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3 視覚障害のある人のケアマネジメント
1. 要約
 ケアマネジメントとは医療・保険・福祉・住宅・所得・就労など複数の、あるいは複雑な、すなわち複合的な社会生活上の問題を有している要援護者(利用者)と、その問題を合理的かつ効率的に解決するために地域に散在している社会資源を集め・必要に応じて開発し、結びつけることによって、要援護者の自立や生活の質を高め・確保するよう援助することであると言えるでしょう。この社会福祉援助技術の1手法であるケアマネジメントを視覚障害のある人に適用する場合、どのような配慮・留意点が必要かを考察します。
キーワード
 ケアマネジャー 複合的なニーズ 社会資源 自立 QOL(生活の質) 入り口・総合相談・対象者の把握 総合的アセスメント 目標の設定とケア計画(プラン)の作成 ケア計画の実施・調整 モニタリングと再アセスメント ケアマネジメントの終了 エンパワメント SFA
 
 ケアマネジメントの発祥は、その必要性から検討することができますが、施設福祉から地域福祉・地域医療へと移行していく時に、ケアマネジメントを必要としてきた側面が多く見受けられました。それはちょうど、地域福祉・地域医療の考えが転回し始めた1970年代後半に、ケースマネジメントという用語が頻繁に使用されるようになってきた時期と同じでした。
 1970年代アメリカでは、精神障害のある人のコミュニティケアを実現するために半数の州立病院を閉鎖することにしました。急に病院から地域へ出された障害のある人たちは地域生活を営んでいくために、医療・就労・福祉・住宅・所得保障などの各種の窓口に自らが出向いて行かなければなりませんでした。それまでは病院の中で医療ソーシャルワーカーを窓口に、その援助を受けながら社会生活上のさまざまなニーズを充足させてきました。地域に放り出された障害のある人たちは、さまざまなニーズを充足させるために、その調整を自分でやらなければならなくなってしまったのです。地域に散在している社会資源とその情報を収集し、それらの中からニーズを充足するために必要な社会資源を自分用にパッケージングしなければならなくなりました。そうしないと地域における在宅生活が維持できないからです。そこで、精神保健センターを地域に設置し、今までの病院内のケースワーカーに代わってケースマネジャー(ケアマネジャー)を配置し、複数の複雑なニーズを充足させるための社会資源の発見・開拓・収集をはじめ、サービス(ケア)プラン作成(パッケージング)を一手に行わせようとしたのです。すなわち、地域福祉や地域医療は在宅生活の維持のためにケアマネジメントを必要不可欠なものにしたと言えます。
 
 ケアマネジメントとは、「ケアマネジャー」が「複合的なニーズ」を有する要援護者と「社会資源」を結びつけ、要援護者の「自立」や「QOL(生活の質)」を確保するために用いられる社会福祉援助技術の1つであると定義づけることができます。
 
3.1 自立(自律)
 ケアマネジメントのひとつの具体的な目標が自立と言えますが、自立ということの考え方にもいろいろあります。大きく分ければ3つになるでしょう。
 第1の自立は、一般的によく自活という言葉で言い表している状態です。すなわち「経済的自立」を意味していることが多くあります。第2の自立は「日常生活動作上の自立」です。介護上では移動を伴う食事・排泄・入浴などが自分自身でできるか否かということで、自立しているかどうかが決定されます。現在施行中の介護保険制度上の自立は正にこの自立を意味しています。第3の自立は、「自己決定できるか」ということで、最近ではよくそれを「自律」と呼んでいます。すなわち、自分がこれからどうしていきたいか、どのような生活を過ごしていきたいかなどを自らが決定し、そのために必要な各種のサービスを受ける、ということです。このことは1970年代のアメリカで起きた自立生活(independent living)運動によってもたらされました。それは食事や衣服の着脱などの日常生活動作が自分ではできない重度の障害のある人であっても、本人が自分の生活を自己管理することを基本とするものでした。たとえ重度の障害のある人であっても、自分の人生は自らが決定していきたいということから発祥したものでした。
 この3つの自立の概念はリハビリテーションにおいても非常に重要なことです。すなわちこれらの概念はただ単に並列に並べられているのではなく、3→2→1へと指向性をもったものなのです。視覚障害をはじめどんな重度の障害のある人であっても、まずは3の自立(自律)を目指し、それが達成できたら2の日常生活動作の自立を、そして1の経済的な自立を目指して努力していくように援助していかなければならないのです。また、それぞれの自立を目指す人がいて当たり前なのです。
 
3.2 生活の質(QOL:Quality of Life)
 ケアマネジメントのもうひとつの具体的な目標がQOLの維持・向上です。誰もが「より良い生活」を営みたいということを望み、介護者・援助者はそれを願って活動しています。この「より良い生活」とは、どのようなことを意味するのでしょうか。もちろん物質的な満足を意味しているのではありません。人間としては究極的に尊厳が認められたか否かということに行き着くのでしょう。それを心身ともに感じていられるという状態というのは、幸福感・満足感・安定感が得られる状態を意味しているのです。その状態に少しでも近づくよう、また維持できるよう援助していくのがケアマネジメントなのです。
 
3.3 複合的なニーズ
 あくまでもケアマネジメントの対象となる人は、単一のニーズを持っている人ではなく、複数の且つそれが複雑に絡み合っているニーズを有している人です。現代地域社会において在宅生活を行っていく上で、何らかの生活問題を抱えている人が、単一のニードを充足すれば良いなどということはありません。仮に単一のニードを充足させるだけで地域生活を行っていける人はケアマネジメントの対象にはならないのです。すなわち、ケアマネジメントの対象となる人はセルフマネジメントができない人ということになります。セルフマネジメントができない、あるいはでき難い人は、複合的なニーズを持ちやすいということにもなります。すなわち、ケアマネジメントの対象となる人は、ニードが重複しているために1つ以上の社会資源を必要としているか、あるいはそれらの社会資源の利用方法を知らない人ということになります。このような人が地域で在宅生活を営んでいくために、医療・就労・福祉・住宅・所得保障などの複数のニーズやそれらが絡み合った複雑なニーズを充足させるために、利用者やその家族と充分話し合いながら利用者の意思を最大限に尊重し、生活問題の解決を求めていく専門家がケアマネジャーです。
 ニーズにはさまざまな性質があります。その第1はニーズの二重性ということです。すなわちニーズには「今必要なこと」と「将来の目立(自律)とQOLの確保と向上のために必要なこと」があります。目先の問題解決のためだけのサービス提供やケアプランの作成にならないよう充分配慮しなければなりません。第2の性質はニーズと要望とはことなり、一般的には自覚されないのが普通です。一方的に家族が本人に代わって要望を表出することがありますが、それを鵜呑みにしてしまい、間違った対応をしてしまうことがあります。第3の性質はニーズは錯綜しているということです。つまり、ニーズは1つ1つが解決すべき事柄であると同時に、互いに関連しあっているということです。
 
3.4 社会資源
 利用者のニーズを充足する社会資源には広範囲なものが考えられます。誰が社会資源を提供するかといった供給主体からの分類では家族、親戚、近隣、友人・同僚、ボランティア、地域の団体・組織、社会福祉・医療法人等、行政、企業など、インフォーマルな社会資源とフォーマルな社会資源などがあります。その他、利用者本人が有する能力や資産なども有効な社会資源となります。さらにそれでは不十分なときにはケアマネジャーは、社会資源の開拓によって新たな資源を作り出し、それを利用者に結びつけニーズを充足させなければなりません。
 
3.5 ケアマネジャー
 これら社会資源と利用者のニーズを結びつけ、問題を解消していくのがケアマネジャーです。従来は利用者本人やその家族がこのケアマネジャーの役割を果たしていましたが、現在のように社会資源が多元的に供給されるようになると、充分その役割を担うことが難しくなり、専門家が必要不可欠になってきました。その任に当たるのがケアマネジャーです。
 
 ケアマネジメントの過程は一般的に次の段階を経て実施されます。第一段階は各種の機関と連携し、総合相談に応じ利用者を発見し、さらにはさまざまな情報を提供するとともにケアマネジメントの対象者になりうるか確認する「入り口」です。第二段階は要援護者を社会生活上の全体的な観点から捉え、現時点での問題点やニーズを明らかにする「総合的アセスメント」です。第三段階は解決の見通しのつく目標を要援護者とともに設定し、フォーマルなサービスとインフォーマルなサポートの個別化されたパッケージを計画する「目標の設定とケアプランの作成」です。第四段階は要援護者が円滑に質の良いサービスやサポートを受けられるようにする「ケア計画の実施・調整」です。第五段階はケア計画が円滑に実施されているか、要援護者や社会資源の変化に対応しているかなどを家庭訪問したりサービス提供者と連絡を取りながらフォローアップする「モニタリング」です。さらに新たな問題の発生や状況の変化によって提供しているサービスが、ニーズを充足していないことが発見された時には「再アセスメント」を実施します。その結果、新たなニーズが明らかになった場合は、第三段階の「目標設定とケア計画の立案・作成」に戻り、ケアマネジメント過程の循環を繰り返すことになります。第六段階はケアマネジメントの必要性がなくなった時点、すなわち要援護者が社会生活上、今後も問題なく継続できることが確認できればケアマネジメントは終了します。これらのケアマネジメント過程を図式化すると次のような図となります。
 
ケアマネジメント過程
(第一段階)入りロ:総合相談・利用者の確認(スクリーニング)
 ↓
(第二段階)総合的アセスメント:ニーズの把握
 ↓
(第三段階)目標設定とケア計画(プラン)の立案・作成
 ↓
(第四段階)ケア計画(プラン)の実施・調整
 ↓
(第五段階)モニタリングと再アセスメント
 ↓
(第六段階)終了







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