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3.4 諸外国における盲導犬事業の現状
3.4.1 国際盲導犬学校連盟
 国際盲導犬学校連盟(The International Federation of Guide Dog Schools for the Blind)は、2001年12月末日現在、26ヶ国76施設が加盟する盲導犬に関する唯一の国際組織である。本部をイギリスに置き、会員から選挙された11名の委員から成る評議会が運営に当たっている。
 国際盲導犬学校連盟は、「視覚障害者の単独歩行の手段である盲導犬を世界的に普及させ、発展させること」を使命とし、以下掲げる事項を目的として活動している。
(1)会員施設や新たに設立された盲導犬学校に次の事項を奨励すること
・盲導犬の効果的使用を視覚障害者に指導すること
・視覚障害者の安全で効率的な歩行法としての盲導犬の繁殖、育成、世話および訓練の考え方
(2)次の事項に関する基準を策定し、奨励すること。
・繁殖、育成、世話および訓練
・職員の選抜と教育
・盲導犬の使用に関する視覚障害者に対する指導
(3)盲導犬学校が前述の基準を満たしていることを認定すること、ならびにその適格性について監督を続けること
(4)新たな盲導犬学校の設立に関心を示す人々に助言をすること
(5)盲導犬学校間の知識と理解の交流促進
(6)市民、行政機関、企業が盲導犬歩行の有用性に関する認識を高め、事業に対する理解と財政支援を行うようにすること
(7)盲導犬学校が、盲導犬使用者のアクセス権(検疫、公共の場所および公共交通機関を含む)を支援するよう勧奨すること
(8)視覚障害者団体および支援団体など関係する諸団体と協力すること
 会員は、正会員(Full membership)と準会員(Associate membership)に分かれ、正会員は法人設立後5年以上経過し、少なくとも20頭以上の盲導犬を育成するとともに、国際盲導犬学校連盟が定める基準を満たす必要がある。また、評議会が任命する査察員(Assessor)の査察を受けなければならない。正会員の資格を維持するためには5年ごとの査察を受ける必要があるなどの規定がある。2001年12月末日現在、正会員63施設、準会員13施設である。我が国では7施設が正会員として加盟している
 国際盲導犬学校連盟は、1983年にオーストリアのウィーンで開かれた第3回盲導犬国際会議が発端となり結成が進められた。1986年、イギリス・レミントンスパ、1988年、イギリス・ウォーキングハムでの準備会議を経て、1989年4月26日にイギリスの国内法に基づいて法人登記された。
 毎年各会員施設から送られた情報をもとにYearbookが発行されている。また、2年に1度の総会が開かれるとともにセミナーが開かれて、100人を越える指導員や訓練士が参加して知識や情報の交換を行っている。2002年には韓国で、サムソン盲導犬学校が主管して開かれた。
 連盟の2001年版Yearbook(2000/01/01〜2000/12/31)によれば、加盟施設においては2000年に3,434ユニット(※)が訓練された。なお、1999年は2,626ユニット(30.8%)である。
これらは、
○新規のユーザーが、1,176ユニット(47.1%)
○代替のユーザーが、1,329ユニット(52.9%)
 また、
○歩行指導の全課程が訓練施設で行われたのは、1,602ユニット(64.1%。99年は、73.3%)
○一部施設で、一部家庭で行われたのは、552ユニット(22.1%。99年は、13.0%)
○全課程が家庭で行われたのは、342ユニット(13.7%。99年は13.6%)
である。
 さらに、12月31日現在パピーウォーキング中の仔犬は7,908頭(99年は4,728頭、+67.3%)おり、実働数は20,505頭(36.2%)である。因みに1999年は15,059頭であった。
 我が国の占率を見ると、統計期間が異なるので厳密には比較しがたいが、日本盲人福祉施設協議会盲導犬委員会の2002年度年次報告によれば、2001年度の育成数は130頭、実働数は895頭であるから、育成数では5.2%、実働数では5.7%(対99年比較)の実力ということになる。
※2000年の年間育成数は集計上誤りがあると思われる。
 
3.5 これからの盲導犬事業
3.5.1 盲導犬事業固有の課題
3.5.1.1 繁殖
 日本財団の調査から、盲導犬訓練施設8施設はすべて繁殖システムを持っているが、しかし、多くの施設が現在保有する繁殖犬に質的な問題を感じている。また、新たな繁殖犬の入手についても大きな困難を感じている。
 8施設が保有する繁殖犬は83頭(♂31頭、♀52頭)である。犬種別にみると、ラブラドール・リトリーバー種が最も多く64頭(♂24頭、♀40頭)、次いでゴールデン・リトリーバー種18頭(♂7頭、♀11頭)で、この2種類で98.8%を占める。他の犬種としては、ジャーマン・シェパード種1頭(♀1頭)がいるだけである。これらの犬は、最少年齢1歳から、最高年齢11歳までに分布しており、雄犬の交配可能年齢は1.5歳〜10歳、雌犬は1.5歳〜8歳と考えられている。
 単純に計算すると、1頭の♀の繁殖犬が1回の出産で5〜6頭の子犬を出産するとすれば、すべての♀の繁殖犬が出産したとしても、年間に取得できる子犬は260〜300頭でしかない。日本財団の調査で得られた1995〜1997年度の平均成功率47.5%を乗ずれば、年間約120〜140頭が育成される盲導犬の上限ということになる。
 しかしながら、新たな血統を持つ犬を外国の盲導犬訓練施設から獲得することは年々困難になりつつあることを考えると、異種間交配や人工授精等の手だてを講ずる必要があろうし、そのために各訓練施設が持つ繁殖資源を活用する枠組みが必要となろう。
 その一つの枠組みとして、2002年4月、アジア・ガイドドッグス・ブリーディング・ネットワーク(Asia Guide Dogs Breeding Network、略称AGBN)が発足した。これは日本国内のみならず、アジアという範囲で盲導犬の繁殖問題を解決しようとするものである。まだ、緒についたばかりだが今後の発展に期待したい。
 
3.5.1.2 指導員養成
 どのような事業であれ、その発展を決定するのは「人材、物、資力」だとしばしば言われる。営利目的ではない「福祉」の場でもその原則は変わらないと言えよう。特に、事業に関わる人材の量やレベルはそのサービスの質のほとんどを決定すると言っても過言ではない。そのような面から盲導犬事業を見るとき、盲導犬事業は成功していると言えるであろうか。
 日本財団の調査では、研修生、訓練士、指導員の待遇や勤続年数についても調査をしたが、次のことが判る。第一に指導員の絶対数の少なさ、第二に直近5年間は横這い状態であること、第三に研修生から訓練士になる確率は概ね3分の1であること、訓練士になった後、指導員になる確率はさらに低いこと。この数字は、盲導犬事業においていかに人材養成が困難であるかということが明確に示されている。
 一方、研修生や訓練士等働く側から見れば、働き続けることを困難にしている状況があるということかも知れない。施設で整えて欲しい労働条件や研修内容を見てみると、研修生らがどのような希望を持っているか、裏を返せば、現状をどのように捉えているかが解る。彼らが指摘する改善内容は、比率の高い順から、勤務時間・残業時間の短縮、職員の増員、給与のアップ、休日の確保、業務内容の専門化・特化などとなっている。
 また、整えて欲しい研修内容としては、比率の高い順から、情報交換の活発化、パピーウォカー育成等の知識習得、他施設での研修の実施、労働と研修の分離、各指導員の指導方法の統一などとなっている。当然のことながら、これらは今までの盲導犬事業の在り方に対する、いわばアンチテーゼとなっている。
 一人の指導員がどれほどタフであり、技術に長けていたとしても、年間にこなすことができる歩行指導の件数は限られる。日盲社協年次報告1992〜1998の平均値では5件である。98年度末時点で歩行指導員数は28人であるから、単純に乗ずれば、現状での年間の盲導犬供給数は140頭前後と考えられる。当然のことながら、盲導犬の供給数を増やすためには、一人の歩行指導員がこなすことができる歩行指導数を増やすことと指導員の総数を増やす必要がある。これらの要請は≪盲導犬事業の分業化≫と≪開放的養成システムの整備≫によって可能になるであろう。
 
3.5.1.3 財政
 日本財団の調査の結果、8ヶ所の盲導犬訓練法人の97年度の収入総額は、11億7,193万円ということである。各訓練施設が事業の継続のためにどれほど努力を重ねているかの証と言えよう。盲導犬事業全体としては、これら8ヶ所以外に、いくつかの法人や任意団体が活動しており、さらに多くなると思われる。
 8法人で働く職員数は、正職員が103人(事務部門33人、施設部門70人)、嘱託職員16人(事務部門5人、施設部門11人)の合計119人である。因みに230頭の盲導犬が実働するニュージーランドでは、Royal New Zealand Foundation for the Blind(RNZFB)のGuide Dog Service部門が盲導犬の育成・訓練を行っているが、Guide Dog Service部門の1998年度(1997/04/01〜1998/03/31)の収入は3,487,972NZ$(約2億1,277万円)であった。なお、1998年度の育成数は45頭である。(“Annual Report 1998”、Royal Newzealand foundation for the Blind)。国情が違い、事業を取り巻く環境も違うので単純な比較は禁物であるが、参考として挙げておく。
 また、財源を見ると、寄付金収入が8億623万円で全体の68.8%を占め、次いで盲導犬育成受託収入が1億3,717万円(11.7%)、助成金・補助金等が1億606万円(9.0%)、その他が1億2,247万円(10.4%)である。調査の結果報告書では、施設別の分析はなされていないが、施設によっては、寄付金収入により多くを依存したり、盲導犬育成受託収入がより高率であるなど、違いが見られるであろう。いずれにせよ、平均で収入全体の3分の2以上を寄付金収入に依存する体質は、事業の中・長期的展望に立った計画、特に職員配置など人材に関わる計画を立てにくくしている。また、資金のフローよりはストックを重視するなど、運営者の心理的不安から生ずる制約も大きいと思われる。
 一方、支出を見ると、訓練士等の人件費や備品費など施設関係費が5億1,046万円で支出総額10億950万円の46.7%を占めている。また、管理費関係の人件費を併せた総人件費は4億4,890万円で全体の41.0%である。当面、この人件費部分を育成受託収入や補助金・助成金等の安定した財源にシフトすることが望まれる。即ち、育成委託金や公的補助金を現状よりも年間2億円余増額することが課題となろう。
 なお、1996年5月現在の都道府県・政令指定都市における盲導犬育成事業の実施状況は、93年3月に82%であったものが、96年5月には92%に上昇している。景気低迷によって自治体の税収が落ち込み、補助金の削減が続くなか、盲導犬事業の実施については国が重点施策の一つと位置付け、自治体に実施を促していることもあって、望ましい状況が続いている。
 ここまでは、資金的な環境について考察を行ってきたが、翻って、訓練施設自らがこれらの資金を果たして効率的に使っているのかどうか、謙虚に見直してみる必要はないだろうか。成功率の低さや指導員養成の困難さは、さまざまな要因があるが、結果として実を結ばなかった出費を増やすことになってしまう。他方、負担の増加を覚悟で、指導員等の希望に見られる業務の過重な負担を改善し、育成頭数に応じた職員の適正配置について十分な検討を加える必要があろう。福祉が「効率一辺倒」になれば、それはもはや福祉ではない。しかしながら、「対費用効果」を考えない福祉はこれからの新しい世紀を生き延びていくことができるだろうか。「貧者の一灯」という限りない善意に応えるためにも自らの足元を厳しく評価する必要があろう。
 
3.5.2 社会福祉基礎構造改革の流れ
 社会福祉基礎構造改革の議論を経て、社会福祉法の改正に盛り込まれた新たな福祉の枠組みは次の各項目である。盲導犬事業は対象外となっている事項もあるが、福祉制度の潮流として認識する必要があろう。
(1)利用者の立場に立った社会福祉制度の構築
(1)措置制度から、利用者の選択と契約による利用制度へ
(2)利用者保護のための制度の創設
ア)地域福祉権利擁護制度
イ)苦情処理の仕組みを導入
 苦情処理機関(事業者・都道府県社協)
ウ)契約内容の説明・書面交付の義務付け
(2)サービスの質の向上、
(1)サービスの自己評価を実施
(2)情報開示・第三者評価
(3)社会福祉事業の充実・活性化
(1)事業範囲の拡充・・・盲導犬事業を含む9事業の追加
(2)社会福祉法人の設立要件の緩和・・・通所授産所を経営する事業者が主眼
(3)社会福祉法人の運営弾力化
(4)地域福祉の推進
(1)市町村福祉計画等の推進
(2)知的障害者福祉等に関する事務を市町村へ委譲
(3)社会福祉協議会、共同募金、民生・児童委員の活性化
(5)その他
 社会福祉施設職員等退職手当法の改正、公益質屋法の廃止等
 
3.5.2.1 契約という概念
(1)盲導犬事業における契約
 現在行われている盲導犬事業に契約という概念がないわけではないが、多くの場合、訓練施設と行政などとの間で交わされる業務委託契約であって、訓練施設と盲導犬を使用する視覚障害者の間で交わされる契約ではない。盲導犬は善意や恩恵というオブラートにくるまれ、視覚障害者は盲導犬育成事業の第三者として存在するのが現状である。
 2003年から、公的な障害者福祉サービスの一部は、支援費支給方式による利用契約制度に移行する。障害者は福祉サービスの提供者と契約を結び利用する。福祉サービスの提供者と利用者の対等な関係を構築するという本来の目的が果たせるかどうか、さまざまな課題はあるにせよ、意義は大きい。盲導犬事業はその対象事業とはなっていないが、契約という概念は検討に値する課題であろう。
(2)演習
 以下の英文は、オーストラリアで実際に訓練施設と使用者の間で交わされる標準的な合意書である。オーストラリアと我が国の国情の違いは無視することはできないが、本文を翻訳することを通じて、契約の意味を考えてみよう。







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