発刊によせて
わが国の福祉情勢を大きく変革することが期待される『身体障害者補助犬法』が、昨年5月の法案成立、10月に施行されました。このような記憶されるべき出来事と時を一にして、「盲導犬訓練士養成テキスト」が作成されることは誠に喜ばしいことと思います。
日本の盲導犬育成事業がはじまって47年、爾来、数々の先達の努力の甲斐あって、視覚障害者の自立更生のためのこの事業が今日では全国的に認知され、社会全体の問題として認識されつつある状況となっています。
しかしながら現状において、まだまだ数多くの解決されるべき問題があります。根本的なこととして、盲導犬育成事業の財政的な問題があげられますが、これは私たち関係者一同が協力し合い、地道に努力を積み重ねることで社会の理解と協力を促していく他に、解決の道はないといえるでしょう。次いで大きな問題として、盲導犬自体の質の確保、そして盲導犬の質的向上を達成するための訓練技術のレベルアップ、さらにいえば訓練士をはじめとする事業従事者の待遇改善などが上げられます。これら諸問題は相互に深く関連しあっており、容易には解決しがたいものですが、ひとつ盲導犬訓練技術については、私たちの努力によって解決し得るものといえます。
先般、日本盲人社会福祉協議会の盲導犬委員会において、盲導犬訓練士の国内規準というべき「訓練士養成規準」が取り決められ、訓練技術を測る客観的な指標が示されました。現在、盲導犬の訓練は各施設において各々工夫され、熟練した訓練士が研修生を指導して育てていくという形をとっています。しかし、今後盲導犬の需要に応えていくためには、訓練士養成システムの確立が重要な課題となっています。
この課題を解決する第一歩の努力としてこのテキストが作成されました。
今回、盲導犬育成における共通の認識と目的を明確にし、訓練士養成の段階を組織的に編み上げたテキストを作成し、訓練士の質的向上および高水準の技術を全国的に平準化することになったわけです。盲導犬育成に関する理念と訓練技術の粋をひとつのテキストとして集成し、各地の盲導犬訓練施設で使用することにより、全国的に質の高い盲導犬を育成して視覚障害者に送り出すことが実現できるものと考えます。
皆さんには、このテキストの本旨をしっかり把握し理解して、活用していただきたいと思います。
最後になりましたが、このテキスト作成にあたりご尽力いただいた委員のみなさま、執筆者のみなさまに感謝申し上げます。この場を借りてお礼申し上げます。
全国盲導犬施設連合会 会長 神作 博
このたびは、「盲導犬訓練士養成テキスト」の発刊、おめでとうございます。
1957年、国産第1号の盲導犬が誕生し、すでに50年近い歳月が流れました。その間、盲導犬使用者は、900名を超えるまでになりました。これも、私たち視覚障害者のためにご尽力いただいた盲導犬育成施設をはじめとする多くの方々のお陰です。この場をお借りして、全国の盲導犬使用者を代表し、心より感謝申し上げます。
現在、私の家には、妻と2人の子ども、それに2頭の盲導犬が暮らしています。弱視だった私は、白杖での歩行中、電柱の金属の突起に見えていた眼を接触してしまい失明。妻も、中学生の時、交通事故により失明しました。そんな2人が盲導犬使用者となり、「犬の結んでくれた縁」により今の家庭があるわけです。最も夫婦喧嘩は食べてくれないようですが。
盲導犬は、視覚障害者の歩行を支えることにより、視覚障害者の生活の質を向上させてくれます。そして、いつも足元に寄り添い、私とともに歩むことを最高の幸せかのように、尻尾をびゅんびゅん振って喜んでくれます。視覚障害者にとって、盲導犬は、主人である自分をそのまま受け入れ、人生をともに歩んでくれるパートナーとして、かけがえのない存在なのです。
私に初めて盲導犬による歩行指導をしてくださった訓練士が、こんなことをおっしゃっていました。「僕は、盲導犬の訓練の仕方は解るけど、盲導犬の使い方は解らないんだよ。もっと勉強しなければ」と。訓練士の仕事は、優秀な盲導犬を作ることだけではないのです。
常に視覚障害者の立場に立って、献身的に努力されている訓練士の方々に対し、感謝の気持ちでいっぱいです。
これから盲導犬の訓練士を目指す若い皆さんが、このテキストを通して多くのことを学ばれ、りっぱな訓練士になられることを期待します。そして、盲導犬とともに笑顔で暮らす視覚障害者が一人でも増えることを切望してやみません。
全日本盲導犬使用者の会 会長 清水 和行
この盲導犬訓練士養成テキスト(以下テキストと略す)は、<理念編><知識編><実務編>の三部構成になっています。内容はこれから盲導犬訓練士になることをめざす方にとってわかりやすく、学習し易いように構成するように心がけました。
したがってそれぞれの専門家から見れば、各項目の内容は、専門書などと比較して不足している部分が多いこともご理解いただきたいと思います。
また、テキストは訓練士向けに書かれているので、ボランティアの存在について記述がほとんどありません。盲導犬育成事業の特徴の一つとして、この事業が多くのボランティアの方の活動によって支えられています。その代表的なものとしてPWと呼ばれる子犬飼育ボランティアの存在があります。子犬が成犬になるまでには様々な経験を積ませる必要があります。育成施設でいくら頑張ってみたところで、一般家庭で経験させられるほどの豊かな経験をさせることはできません。盲導犬育成事業はボランティアの存在があって初めて成立すると言っても過言ではないことをまず念頭に入れる必要があります。
もう一つの特徴としてこの事業が多くの方の募金や寄付で成り立っているということも合わせて考えておく必要があります。個々の協会により運営方針や経営方針が異なり、財務状況にも違いがあると思われますが、国や自治体からの補助及び委託収入だけでは運営が成立しないことも理解しておかなければなりません。
さまざまな人たちの思いによって、訓練士は盲導犬になるための「候補犬」を担当することになります。協会に託された「視覚障害者にとって有用な盲導犬を育成する」ということの実践は、個々の訓練士のプロ意識の高さにかかっています。意識を向上させるためには、このテキストの内容を習得するだけで十分であるとは言えません。テキストはあくまでも基本的なことを表現したものであることを理解していただきたいと思います。
日々、知識を得、情報を収集し、工夫を重ね、訓練に励まれることを期待します。
編者
|