E. 第76回海上安全委員会(平成14年12月2日〜13日)におけるPSC関係部分の議事概要
1. 他のIMO機関の決定(議題2関連)
プレナリーにおいて、事務局より、第88回理事会(第1回臨時海上安全委員会、第75回海上安全委員会、第84回法律委員会、第47回海洋環境保護委員会及び第29回簡易化委員会を含む)、第89回理事会(第85回法律委員会、第48回海洋環境保護委員会及び第51回技術協力委員会を含む)、第48回海洋環境保護委員会、第52回技術協力委員会並びに第85回法律委員会の結果の報告がされ、別段のコメントも無くノートされた。
重要と思料される報告は、以下の通り。
第85回法律委員会:難破船の除去に関する条約案の進捗と国際法規の枠組み内EEZの沿岸国干渉を規定するIMO強制文書の準備の事務局への要望(UNCLOSを含む)。
戦略的検討とIMOポリシー:C 89/12/1(バハマ、ギリシャ提案)が検討され、IMOは新船建造に係わる基準の決定に重要な役割を担うべきであり、この問題はIMO戦略的計画に組み込むべきであるという提案に対し、MSC77で徹底的な議論をすること及び当該委員会にその検討内容をC90に報告にする要望に理事会は同意した。更に理事会はバハマ及びギリシャ並びにIACSに本件の検討に対する補助的文書の提出を要望した。
IMOモデル監査スキーム:理事会は、C88での決定事項を繰り返し、それ以降の進捗とC89会期中の決定事項を反映する調整が必要である5項目(MSC76/2/Add. 1, 10. 1〜. 5)を要望した。また、技術協力委員会は、MSC/MEPC/TCC共同WGの提案を自主的IMOモデル監査スキームに考慮しMSC77の会期中に参集すること。
2. 強制要件の改正に係る検討及び採択(議題3関連)
(1)SOLAS条約等の改正の採択
今次会合では、SOLAS条約第II-1章(第31規則の追加)、第II−2章(第3及び19規則の変更)第III章(第26規則の追加)、第XII章(第12規則及び第13規則の追加)及びINFコードの変更に関し採択案件が審議され、DG(12月4日〜11日)でエディトリアルな修正が加えられた後、採択された。
(イ)SOLAS条約第II-1章(第31規則の追加)
推進システムの故障時、当直航海士の介入による事故回避の自動システムに関し、SOLAS条約第II−1章に第31規則として追加取り入れることが合意された。
(ロ)SOLAS条約第II−2章(第3及び19規則の変更)
IMDGコードの強制化に伴う、本条項の定義の変更が原案とおり合意された。
(ハ)SOLAS条約第III章(第26規則の追加)
ロールオン・ロールオフ旅客船の装備するレーダートランスポンダ及び当該レーダートランスポンダを積み込むライフラフトに関して、原案どおり合意された。
尚、適用日は、2004年7月1日
(ニ)SOLAS条約第XII章(第12規則及び第13規則の追加)
ばら積み貨物船の浸水事故に対応するため、各船倉、船首部のバラストタンク及び乾区域の浸水警報装置の設置、また、船首部区域排水システムの設置に関する本条項の追加改正が採択された。
(ホ)INFコードの変更
IMDGコード強制化に伴う定義及び語句の改定が原案通り採択された。
(2)検査のための交通設備に関するSOLAS条約II-1章第12−2規則の改正案
ばら積み貨物船の安全対策がプレナリーで審議された後、関連するばら積み貨物船に対する検査のための交通設備(アクセス設備)及び詳細基準を定めた強制決議(Technical ProvisionのTable 2)が、また、翌日の12月4日には、タンカーに対するアクセス設備(Technical ProvisionのTable 1)が審議された。以下に審議内容を示す。
(イ)ばら積み貨物船(Technical Provision Table 2)
プレナリーでは、ばら積み貨物船のクロスデッキ裏に設ける固定式交通設備が免除となるクロスデッキまでの高さ16mを17mに拡大する我が国提案、25%の船側肋骨の点検を可能とする固定式交通設備の設置時期を就航後10年に延期する我が国提案(新造時は3条)及び、1条の固定式交通設備を設置することにより2本の船側肋骨の検査が可能となると言うIACSの解釈が審議された。
クロスデッキまでの高さを17mとする我が国提案は、IACSも同じ提案をしており、意義なく承認された。一方、船側肋骨に対する点検用固定式交通設備の設置時期延期に関しては、腐食は就航後間も無くから発生するため、そのメンテナスや点検のために建造時に、要求される交通設備を設置すべきであるとのバハマの主張に、サイプラス、英国が賛同し、我が国提案は受け入れられなかった。
しかし、固定式交通設備の設置本数の削減が可能となるIACS提案が採用されたことから、我が国提案の3条に加えて1条の固定式交通設備を追加することで規則への対応可能となる。
(ロ)タンカー(Technical Provision Table 1)
プレナリーでは、タンカーの高さ6m以上のビルジホッパータンクに設ける固定式交通設備の内、高さ方向に設ける交通設備の削除を求める我が国提案、船側のバラストタンクに設けるサイドストリンガーの間隔を6m以内とするINTERTANKOの提案が審議された。
ビルジホッパー部に関する我が国提案は、バハマ、IACS、パナマ、シンガポール、などの反対を受けて否決された。
点検にも使用できるストリンガー間隔を最大6m以内とするINTERTANKO提案は、賛成多数で採択された。
これら正式文書に対する審議が終了した後、バハマから、MSC75で宿題となっていた課題が全く改善されておらず、固定式交通設備が無くラフトによる点検が必要となるタンクを認めているTechnical Provision Table 1には反対である旨の意見が口頭でなされた。バハマは、固定式交通設備を必要としないことを明記しているTechnical Provision Table 1の項1.3から1.6、及び項2.5の削除を求めた。
議長はこのバハマの動議を取り上げ、各国の意見を求めた。これに対し、
○リベリア
新船に対しては安全を最優先して対策をとるべきであると主張し、バハマを支持した。
○英国
プレステージの例を挙げ、点検の重要性を主張し、バハマ案を支持した。
○IACS
ラフトによる点検を問題なく実施しており、ラフトによる点検を否定することには反対である。
○ノルウェー
トランス深さ1.5m未満のデッキトランスにも横方向の固定式交通設備を設けるのは、寸法的に困難である。設けるとすれば、デッキトランスよりも低い位置に設けられることになり、スロッシングによる固定式交通設備の損傷の問題が懸念されることを表明した。
○中国
DEで既に決まっている事項を、正式文書も無く反対するのは問題であるとの意見を表明した。
○アメリカ
非常に長い固定式点検設備の保守点検を考えるとIACSを支持するとの意見を表明した。また、正式文書も提出していないにも係わらず、大きな変更を伴うバハマ提案をこの場で審議するのは適切ではなく、サブコミッティーで審議すべき課題だと主張した。
これらの反対意見があるにも係わらず、議長はバハマの動議を採用し、小グループに、Technical Provision Table 1の項1.3から1.6、及び項2.5の削除と、それに関連するSOLAS条約II−1章12−2規則項2.2の見直しを指示した。
(ハ)小グループでの審議(非公式)
上記議長裁定に基づき、小グループが開催された。DE議長のChrysostomou氏(サイプラス)を議長とし、日本、中国、アメリカ、イギリス、ノルウェー、マーシャルアイランド、IACS、INTERTANKOなどが参加した。
会議の冒頭から、プレナリーでの議長裁定に対する反論や、項1.3から1.6を削除するとTechnical Provision Table 1に矛盾が生じる、などの意見が続出し、議長裁定に沿った審議を進めようとした小グループ議長と対立した。その後、プレナリー議長と小グループ議長とが協議し、項1.3から1.6を削除する方向性が示され、会議が再開された。この会議では、項1.3から1.6に記載されていた、固定式交通設備を設けなくてもよいとの文言だけを削除し、ラフトを点検に利用できる文章を残す修正案がINTERTANKOから提案された。これに対し、イギリスが反対し、その後、さらに小グループの議長が新たな修正案を各国に配布した。その改正案では、ラフトの使用を認める表現をSOLAS条約II−1章12−2規則に追加する一方、Technical Provision Table 1では要求されなかったトランス深さ1.5m未満のデッキトランスについてもトランス深さ1.5m以上と同じ要求が記載された。また、原案では、固定式交通設備が全く要求されていなかったカーゴタンク内の垂直部材の点検用に、高さ方向の固定式交通設備を全てのトランスウェブに設けることが記載された。
(ニ)プレナリーでの審議(小グループ開催後)
(a) |
小グループで作成された代替案(MSC 76/J/17)について小グループ議長から報告があり、日本、中国は反対したものの、大多数で代替案に対し同意された。 |
(b) |
DGにより最終化(MSC 76/WP.18)された後、プレナリーで最終審議(12月12日)された。日本は、テクニカル及びプラクティカルな観点から本案は適当でないことを理由に、中国は、新設計が必要になる事等を理由に反対した。それに対し、バハマは、本案は新造船のみに適用されるのであるから、新しいデザインで対応すればいいと発言し、スペイン、ブラジル等が賛同した。その後、日本が投票を提案したところ、バハマは、ナホトカやエリカの事故例を出しながら日本の発言は、ネガティブな意見でありリジェクトすべきだ、本案のテキスト通りに採択すべきと発言し、豪はタンカーの安全にブレーキを掛けると発言した。これに、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、マーシャル、マルタ、アルゼンチン、イタリア、アイルランド、アイスランド及びフランスが賛同した。議場での意見が尽きないので、議長は投票を行い、大多数(64対7)でMSC 76/WP.18のテキスト通り採択された。 |
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3. FSI10からの報告(議題9関連)
(1)第10回FSI小委員会の報告
MSC75で緊急要件として審議されなかった事項についてFSI10/17に基づき報告され審議がおこなわれ、承認及びノートされた。
(2)IMOモデル監査スキーム
事務局より、C88、 C89の結果が報告された後、各国の提案文書の説明があった。文書MSC76/9/6に記載されるモデル監査スキーム、合同作業グループの設置及び当該スキーム中のSOLAS等に関連する事項については、我が国を始め、英、米、仏、希、西、サイプラス、独から当該文書の内容を支持する発言があった。また、我が方からは、8月開催のヨハネスブルクサミットの行動計画においても、IMOは旗国による条約実施確保のためのより強力なメカニズムを検討することが求められているところ、モデル監査スキームはそのために最も効果的な方策であると考える旨述べた。またスペインはプレステージ号の事故を考えると本件の強制化も考えるべきだとも発言した。
委員会は、MEPC48の決定を踏まえ、文書76/9/6の内容を基本としつつボランタリーべースのモデル監査スキームの検討を進めて行くべきことで合意した。来年5月に開催予定のMSC77でMSC/MEPC/TCC合同のワーキンググループ設置が正式に決定され、具体的な制度設計への議論が開始されるところ、これに向けての適切な対応からよろしくお願い申し上げる。
(3)A.847(20)の改正
FSI10で旗国の実施強化を目的とするA.847(20)(IMO関係条約等の実施について旗国を援助するためのガイドライン)の改正提案(FSI10/12/1:カナダ、デンマーク、フィンランド、蘭、ニュージーランドおよびスペイン共同提出)を検討した結果、本委員会及びMEPCに対して具体的な改正提案を行うよう要請することになり提出され、審議された。尚、MEPCでは原則的に合意された。
(4)EQUASIS(国際的船舶データベース)への情報提供
EQUASISの監督委員会のメンバー(我が国を含む)からの提案で、IMOに対して、旗国からIMOに送付されているPSCで航行停止を受けた船舶に関するコメント(例:是正措置情報等)を、EQUASISに提供することを要請に対し、審議され別段の反対も無く同意された。尚、MEPCは、審議の結果、当該情報をEQUASIS上で公開すべきであることに合意している。
(5)ISMコードにおける主要な不適合に関する手順
ISMコードにおける主要な不適合に関する手順について、MSC75でMSC/MEPCサーキュラー案が作成されが、MEPC/48/10/8でIACSより同サーキュラー案はISMコードと矛盾し、DOCに影響を与える主要な不適合は通常船舶のSMCにも影響するため、DOCが主要な不適合の結果として失効されるのであれば結果的にSMCも失効されるべきとの指摘があり、事務局は、同指摘を踏まえ、MSC/MEPCサーキュラー案を修正提案した。
本件に関し、プレナリーで英国は、DOCにMNCが付いた時、SMCは直接影響を受けないようにすべきと発言し、これを豪、ギリシャ、ガボンが支持をした。これに対しIACSは、猶予を設けるものも、SMCを失効せざるを得ないと発言した。これに、フィリピン、スロベニア、イタリアなどが賛意を示し、サイプロスは、DOCにMNCが付いて失効した場合SMCは即失効であると加えた。委員会は、本件に関するMSC/MEPCサーキュラー案のパラグラフ5の最終化(MSC76/J/15)をし、プレナリー(12月11日)で承認を得た。
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