてから自らの生き方を選択したのか、それとも何もわからない状態で選択せざるをえなかったのかは大きな違いです。
 
5.1.4 本人自身の希望・社会参加への意欲
 本人が自分自身の現在と今後についてどのように考え、どうしたいと願っているのかを把握することです。相談面接時に把握した障害受容の状況とその人の意欲との関係、今後の見通しなどについて話し合っておくことは、その人の支援体制を作るために欠くことのできないことです。また本人だけでなく、家族の本人に対する希望や見方を知ることも忘れてはなりません。
 
5.1.5 視覚障害のある人に対する家族の希望・障害の理解
 視覚障害児童の家族、特に保護者はその障害をどのように見ているのか、そのことと本人の障害受容と関係があるのかということです。家族が障害を過大に評価しているのか、あるいは過小に評価しているのかによって、本人に対する期待度は全く異なります。食い違いは本人に誤った自己理解と評価を植え付けてしまうので、できるだけ早期に一致させておかなければなりません。障害のある人本人からの相談だけではなく、その家族からの相談にも応じなければならないことがありますが、家族の訴えをそのまま本人の訴えとして受けとめてしまうことは危険ですし、ニーズの把握に誤りを生じさせてしまうこともあります。
 
5.1.6 介護の状況
 しばしば見受けられるのは、中途で視覚障害になった人の場合、あまりに過保護になりすぎていることです。だれが主に介護をし、その方法を誰から・どのように学んだのかなど明らかにしておく必要があります。正しい誘導(手引き)や位置や方向の指示の仕方などについて、家族や介護者に指導しておくことは非常に重要かつ有効です。
 
5.1.7 社会資源の利用状況
 視覚障害になってからの期間や置かれてきた状況、本人や家族の意欲によって社会資源の利用状況は異なります。ケア計画の立案・作成のために現在どのような社会資源を活用しているのかを知ることは非常に重要です。
 
5.2 総合的アセスメント時における留意点
 5.1で述べた事柄について、本人及び家族の主観的評価と客観的評価をできるだけ結び付け一致させておかなければなりません。しばしば障害者本人のことであっても、主観的評価と客観的評価が全くくい違い、どちらが妥当か分からないことさえあります。どうしても面接のみでアセスメントしがちになる傾向がありますが、できるだけ動作や行動の伴う事柄については危険のない程度で実際に動作や行動をしてもらい、面接と併せて総合的にアセスメントしていくことが望ましいと言えます。例えば中途視覚障害直後の人の場合、本人・家族共に、実際にはできているのに「なにもできない」、あるいはできていないのに「なんとかできている」などとさまざまです。したがって一日の時間的流れの中で、生活状況の観察を通じてアセスメントしていくことなどが有効な方法です。
 
5.3 ケア計画の立案・作成における留意点
 この過程でも、あくまでも自己決定の原則が尊重されなければなりません。視覚障害のある人及びその家族、もしくは代理人が現状をどのように考え、今後をどのようにしたいのかを5.1・5.2段階の過程を通じて明確にするとともに、それが十分尊重され目標を定め、ケア計画の立案・作成が共同作業として行なわれることが大切です。
 この過程においては、一つのニーズに対して現存するサービスを適用するだけでなく、多角的な側面から検討しさまざまな解決方法を探り、多くの選択肢を提供することが重要です。なお、その際本人及び家族の経費負担を十分考慮して検討されなければなりません。例えば外出困難な視覚障害のある人にガイドヘルプサービスを提供することがありますが、ガイドヘルパーについても家族・親類・近所の人・ボランティアグループ及び、公的制度などさまざまな資源があり、それぞれサービス要件・費用負担は異なります。1回だけのサービス提供で良いのか、あるいは一定期間継続的にサービス提供をしなければならないのかによっても利用状況は異なります。
 また、あくまでもこのケア計画の立案・作成は、永久的・永続的なものではなく一定期間の計画であり、ニーズに伴って随時変更していくものです。例えば、数ヶ月間ボランティアグループによるガイドヘルパーを活用し通院していた視覚障害のある人が、徐々に外出に慣れ、また体力も回復してきたため、本人自らが歩行訓練を受ければ単独歩行が可能になるのではないかと考え始め、それに対して訪問による在宅での歩行訓練が開始されることもあります。したがって経過的にニーズを把握し直し、目標を定め、ケア計画を立案・作成していく必要があります。
 
5.4 サービスの供給・実施・調整における留意点
 ケアマネジャーはサービス提供者と連絡をとり、視覚障害のある人が在宅生活やニーズを少しでも充足できるように働きかけなければなりません。必要に応じてケアマネジャーは視覚障害のある人やその家族・代理人等に同行し、代わって状況説明をしたり調整したりしなければならないことがあります。時には家族や近隣住民との間に入り、視覚障害のある人の社会参加と複合的なニーズ充足のため、視覚障害の理解を深める啓発活動をしたり、社会資源が十分でなければその開発などもしていかなければなりません。
 
5.5 モニタリングにおける留意点
 しばらくの間は、各種のサービスが順調に提供されているかについて点検・確認を行ないます。特に重要なことは、1ヶ月に1回程度定期的に視覚障害利用者を訪問したり、サービス提供者に連絡をとり、視覚障害利用者の日常生活や社会生活状況の変化によってニーズが変化していないかどうかを継続的に確認していく必要があります。視覚障害について熟知したサービス提供者は少ないと予想されるため、ケアマネジャーはその点でのサービス提供の管理や調整の役割、特に社会資源の開発や適切な人材確保・開拓に関する調整の必要性は高く、サービスの量と質及び利用者のニーズを常に見守り、最大限のサービス提供効果が上げられるようにしていかなければなりません。
 
5.6 再アセスメント及び終了における留意点
 定期的なモニタリングにおいて問題が生じたり、新しいニーズが発生していれば、再アセスメントを実施します。以前に作成したケア計画では利用者の社会生活上のニーズを充足できず、生活上の新たな困難が生じていることが明確になった場合、(3)ケア計画の立案・作成の段階に戻り、ケアマネジメント過程の循環を繰り返すことになります。
 モニタリングにおいてケア計画が順調に実施され、利用者が社会生活を将来も問題なく維持することが確認できればケアマネジメントは終了します。ただし、終了に際しては、利用者が後に再度相談に訪れ易いように信頼関係を形成しておくことや、「困った時にはいつでも相談して下さい」というような声がけの配慮が必要です。
 
 社会福祉の分野において「エンパワメント」という用語が意味するものは、社会福祉固有の援助者と被援助者との間の専門的関係、すなわちサービス提供者とサービス利用者との関係を捉え、いかに個々の利用者にサービス利用の主体性をもたらすかということです。それは個人の生活が他の人、すなわち専門家によってコントロールされている状況から、利用者自らがコントロールする側に移行すること、すなわち専門家からやってもらうという立場ではなく、あらゆる意味での知識や技術を自分なりに持ち、主体的・自発的に問題を解決する能力を持つ過程であると言えます。つまり、「やる・やってもらう」という「パターナリズム」の関係から「パートナーシップ」の関係、すなわち「共同作業」の関係に変えて行かなければならないことを意味しています。この過程がエンパワメントなのです。それはまさしく昨今とりざたされている社会福祉基礎構造改革の中心的課題でもあります。
 視覚障害にかかわらず障害のある人に対するリハビリテーションやケアマネジメントはもとより、介護福祉や社会福祉など対人サービスを中心とする分野においては、正に前述の視点に立って実践されなければなりません。特に重要なのは、その視点に立脚した援助方法は利用者自身の希望する生活を実現するための最も有効な方法であり、利用者の自己決定・主体性・自発性・自立性・選択性が基本として尊重され、利用者の意向が十分に反映されなければならないということです。
 また、リハビリテーションやケアマネジメントの実施に当っては、利用者の社会生活力(SFA:Social Functioning Abilities)、すなわち1986年国際障害者リハビリテーション協会社会委員会の社会リハビリテーションの定義に見られるように、「さまざまな社会状況の中で、自分のニーズを満たし、最大限の豊かな社会参加を実現する権利を行使する能力」1)を高めるという視点で実践されなければ、いかに有効な援助手法であっても「労多くして実り少ないもの」になってしまうのです。正にケアマネジメントはその視点に立った1つの有効な社会福祉援助技術であると言えるでしょう。
 
<引用文献>
1)小島蓉子・飯田雅子 編著(1997):三訂 障害者福祉論 p125 建帛社
 
<参考文献>
1)白澤政和 編著(1999):在宅介護支援センターに学ぶケースマネージメント事例集 中央法規出版
2)岡田藤太郎・岡本千秋・小田兼三 監修(1998):ケアマネジメント入門 中央法規出版
3)白澤政和(1996):ケースマネージメントの理論と実際 中央法規出版
4)白澤政和(1996):ケアマネジャー養成テキストブック 中央法規出版
5)白澤政和 編著(1999):在宅介護支援センターに学ぶケースマネージメント事例集 中央法規出版
6)ケースマネージメント研究委員会 編(1997):ケースマネージメント 全国社会福祉協議会
7)小川喜道(1998):障害者のエンパワーメント−イギリスの障害者福祉 明石書店
8)厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課 監修(1999):障害者ケアマネジャー養成テキスト「身体障害編」 中央法規出版
9)身体障害者ケアマネジメント研究会 監修(2000):障害者ケアマネジメント実施マニュアル(身体障害編) 中央法規出版
10)Stanford E.Rubin & Richard T.Roessler(1987):Foundations of the Vocational Rehabilitation Process PRO-ED.
11)BRENDA PREMO(1994):Americans with Disabilities Act California Department of Rehabilitation
12)California Department of Rehabilitation:CLIENT INFORMATION BOOKLET







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION