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盲導犬訓練士養成テキスト

 事業名 盲導犬訓練士養成テキストの作成
 団体名 日本盲導犬協会 注目度注目度5


II 知識編
 知識編の執筆者にはそれぞれの専門分野でご活躍の中、このテキストの主旨に賛同していただき、特別に執筆していただきました。文章の内容をご覧になれば、単なる机上での思考に留まらず、それぞれの方が優れた実践家であることがご理解いただけると思います。
 知識編は大きく分けて2つの部分からなりたっています。一つは視覚障害についてです。盲導犬育成は視覚障害者のための事業です。当然、視覚障害者のために我々は盲導犬を訓練している訳です。従って訓練をしていく前提として視覚障害者に関する知識が必要になります。視覚障害者がどのような情報をもとに歩行をするのか、どのような行動特性を持っているのか、何ができ、何ができないのかを想定しなければ、盲導犬の訓練自体が成立しません。
 もう一つは犬自体の知識です。候補犬を訓練するまでには繁殖があり、PWへの委託があります。その際、遺伝的な病気に対する知識、公衆衛生上での病気の予防知識も重要です。そのためには犬の体の構造や生理などを知っておく必要があります。また訓練をしていく上ではそもそも犬の学習構造がどうなっているのかの基本的な知識も必要です。
 先にも記述しましたが、ここに書かれているものだけでは十分とは言えませんが、知識編で挙げられている項目は、どれも欠くことのできないものです。各執筆者が引用文献や参考文献を示しています。このテキストをきっかけに、専門書などを一読されることもお勧めします。
 
1. 要約
 視覚障害のある人の障害特性とその心理的様相は、障害の程度・原因・受傷時期などをはじめ、個人の性格や家族環境、さらにはその人の人間関係や地域・社会環境によって異なるものです。視覚障害のある人の障害を正しく認めることができず、また見誤って、本人及び周囲の人が障害を過大視あるいは過小視することは視覚障害のある人の社会参加に重大な影響を及ぼすだけでなく、障害のある人に対する理解の促進を妨げてしまうものです。「視覚障害」という障害を社会生活を営んでいる人間から切り離すことなく、「視覚障害のある人」として「まるごと」捉えていくことが大切です。視覚障害のある人は障害のある人以前に人間なのです。
キーワード
 視覚 視力 視野 身体障害者福祉法 国際障害分類 機能障害 能力障害 社会的不利 ローウェンフェルド トーマスキャロル 重複障害 弱視 移動・歩行 コミュニケーション 日常生活動作
 
 「視覚障害のある人」と言っても、その障害の程度は、光も全く見えない全盲の人から通常の日常生活においてあまり不自由を感じない程度の視覚を有している弱視の人までさまざまです。また、視野欠損や狭窄と言ったような視覚の範囲が極端に限られている状態の人までいます。当然この障害の程度や状況によって、さらには障害の受傷時期によってもその人が被ってしまう不自由や制限、精神的な状態はその人の個別性に加え異なるものです。しかしながら、視覚障害の定義は各法律によってその定義も異なりますので、ここでは多くの分野で適用されている身体障害者福祉法別表による定義を紹介しておきましょう。
 身体障害者福祉法別表によると、次に掲げる障害で永続する者を「視覚障害のある人」としています。
(1)両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ)が、それぞれ0.1以下のもの
(2)一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
(3)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
(4)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
 また、身体障害者福祉法では以上の視覚障害を重度の1級から軽度の6級までに分類し、さまざまなサービス提供の条件にしています。(身体障害者障害程度等級表参照)
 この「視覚障害」の「障害」をどのように考え、どのように捉えたらよいかについては、国連の「国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps)」が参考になるので、それを紹介します。
 1980年に国連の専門機関の1つである世界保健機関(WHO:World Health Organization)は、「障害」の概念を整理・分類して「国際障害分類試案」として発表しました。その後、1993(平成5年)に試案が外れ「国際障害分類」となりました。この分類の目的は、障害を疾病分類と同様に統計的に把握しやすくすることと、個人を対象にした社会保障やリハビリテーションサービスに関する効果測定の道具として活用を可能とすることなどでした。国際障害分類は、障害を三次元の構造、すなわち機能障害(Impairments)・能力障害(Disabilities)・社会的不利(Handicaps)として捉え、体系化した点で最も意義深いものでした。第一段階の障害の「機能障害」とは、欠損または心理的・精神的・身体的あるいは解剖学的機能構造の異変、すなわち能力レベルではなく客観的・医学的事実としての障害を意味しています。第二段階の障害の「能力障害」とは、機能障害の結果普通と考えられる範囲の行動を取る能力が制限されたり欠如していることで、機能の制限や低下を意味しています。第三段階の障害の「社会的不利」とは、第一・第二段階の障害の結果、個人が社会的・文化的に期待される役割を達成することができず社会的に制限された状態に置かれ、正常な社会的営みをすることができなくなるという社会・文化的な不利益を意味していました。
 しかしながら1990年代に入ると、障害者の社会参加の促進、障害者理解の浸透、社会情勢の変化などに伴って国際障害分類の改正気運が高まり、改正案づくりがWHOによって進められました。1992年から国際的な改定会議が毎年開かれ、アルファ案に対する意見聴取(1996年〜1997年)、ベータ1案についてのフィールドトライアル(1997年〜1998年)、ベータ2案のフィールドトライアル(1999年〜2000年)が世界的に専門家と当事者の協力を得ながら行われ、その最終結果を2000年11月の年次会議に結集し最終案がまとめられ、翌2001年5月に正式決定されました。これは以前の「国際障害分類(ICIDH)の改訂版で正式名称を「生活機能・障害・健康の国際分類(International Classification of Functioning、 Disability and Health)」とし、略称を「国際生活機能分類(ICF)」とされました。このICFの主な特徴としては、次の4点が挙げられるでしょう。
(1)「機能障害」でなく「心身機能・構造(Body Functions and Structure)」、「能力障害」でなく「活動(Activity)、「社会的不利」でなく「参加(Participation)」などの中立的な用語が用いられ、これらが障害された状態を「機能・構造障害」「活動制限」「参加制約」とされました。
(2)障害の原因としての「健康状態」の概念が、疾患だけでなく妊娠、高齢、ストレスなどを含めた概念へと拡大されました。
(3)障害の発生に環境の影響が強く作用すると考え、背景因子(環境因子と個人因子)が重視されました。
(4)ICIDHが各次元間の関係を一次元的・一方向の流れとして示していたのに対して、ICFでは各次元や背景因子が相好に関係し、二次元的・双方向で示されています。
 
 我が国における視覚障害をはじめ身体障害のある人たちの実態調査は1951(昭和26)年以後、厚生省(現厚生労働省)によっておおむね5年ごとに実施されています。直近の調査は2001(平成13)年6月に実施された「身体障害児者実態調査」ですので、その基礎的な数字から概要を見てみましょう。
 全国の18歳以上の在宅で身体障害のある人は324万5干人と推計され、前回(1996年11月)に比べて約10%増加しています。年齢階層別に見ると60歳以上が全体の72.9%(前回67.0%)を占めており高齢化傾向が顕著になっています。視覚障害のある人は前回から4千人減り30万1千人で、身体障害のある人全体に占める割合は9.3%でした。
 障害の種類別にその数を見ると、肢体不自由が174万9千人で前回に比べ5.6%の増・身体障害のある人全体に占める割合は53.9%でした。以下、内部障害が84万9千人で36.7%の増・全体の26.2%、聴覚言語障害が34万6千人で1.1%の減・全体の10.7%、視覚障害は30万1千人で1.3%の減・全体の9.3%でした。
 年齢階層別状況を見ると、70歳以上が45.7%、60歳以上が72.9%と高齢化の傾向は進んでいます。障害種別においても70歳以上の割合がいずれも最も多くなっています。
 障害の程度別状況では、1・2級のいわゆる重度身体障害のある人が146万4千人で全体の45.1%で、前回43.2%でしたので重度化の傾向も進んでいます。
 障害種別で1・2級の割合を見ると、視覚障害が59.5%と内部障害が59.7%で、他の障害に比べ占める割合が高いのが特徴です。
 18歳未満の在宅で身体障害のある児童は8万1,900人と推計され、前回と比べ横ばいとなっています。そのうち、視覚障害のある児童は5.9%に当たる4,800人と推計されています。
 視覚障害のある人について少し詳しく見ると、総数は30万1千人(前回30万5千人)で、その性別は男性が15万4千人(前回13万9千人)、女性が14万2千人(前回15万9千人)、不詳5千人となっており、男性の割合が50.5%と僅かに女性を上回っています。
 年齢階層別に見ると、70歳以上が15万5千人(51.5%)と最も高い割合を占めています。それに続いて、50歳〜59歳が4万7千人(15.6%)、65歳〜69歳が3万7千人(12.3%)、60歳〜64歳が2万9千人(9.6%)、40歳〜49歳が1万6千人(5.3%)、30歳〜39歳が8千入(2.7%)、20歳〜29歳が7千人(2.3%)、不詳が2千人(0.7%)となっています。60歳以上の割合が前回の67.2%から73.4%に高まり、身体障害のある人全体の72.9%を上回っています。
 障害等級別に見ると、1級が10万5千人(34.9%)で最も多く、以下2級が7万4千人(24.6%)、5級が3万4千人(11.3%)、6級が3万2千人(10.6%)、4級が2万8千人(9.3%)、3級が2万7千人(9.0%)、不明が1千人(0.3%)と続いています。1・2級のいわゆる重度障害のある人が59.5%で、身体障害のある人全体の45.1%を大幅に上回っています。
 視覚障害の原因別に見ると、疾病が7万7千人(25.6%)で最も多く、以下事故が3万3千人(11.0%)、出生時の損傷が1万6千人(5.3%)、加齢が1万4千人(4.7%)、その他が4万7千人(15.6%)、不明5万8千人(19.3%)と続いています。
 
 先天性あるいは早期に視覚障害になった人と、中途で視覚障害になった人とでは、現時点において視覚障害を有していることは同一ですが、視覚的経験の有無、すなわち視覚的経験の記憶を保有しているか否かという点については決定的な相違を示しています。それは視覚による模倣ができないことをはじめ、運動発達にも多大な影響をもたらすことになるからです。したがって、視覚障害のある人の状態やニーズを正しく把握するためには、視覚障害受傷時期を正確に認識しておかなければなりません。
 先天性あるいは早期に視覚障害になった人の問題を考察していく上で、有効的な手掛かりを提供したのがB.ローウェンフェルド(Berthold Lowenfeld)です。彼は視覚障害によって、その人の心中に心理的葛藤が生じるためそれを解決し、健康な精神を回復することが重要であり、正にそれが視覚障害への適応であると考えています。さらに、その葛藤は視覚障害による制限と密接に関連しています。M.バウマン(Mary K. Bauman)とN.ヨーダー(Norman M. Yorder)の書「失明への適応(Adjustment To Blindness)」1)の中で、ローウェンフェルドの制限を次のように表しています。
(1)概念の範囲と多用性における制限(Restriction in the Range and Variety of Concepts):聴覚、触覚、筋肉運動感覚などへの依存、空間知覚や概念形成上の制限、色彩概念の欠如などです。
(2)移動する能力の制限(Restriction in the Abity to Get About):身体の移動や運動における制限(欲求不満や苛立ち)、他人への依存、経験領域の縮小などです。
(3)環境の統御における制限(Restriction in the Control of the Environment):距離をおいた事物の形状・大きさ・位置・相互関係などを見ることによって理解できた環境が非現実的なものとなり、社会的世界からの分離、児童の発達に及ぼす影響(例えば事物に向かって這っていかない、模倣困難、周囲からの孤立)などがあります。
 我が国においては、佐藤泰正が「視覚欠損ということは、単に感覚を欠いているということ以上に人間生活に大きな影響を与えている。すなわち、人間の行動、知的発達、パーソナリティなど、人間形成の面でいろいろな影響を与えている。」2)と述べ、視覚が感覚器官としていかに重要であり、優位な位置を占めているかを、次のような具体的な制限を挙げ指摘しています。3)
(1)視覚的刺激に対する反応がおこらない。
(2)視覚的模倣ができない。
(3)歩行、運動の制限。
(4)概念形成の制限や知識の歪み。
(5)環境認知力の制限。
 
 中途で視覚障害になった人は全盲であっても失明以前の視覚的経験を豊富に保有し、失明後の生活の中でそれを活用することができるという点については、先天あるいは早期に視覚障害になった人とは完全に異なっています。一例をあげれば、先天あるいは早期に視覚障害になった人の多くが対象を平面的にとらえるのに対して、中途で視覚障害になった人の対象認識の方法は、常に空間を意識したものであり、視覚障害受傷以前にすでに獲得し、記憶痕跡として保有している視覚的経験の記憶を、視覚以外の感覚器官の機能を活用しながら認識対象を視覚化する(visualize)ことが可能です。
 中途で視覚障害になった人、特に障害の受傷直後のさまざまな状態をトーマスJ.キャロル(Thomas J.Carroll)は、彼の著書「失明(blindness)」4)の中で「20の喪失」として、次のようにまとめています。しかし、全ての中途で視覚障害になった人が以下の喪失全てを被るわけではありません。障害の程度や受傷時期、その人の生育歴やパーソナリティによって変化することを十分認識しておかなければなりません。
 
5.1 心理的安定に関連する基本的な喪失
 (1)身体的な完全さの喪失 (2)残存感覚に対する自信の喪失 (3)環境との現実的な接触能力の喪失 (4)視覚的背景の喪失 (5)光の喪失
 
5.2 基礎的技術の喪失
 (6)移動能力の喪失 (7)日常生活技術の喪失
 
5.3 意志伝達能力の喪失
 (8)文書による意志伝達能力の喪失 (9)会話による意志伝達能力の喪失 (10)情報とその動きを知る力の喪失
 
5.4 観賞力の喪失
 (11)楽しみを感じる力の喪失 (12)美の観賞力の喪失
 
5.5 職業、経済的安定に関する喪失
 (13)レクリエーションの喪失 (14)経験、就職の機会等の喪失 (15)経済的安定の喪失
 
5.6 結果として全人格に生じる喪失
 (16)独立心の喪失 (17)人並の社会的存在である事の喪失 (18)目立たない存在である事の喪失 (19)自己評価の喪失 (20)全人格構造の喪失







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