D. 第48回海洋環境保護委員会(平成14年10月7日〜11日)におけるPSC関係部分の議事概要
1. バラスト水中の有害水生生物(議題2関連)
(1)プレナリーでの審議(初日〜第2日目)
(イ)バラスト水中間作業部会の結果の報告
バラスト水中間作業部会の議長である英国ハンター氏より、本件会合に先立ち9月30日〜10月4日まで行われたバラスト水中間作業部会の結果(MEPC48/WP. 2及びMEPC48/WP. 2/add. 1)の報告があり、当該中間作業部会においてMEPC48に提出されたすべての文書について検討を行い、米国提案(MEPC48/2/6)、我が国提案(MEPC48/2/16)などが受け入れられ、短期、長期の基準に分けて整理した新しいドラフト案を作成したことが報告された。また、中間作業部会を代表して、処理・交換基準案、受け入れ可能なバラスト水の概念、Tier2の問題(特定の海域における措置)、サンプリング、バラスト水の交換水域についてプレナリーでの審議を求めた。
(ロ)審議の進め方について
ブラジルから、条約の目的→受け入れ可能なバラスト水の概念の構築→基準作成の順に審議を行っていくべきであるのに中間WGでの審議の進め方が基準作成から行われていることに対して困惑している旨発言があったが、ニュージーランド、オランダ、オーストラリア、英国より中間WGでの審議の進め方は妥当であり、今次会合で設置されるWGでも中間会合WGの結果を基に検討を進めていくべき旨発言があった。
(ハ)処理・交換基準(附属書E節)
中間WGから報告された短期基準のパーセント基準(Option 1)とサイズ基準+排出濃度基準(Option 2)、および規制の最終的な目標となる長期基準のサイズ基準+排出濃度基準(Option 3)の概念をベースに議論が開始された。我が国より、中間作業部会で作成された処理基準には数値が決まっていないことを指摘し、また、長期のスタンダードは見直しを前提としているため、基準が明確に定められないのであれば条約から切り離すべきである旨指摘した。長期基準の削除には、サイプラス、ギリシア、バヌアツが賛成したものの、ドイツ、ノルウェー、アメリカは長期スタンダードを設けることは産業界へのガイダンスにもなるとして反対があった。また、アメリカは今次会合には数値を提出しないが、MEPC 49には数値を提案し、さらに条約の内容を前進したい旨述べた。
結局、議長よりWGに対し、長期のスタンダードはそのまま残すものの、短期のスタンダードのOption 2の未知数(W:生物サイズ及びX:排出生物濃度)に検討のための数値をおくように指示した。また、バハマ、ICS、シンガポール、フィリピン、ギリシアより、装置の試験方法を開発する必要があるべき旨、アメリカよりバラスト水の排出の基準を策定する必要があるべき旨指摘があり、WGで検討することになった。さらに、議長は、WGに対し船舶への適用日及び祖父条項の検討を指示した。
なお、我が国はバラスト水交換が現実的な手段であり、基準の中心として残すべき旨主張し、ノルウェー、オーストラリア、シンガポールの支持があった。
(ニ)受け入れ可能なバラスト水の概念の導入
中間作業部会で、ブラジルから提案された受け入れ可能なバラスト水の概念導入のための改正が提案されている第1条〜第5条までの取扱いについて審議された。
(a) |
第1条「目的」 中間WG会合のドラフトでは、ブラジルの主張の基に作成されたオプションと前回MEPC 47でのドラフトを基に作成されたオプションとが並列になっているためその取扱いについて審議された。我が国を含む各国から内容を精査し、第1条の内容を条約前文に移すことが提案され、WGで検討されることになった。 |
(b) |
第2条「定義」 バハマより国際航海の定義について同国の解釈と定義が異なっているとの意見があり、定義が必要かどうかも含めWGでテキストを見直すことになった。 |
(c) |
第3条「一般義務」 一般義務の規定を、条約前文に中身を抽出して移動できる部分がないかWGで精査することになった。 |
(d) |
第5条bis「受け入れ可能なバラスト水の概念の導入」 ブラジルより、この概念は新条約の基本となるべき概念であり、将来の改正も行うべき指針となり、かつサンプリングもこの概念により可能と主張しアルゼンチン、メキシコ、エクアドル、コロンビアの支持があった。しかし、中南米諸国以外の欧州、アジアの多数の国が不要な規定として削除を主張し、結局、WGにおいて、前文、定義、他の規定の中に移せないか検討することになった。 |
(e) |
第5条 その他ブラジルから提案のあったモニタリングの実施についても、WGで検討することになった。 |
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(ホ)バラスト水特別海域
中間作業部会では、アメリカが海洋法条約で沿岸国が認められた権利であるとしてより簡易な特別海域設定を強く主張し、ニュージーランド、オーストラリア、オランダ、ドイツが賛成した一方、機関に対して明確なクライテリアに基づく通報が必要と主張する我が国、サイプラスが対立したため、IMOの裏書を必要とするオリジナル案、アメリカが提案する6ヶ月前の通知でよいとする案(MEPC 48/2/8)、アメリカ案をベースとしつつクライテリアを設けるとする中間作業部会でサイプラスが中心となり作成された折衷案の3つの案が並列となっている点について審議された。本会合では、ブラジル、イラン、中国から承認が必要との意見が出る一方、アメリカは海洋法条約上の沿岸国の権利としてより簡易な手続きでよい旨強く主張した。結局、オリジナル案、米国案、中間作業部会作成案を並列のままとして検討を続けることになり、WGにて折衷案のクライテリアを更に検討することになった。
なお、ニュージーランドから提案のあった「公衆衛生、財産、エコシステムから防止するため」との語の挿入については、中間会合WGで今回は時間的制約から次回以降の会合での検討課題にすることになった。
(へ)船舶の検査(第14条及び第14条bis、並びに第8条〜12条)
我が国から、PSCの手段としてのサンプリングの削除を主張したのに対し、サイプラス、ギリシア、シンガポールが賛成したが、ブラジル、アメリカ、ドイツ、オランダが反対した。中間WG会合で作成された旧第14条を第14条と第14条bisに分けるとのテキスト中、スクウェアブラケットのままサンプリングを残すことになった。
また、中間作業部会では、我が国提案文書(MEPC 48/2/16)に基づき、検査と証書の規定を附属書化するとの案がサイプラス、ブラジルの反対があったものの米国等多数の国の支持を受け、ドラフト化されていたが、本会合では特に反対もなく了承された。
(ト)バラスト水交換海域
我が国より提案文書(MEPC 48/2/21)に沿って交換水域の決定が必要であり、やむを得ない場合、EEZ、領海で交換可能とするべき旨主張したところ、バハマ、アメリカ、ニュージーランドが反対したものの、ウクライナ、ノルウェー、イタリア、ギリシア、スペイン、オーストラリアがEEZでの交換を認めることを支持した。ただし、領海内の交換についてはノルウェー、オーストラリアは反対した。また、ブラジル、シンガポール、サイプラスは基本的に200海里内の交換は認められないとしながらもWGで話合う必要性について認めた。結局、EEZ内で交換を認めるためのルール作りについてWGで審議されることになった。
(チ)その他
また、IACSより中間会合では同機関が提出した文書(MEPC 48/2/7)が審議されていないとして本件会合中の審議を求めたため、WGでまず審議されることになった。WGでの検討結果は木曜日までにプレナリーに報告され、金曜日の午前中にその結果の審議を行うことになった。なお、WGの議長には英国のハンター氏が選出された。
(2)WGでの審議(2日目〜4日目)
(イ)審議の進め方について
WGでは、WG内に、処理基準の策定、ドラフティング、特定海域の問題、バラスト水海域交換のインフォーマルグループを設けて案を策定し、それをWG全体で審議をするという形で議論を進めていくことが各国で合意された。
(ロ)処理基準の策定
第E−2規則中、決まっていなかった短期基準Option 2のW:生物サイズの数値についてドイツから100μmを仮置きすることが提案され、アメリカは現時点では好ましくないとして反対したが、議論のベースとして残すことを主張する国が多数を占めた。なお、ギリシア、リベリアから100μmでは、短期的な基準としては巨大船舶の場合、その単位時間当たりのちょう水流量が大きいため難しい点が問題である旨指摘があった。Option 2のX:排出生物濃度の数値に関して、我が国沿岸の状況を基に、植物プランクトンの数値として200細胞/ml、動物プランクトンの数値として25個体/1を仮置きすることになり、各国はこれら数値を基本として次回会合(MEPC49)までに具体的な基準値を検討し、Option1の内容と共に提案することとなった。また、パクテリアとウィルスに関しては、実行可能な処理基準である短期基準に取り入れることは、困難であるという意見が体勢を占めたが、ブラジルからは今会議と同時期にカナダで開催されているWHOの会議においてブラジルがバクテリア量を提案し、検討されるのでその結果を参照するよう強い要請があり、議長はこれを参考とすることを認めた。一定以下のサイズにおける生物の量Xについては、動物性プランクトン、植物性プランクトン、バクテリア及びビールスについて議論された。ブラジルはバクテリア、ビールスを含めるよう強く主張したが、各国から強い反対があり、ビールス、バクテリアは含まれないことになった。
また、短期的な基準の適用日については、2005年又は条約発効から1年後、長期的な基準の適用については2015年又は条約発効後から5年後とすることが提案された。発効日を基準にすべきとするギリシア、リベリア、我が国と特定の年月を主張するアメリカ、ドイツが対立し、双方記載されることになった。
祖父条項については、具体的な年月を含んだ条項とすることを求めるアメリカ、ドイツと反対する我が国、ギリシア、リベリア、ブラジルが対立し、今後の検討課題とすることになった。
試験承認方法については、試験計画、陸上(実験室等)の試験、実船実験からなる手順が提案され、オランダが中心となって、MARPOL73/78条約附属書VIを参考にしてさらに内容を検討することとなった。
(ハ)受け入れ可能なバラスト水概念の導入
(a) |
第1条「目的」 ブラジル以外のすべての国が目的を前文に移動することを支持したため、前文に移動したドラフトが作成され、前文とするか、目的規定をおくか並列で規定された。 |
(b) |
第2条「定義」 国際航海の用語については、第F−1規則箇所のみ使用されていることが明らかになり、国際航海に従事する船舶から、この条約の適用のある船舶と修正することがアメリカより提案され、各国の幅広い支持を受け修正されることになった。 |
(c) |
第3条「一般義務」 すべての国が、第1条が残る場合のみ、目的規定と重なる部分を削除することに合意したが、第1条が残らない場合は中間作業部会で作成されたドラフトのままとすることで合意した。 |
(d) |
第5条bis「受け入れられるバラスト水」 米国、フランス、オランダ、我が国は本条文を前文、第E−4規則(バラスト水処理装置システムヘの追加のクライテリア)及び第E−6規則(機関による基準の見直し)へ分解して規定することを求めたが、ブラジルが強く反対し、この注釈付のままそのままの形でプレナリーに報告されることになった。 |
(e) |
第7条「科学的及び技術的調査及びモニタリング」 ブラジルより締約国にバラスト水のモニタリングの確立義務を求める規定を第5条(バラスト水を通じた有害水生生物の制御)に規定する提案(MEPC48/2/3)があったが、ブラジルを除く各国がモニタリングの義務化に反対したため努力規定として第7条に規定されることとなった。 |
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(ニ)バラスト水特別海域
バラスト水中間会合で作成された折衷案のクライテリアについて審議され、特別海域を設定したい国は、海域の場所、適用の内容、旗国と寄航国との問題、国際法上の問題点等についてIMOに通知する案が各国合意の下まとめられた。また、定期的な報告についてアメリカが沿岸国に過大な義務を課すものとして反対したためスクウェアブラケットのまま残すこととなった。また、イランはIMOの承認が必要だとしてクライテリアの作成に反対したが、米国、オランダ、ドイツ、ブラジルから沿岸国の権利であり含めるべきでないとの意見が大勢を占めた。
また、ノルウェーにより第C節の規定には、第A節の第A−3規則(偶発的な流出)規定が適用されるべき旨主張し、各国が合意した。
(ホ)サンプリング
アメリカ、サイプラス、我が国など各国は、現行条約案の規定振りをMARPOL73/78条約の規定振りに合わせて修正することで合意したものの、我が国は、サンプリングは義務でなく沿岸国の権利として実施するものであり、また少なくとも明白な根拠がある場合のみ実施するものであるべきである旨主張し、アメリカは明白な根拠の必要なく実施できるものであると主張し、双方の主張をスクウェアブラケットのまま残すことになった。サイプラス、ギリシアは我が国に賛成したが、ブラジル、FOEI、ノルウェーはサンプリング技術の開発が進んでいるとしてアメリカを支持した。なお、ドイツからMEPC45にドイツが提出したサンプリング方法に関する提案をさらに発展させたい旨述べられた。
(へ)バラスト水交換水域
ニュージーランド、アメリカは沿岸国の権利及び環境保護のため200海里内の交換は沿岸国の許可が得られた場合のみ可能とする枠組みを主張し、ブラジルは200海里内において沿岸国が定めた距離内での交換を禁止する制度を主張した。また、イタリア、スペイン、オーストラリア、ドイツ、バハマ、イラン、トルコは200海里以内でIMOのガイドラインに従った特別区域外又は沿岸国により設定される排出回避海域外のみで排出を禁止する枠組みを主張し、ノルウェーは50海里以遠(ただし排出回避海域を除く。)での排出を可能とする制度を主張した。我が国は、領海・EEZでは排出可能とすべきとの主張をしたが、各国から非難が相次ぎ支持する国はなかった。このため最終的には我が国は12海里以遠での排出を禁止することを主張し、ウクライナ、韓国が我が国を支持した。この結果、これらの案をベースにスクウェアブラケットのまま条文案を策定し、プレナリーに報告することになった。
また、我が国などが、船舶は航路から逸脱(deviate)することを求められないとの規定を入れることを主張し、ノルウェーが不明確として反対したが、逆にICSが遅延(delay)も含めるよう主張し、遅延を入れた形で修正され、全体がスクウェアブラケットとして残すことになった。
なお、インフォーマルなペーパーとして短距離航海の免除(400、600、1000マイルが並列されたもの)も作成されたが、時間的な制約から審議されなかった。
(ト)現存船舶のバラスト水交換時の安全上の問題
IACSからの提案文書(MEPC 48/2/7)について審議があり、バラスト交換時に船橋視界が確保できないとの問題については安全上の問題として第B−1規則の中で検討することになった。
(チ)その他
上述のほか、前文などにエディトリアルな修正を行うことが合意され、ドラフト案が作成された(MEPC 48/WP. 15)。
(3)プレナリーでの審議(WG審議後)
(イ)WG議長のハンター氏より口頭にて、WGの結果の報告がなされた。この中でバラスト交換のガイドライン、特別海域設定のガイドライン、サンプリングのガイドライン、テストアプルーバルのガイドラインを優先して策定すべき旨報告があった。時間の制約により条文ごとの審議は行わないこととなった。
(ロ)アメリカより、2003年度中の外交会議の開催を確実なものとするように、MEPC 49の前の2003年3月頃に中間作業部会を開催すること、また、MEPC 49への文書をバラストに関するものに限り提出期限の緩和の提案があり、各国とも特段の異議がなかったためMEPC から理事会に承認を求めることとされた。
(ハ)我が国からバラスト水を使用しない新しい型式の船舶の開発を開始し、MEPC 49にはその概要を紹介する予定であり、この条約が新しい技術開発を阻害しないようになることを希望する旨述べた。
(ニ)ブラジルより、MEPCでの議論についてももっと少数派の意見の国に配慮したものとすることが必要であり、また、審議もまず政策意志決定を行い、コンセプトを定め、それから技術的問題に移るべきであるのにそう行っていないと審議の現状の進め方に不満の意を表明した。
(ホ)イタリアより、科学/技術グループをIMOの下に設けるべきだと主張があったが今後の検討課題とされた。
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