F. 第5回海上人命安全条約締約国会合(平成14年12月9日〜13日)におけるPSC関係部分の議事概要
採択されたSOLAS条約附属書等の改正は、同条約の締約政府の3分の1以上が2004年1月1日までに異議通告を行わない限り、2004年7月1日をもって、同条約を締結している我が国に対しても効力を発生する。
1. SOLAS条約附属書の改正案の審議(議題6関連)
(1)第5章第19規則「航海装置及び航海機器の搭載要件」の一部改正
船舶自動識別装置(AIS)の導入時期繰り上げの審議がされ、提案されていた4つの選択肢のうち、欧州各国は、選択肢1(2004/7/1以降の最初の設備検査時期又は2004/12/31までのいずれか早い時期までに導入)を支持した。米国は、選択肢2(2004/7/1までに導入)はもともと同国の提案であるが、早期導入の妥協案としては選択肢1が最適であり、また、G8の決定にも沿うとして選択肢1を支持した。我が国も、欧州及び米と同様に選択肢1を支持する旨表明した。4つの選択肢についてindicative voteを行ったところ、選択肢1を我が国を含む48カ国が、選択肢3を2カ国が支持し、選択肢2及び選択肢4を支持する国はなかった。結果、選択肢1が採択されることとなった。
なお、第2.4.7項に規定されたAIS常時作動要件に対し、安全確保の際の船長判断によるAISのon/offを可能とする規定(免除要件)を追加する等のICS等共同提案(SOLAS/CONF. 5/9)については、過去の審議において、当該免除要件は総会決議A.917(AIS運用ガイドライン)において担保済みであり、必要ないとの判断がなされていたところ、当該提案を特段支持する国はなく、本会議に提出された原案(SOLAS/CONF. 5/3/Rev.2)どおりとすることが合意された。
(2)第11−1章第3規則「国際海事機関船舶識別番号の標示」の一部改正
(イ)MSC 76での実質審議
対象船舶を旅客船以外の10,000GT未満の船舶とするICS等共同提案(MSC76/4/24)を特段支持する国はなく、MSC76提出の原案(MSC76/4/1)を維持することが合意された。
(ロ)締約政府会議での審議
MSC76提案(MSC76/4/24)と同主旨のICS等共同提案(SOLAS/CONF.5/8)を、パナマが支持したが、同国以外に特段支持する国はなく、所要の編集上の修正を検討した上で、本会議に提出された原案(SOLAS/CONF. 5/3/Rev. 2)を基本的に維持することが合意された。
(3)第11−1章第5規則「履歴記録」
(イ)MSC76での実質審議
ノルウェー提案(MSC76/4/13)の履歴記録(CSR)の更新要件の明確化のための第4.3項の修正が、当該提案を一部修正した上で、採用することが合意された(その他の同国提案は、特段支持する国がなく不採用。)。
なお、ICS等共同提案(SOLAS/CONF. 5/7)を特段支持する国はなく、当該提案を採用しないことが合意された。
(ロ)締約政府会議での審議
MSC76での実質審議結果を踏まえ、ICSから、MSC76提案(MSC76/4/24)と同主旨のICS等共同提案(SOLAS/CONF. 5/7)を取り下げることが表明された。
上記以外、本規則案に対して特段意見する国はなく、所要の編集上の修正を検討した上で、本会議に提出された原案(SOLAS/CONF. 5/3/Rev. 2)を基本的に維持することが合意された。
(4)第11−2章第1規則「定義」
(イ)MSC76での実質審議
次を除く、各国提案については特段の支持がなく、所要の編集上の修正を検討した上で、MSC76提出の原案(MSC76/4/1)を基本的に維持することが合意された。
(a) |
港湾の定義(MSC76/4/1旧第9項関連)及び港湾施設の定義(第9項及びMSC76提出の原案(MSC76/4/1)第9項関連) プレナリーにおいて、米国等は、「港湾」の定義を残すよう主張したが、我が国及びイタリアは、定義は不要とする欧州各国共同提案(MSC76/4/7)を支持し、「港湾施設」の定義の範囲を広げること(泊地等を含めること)を条件に、「港湾」の定義を削除することになった。但し、泊地、航路等、「港湾施設」の具体的範囲についてワーキンググループ(WG)で検討することになった。 WGにおいて、サイプラス等は、「港湾」の定義を残すよう改めて主張したが、欧州各国共同提案どおり、「港湾」の定義は削除された。また、「港湾施設」の具体的範囲については、ドラフティンググループ(DG)において欧州各国共同提案をベースに検討した結果、泊地、航路を含めることになった。 |
(b) |
指定当局(Designated Authority)の定義(主管庁(Administration)との関係)(第11関連) 我が国提案(SOLAS/CONF. 5/11/Rev. 1)が採用され、MSC76提出の原案(MSC76/4/1)どおり、主管庁(Administration)は船舶に係る事項を、指定当局(Designated Authority)は港湾に係る事項を担うことが、定義に規定された。 定義中、ブラケットを付されていた[by or](又は締約政府により指定された外部機関)については、圧倒的多数が、その削除を主張し、審議の結果、[by or]が削除され、指定当局は、締約政府内(within)の機関のみとされた。 |
(c) |
認定保安団体(Rso)の定義・役割(第16項関連) 我が国提案(SOLAS/CONF. 5/11/Rev. 1)の「and」を「and/or」に修正する等の提案については、船舶に係る事項のみ、港湾施設に係る事項のみ、又はその両者の事項を担う3形態の認定保安団体(Rso)の存在があることは受け入れられたが、デンマーク、サイプラス、オランダ、英国等より、船舶のみ又は港湾施設に係る事項のみを担うRsoであっても、船舶のみ又港湾施設のみの知識ということではなく、指定当局(Designated Authority)の定義に規定するとおり、船舶及びship/port interfaceの観点から、すべてではないがそれぞれのRsoが関係する船舶及び港湾施設の双方についてのある程度の知識が必要との意見が表明された。審議の結果、Rsoの知識に係る「and」を維持することとし、WG議長提案(MSC76/4/1/Add. 1)をベースに必要な修正がなされた。なお、我が国提案主旨(Rsoに付与する権限により、その必要とされる知識が斟酌されること。)は、受け入れられ、ISPSコード第B部第4.3項に必要な修正を行うことが合意された。 あわせて、WG議長提案(MSC76/4/1/Add. 1)に従い、締約政府(又は指定当局)は、Rsoに港湾施設に係る事項を委託することができることとし、ISPSコード第A部に必要な修正を行うことが合意された。 |
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(ロ)締約政府会議での審議
定義の明確化等の理由から、本会議に提出された原案(SOLAS/CONF. 5/3/Rev.2)第11項bis(security incident)で使用されるブラケット付きの[relevant]、第2.1項(security purpose)、第2.3項(relevant ship/port facility)及び第2.4項(relevant ship to ship activity)の削除等を提案する米国等共同提案(SOLAS/CONF. 5/21)について、特段の反対する国はなく、審議の結果、当該提案を採用することが合意された。
上記以外、本規則案に対して特段意見する国はなく、所要の編集上の修正を検討した上で、本会議に提出された原案(SOLAS/CONF. 5/3/Rev. 2)を基本的に維持することが合意された。
(5)第11−2章第2規則「適用」
(イ)MSC76での実質審議
次を除き各国提案については特段支持する国はなく、所要の編集上の修正を検討した上で、MSC 76提出の原案(MSC 76/4/1)を基本的に維持することが合意された。
(a) |
船舶への適用(第1項関連) 国際船舶保安証書の発給を改正条約発効の2004/7/1以降の最初の検査の時期とする我が国提案(SOLAS/CONF. 5/11)に対し、米国が強い懸念を表明し、また、各国からの特段の支持もなかった(貴電国専第1853号による指示に従い、本提案部分を削除した改訂日本提案(SOLAS/CONF. 5/11Rev. 1)を提出した。)。 |
(b) |
第1項非適用港湾施設への適用(第2.1項関連) デンマーク(MSC76/4/7関係)より、外航船舶を時々しか取り扱わない港湾施設についても港湾施設保安評価を実施すべきと意見がなされた。これに対して我が国は、自国の港湾数は膨大であること等の理由から、当該港湾施設全てに対して港湾施設保安評価を実施することは非現実的であり、ソフトな評価を最初に実施すべきとの意見をなした。中国、カナダが我が国提案を支持したものの、米国、英国、サイプラス等の多数の国がデンマークを支持し、外航船舶を時々しか取り扱わない港湾施設についても港湾施設保安評価を実施することになった。 |
(c) |
他の国際条約との関係(第4項関連) 第11−2章が国際法における各国の権利義務に不利益を与えないとの「saving clause」が本規則に追加された。 なお、本項は、本来第9規則「監督及び適合措置」に規定されていたが、仏国籍Limberg号テロ事件を踏まえた仏国等共同提案(SOLAS/CONF. 5/10)で、第9規則bis「船舶への脅威」に同様の規定が提案されていたため旧第9規則第3.4項の規定とまとめて本項に追加することとなった。 |
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(ロ)締約政府会議での審議
第4項に関し、カナダ提案(SOLAS/CONF. 5/16)を考慮し、必要な修正を加えることが合意された。
また、軍用目的(military purpose)の港湾施設について、デンマークより、第3項により軍艦(war ship)が第11−2章が適用除外されていることから、所要の検討が必要との意見がなされ、当該意見に対する参加各国の法律専門家で構成される法律グループでの見解(SOLAS/CONF. 5/CW/WP. 1)を踏まえ、第11−2章及びISPSコード第A部(強制要件部)は、当該軍用目的の港湾施設への適用を意図するものではない旨を、ISPSコード第B部(勧告部)に規定することが合意された。
上記以外、本規則案に対して特段意見する国はなく、所要の編集上の修正を加えた上で、本会議に提出された原案(SOLAS/CONF. 5/3/Rev. 2)を基本的に維持することが合意された。
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