(6)SOLAS条約改正案・第11−2章第8規則「情報提供」関連
パラ2の原案にあった条約改正採択1年後に締約国政府がIMOに情報提供を行う点に関し、我が国及びサイプラスが、条約改正採択後1年ではまだ当該改正が発効しておらず問題がある旨指摘した。さらに、サイプラスは、条約の規定に基づくのではなく外交会議決議を作成しそれに基づくのであれば、条約改正発効前の情報提供もあり得る点示唆した。これに関し、IMO事務局より、条約改正採択1年後であれば、当該改正の異議通告期間が終了しており、条約文が確定している旨言及した。なお、本パラについては、「条約改正採択後」及び「条約改正発効後」の2つのオプションがブラケット付で併記された。
また、米の提案により、情報提供は5年毎に定期的に行うこととされた。
(8)SOLAS条約改正案・第11−2章第9規則「監督」関連
(イ)概要
今次会合において、監督に関するSOLAS条約改正案第11−2章第9規則(本規則の標題は未定とされた。)の案文が作成された。規則案に関し、特記すべき点は次のとおり。
(a) |
寄港国によるPSCにおける船舶の差し止めを超えて、船舶が沿岸国の領海内又は管轄権の下でシップ・ポート・インターフェースを行っている場合にも監督の対象となること及び沿岸国が船舶に対し、港湾からの退去、入港拒否等、従来の措置を超えた措置をとることについては十分な検討を要する。 |
(b) |
沿岸国による監督及び強制措置を行うことのできる範囲については米国を除き、国連海洋法条約に定める沿岸国の保護権の範囲であるという認識で一致している。 |
(c) |
沿岸国による監督及び強制措置の適用は国際法に定める範囲内で行われるように努めるとの点については、第9規則3.4に「Nothing in this regulation shall affect the rights and obligations of the Contracting Governments under International law.」と規定することとなった。 |
(d) |
冒頭貴電における「規則2.1の管轄権の趣旨が不明確」との点については、今回作成された規則は議長提案をもとにしたものとなり、「管轄権のもとで」という文言がなくなったため確認の必要がなくなった。 |
(e) |
前回MSC で作成された第9規則2.2では締約国政府が監督措置をとることができる場合として記載のあった中に、本件規則の要件を満たしていない他の締約国の港湾施設においてずさんな検査が行われた船舶が自国領海に入ってくるような場合に監督措置をとるかについては、船舶が要件を満たしていないような港湾に入って、保安上問題がある場合には必要な監督措置をとることができる旨規定することで各国が合意した。 |
(f) |
不当な遅延の防止、不当な遅延が生じた際に沿岸国に補償を求めることができるような規定が第9規則3.3.1に規定された。 |
(g) |
船舶が検査官の求めに応じて情報を提供しないことについては、第9規則2.2に「船長は自らの責務に基づいて、情報を提供することが保安上リスクを増大させること及び情報を提供しないことにより、入港拒否という結果になる場合もあることを理解したうえで判断して情報提供を拒否することができる」という一文が追加された。 |
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(ロ)CGでの審議
監督に関する規則案を作成するため、コンタクトグループが開催された。コンタクトグループでは、従来のPSCに相当する事項及び入港しようとする船舶に対する新たな規制の2つの事項に分類して規則案を作成することとなり、議長提案にあったとおり、第9規則及び第9bis規則に分類して作成を開始したが、最終的には重複を考慮して1つの規則にまとめることとなった。コンタクトグループが規則案を作成するにあたり、以下の項目が重視された。
(a) |
この規則において「船舶がこの章の要件を満足していない」というのは船舶が汚染されているという場合も含めて考える必要があるということが合意された。これは当該船舶が入港した港湾、あるいは積み替え等を行った船舶がこの章に規定した要件を満たしていない場合や船舶が適切なセキュリティ管理を行っていない場合が考えられるからである。今後注釈を考慮する必要があることで合意した。(1.1) |
(b) |
「港」の定義を設けるべきか否かが議論されたが、この章の定義の作成となるかあるいはガイドラインを作成するかは今後をみることとなった。(1.1) |
(c) |
寄港国が指名したオフィサーが船舶に問題があると判断する際の「明白な根拠」については従来のPSCと同様、別途ガイドラインを作成することが合意された。(1.1及び2.4) |
(d) |
今回作成される本章規則の適用にあたり、規則に違反していることが判明した際に条約締約国が必要な措置を講じるのは義務なのか、権利なのかという点について議論がなされたが、結論は出なかった。米国、英国等は義務であると主張、他方フランス、ノルウェー等は権利であるという主張を行った。(1.2) |
(e) |
港内の監督における港外退去命令及び事前の情報提供を受けた際の入港拒否については、それ以外の方法では差し迫った危機を回避できないときに採用されるものであるとの認識が規則に記載された。(1.4及び2.6) |
(f) |
本章の規則に欠陥と指摘された事項の是正については、多くの国は従来のPSCと同様、是正措置が寄港国が満足する程度まで行うと認識であったがサイプラス等から、寄港国が満足するという表現ではあいまいとの認識が示され、今後、ガイドラインを作成するべきでないかという意見で一致した。(1.5及び2.7) |
(g) |
船長が必要と考える場合には情報の提供を拒否することが認められた。(2.2) |
(h) |
船舶がこの章の規則に基づいて船上に備え付けるべき資料の保管期限を設定することが合意された。(2.3) |
(i) |
船長が入港するという方針を寄港国の動向によって入港をしなかった際に、海洋法上の無害通航を主張できるかについて議論がなされた。米国はいったん入港の意思表示を行い、寄港国が問題があると考えた船舶に無害通航を認めることはできないと主張した。(2.5.1) |
(j) |
本規則の適用にあたり、本規則への不適合が発見された場合、通報をどのように行うかについて議論がなされた。従来のPSCと同様旗国、認定機関に通報するべきとの指摘もあったが、本件は保安に関することであり、当該情報は国以外に開示することには問題があるとの認識をもつ国が多数あった。また、通報において問題のあった船舶の情報を次の寄港国または隣接する国の当局に通報する際についても、機密の維持が重要であることが認識された。(3.1及び3.2) |
(k) |
今回作成されたセクション1及びセクション2の規制を行うにあたり、船主に対して不利益となるような不当な遅延を防止することに最大の努力を払うこと及び不当な遅延を生じた際には船主がその補償を求めることができるよう規定された。また、入港拒否、港外退去等の措置を行うことにより、本船の船員に不可欠な水、食料等の物資の補給等の活動が妨げられないよう規定された。(3.3) |
(l) |
今回、本件を議論するにあたって各国出席者は関連する国際条約、特に海洋法条約と抵触しないよう本規則を作成するべきという認識をもって本規則案の作成を行った。(3.4)
以上のような問題点について議論しながら規則案が作成されたが、結果的に従来のPSCと同様に港内において行う規制と、入港しようとする船舶に対して情報提供を求め、必要に応じて措置を行うという2つの項目に分けて作成された。
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(ハ)プレナリーでの審議(CG審議後)
CGで作成された規則案はプレナリーで審議された。議長から本案は12月に詳細に審議するので、一般的なコメントのみを出すよう要請があった。ICSより補償についての規定が不十分であり、又この規則で求められているセキュリティ管理が求められていない船舶、港湾から搭載された貨物に問題点が生じるのではないかとの懸念が出された。また、サイプラス等より規則の中には機関が定めるガイドラインを見ないと規制の全体がわからないとの指摘があった。なお、CGではこのガイドラインの素案を作成した。
(9)ロングレンジトラッキングシステム関連
(イ)CGでの審議
インマルサットCを利用したロングレンジトラッキングシステムの要件をSOLAS条約第5章及び第11−2章に導入するブラジル提案(MSC 76/ISWG/7/13)に関し、現時点ではインマルサットCが有用な装置であること及びロングレンジトラッキングシステム要件のSOLAS条約への導入の必要性が認識されるも、そもそも前回MSC 75が指示したCOMSAR(及びNAV)での検討がなされていないこと、将来のインマルサットC以外の装置の開発、インマルサットC利用の際の運用面の問題(コスト等)等の理由から、今般のSOLAS改正案に含めることついては、欧州各国、米国等が反対の意見をなした。一方、ブラジルは、インマルサットC以外の機器開発が問題であれば、条約本文では、インマルサットCではなく「ロングレンジトラッキングシステム」とし、当該ロングレンジトラッキングシステムの性能基準の中で、当該機機の一つとしてインマルサットCを規定し、新規の装置が開発されれば、これに当該装置を規定すれば、SOLAS条約改正案とすることは可能であるとの代替案が示されたが、先の理由及び事実上インマルサットCのみに限定されることとなることから、欧州各国(特にドイツ)が異議を唱え、結果、今般のSOLAS条約改正案に導入することは見送られ、NAV及びCOMSARでの継続審議が決定した。
あわせて、ICSより、NAV 48での検討結果を踏まえ、現行SOLAS条約第4章がインマルサットCの搭載を要求していないA1及びA2水域を航行する船舶についてロングレンジシステムの適用の問題が提示され、今後、当該船舶の適用も含め、次回COMSAR及びNAVでの本件の詳細検討を行うことが決定した。
議場内外において、本件に対する各国の考えを確認したところ、欧米各国は、インマルサットC利用の際のコスト面の問題を懸念しており(豪州が既に一部地域で実施しているが相当の費用負担が生じている模様)、HF帯を利用したロングレンジAISの開発に期待している模様であった(特にドイツ)。一方、我が国が、懸念する内航船舶への本件の非適用については、SOLAS条約第11−2章のみを改正すべきとの我が国意見(同章は国際航海に従事する船舶に適用)には、一定の理解を示すも、A1及びA2水域を航行する船舶の本件適用の問題を解決すれば、また、内航船のAIS搭載時期である2008年までにHF帯のロングレンジAISが開発されれば、実態上は問題はなくなるではないかとの意見であった。
(ロ)プレナリーでの審議(CG審議後)
ブラジルより、CGの審議結果への留保の表明がなされ、あわせて、ロングレンジトラッキングシステム要件のSOLAS条約改正案への導入をSOLAS条約締約政府会議で検討することを提案し、リベリア、ベネズエラ、バハマ及びアルゼンチンが、同提案に賛成の意見をなした。一方、CGでの審議と同様、欧州各国を含む大勢は、今般のSOLAS条約改正に盛り込むことなくNAV及びCOMSARでの継続審議を主張し、我が国もこれに賛同し、あわせてCGでも議論となった、インマルサットC利用の場合のA1及びA2水域を航行する船舶の本件適用の問題点を重ねて意見した。一方、米国は、本件の早期導入の観点から、ブラジル提案に賛同するも、将来のインマルサットC以外の装置の開発に言及をなした。審議の結果、大勢がCGの決定を支持ししていることを受け、引き続きCOMSAR及びNAVで本件を審議することが確認された。
一方、CGからWGへの要請事項であるMSC 76/ISWG/2/WP.5第14.10項に関し、ロングレンジトラッキングシステムとしてインマルサットが「most appropriate」との記述に、将来のインマルサットC以外の装置の開発を期待する欧州各国が反対の意見をなした。審議の結果、当該文言は削除され、必要な修文を行うことが合意された。
なお、ロングレンジトラッキングシステムの早期実施を要請する締約国会議決議案(MSC 76/ISWG/WP.4/Add.1)の審議もなされる予定であったが、上記の審議結果を踏まえ、とりあえず今次会合のIMO作成の全体報告に含めることのみが合意された。
2. 議題6(締約国会議決議の完成)関連
締約国会議決議案8「港湾保安に関するIMOとILOのさらなる作業と協力」に関し、我が国からコスト面等から「certification information document」を含めることは困難であり削除すべきと指摘したところ、バハマが海技免状と船員手帳の発行官庁の違い等を理由に賛成したが、英はその理由が不明として反対した。最終的には、WG議長から本決議が勧告であることら原文を維持するとともに、多くの国がコストを理由に関心示した旨reportに残すこととした。さらに、我が国からSTW小委員会での意見交換が有効であると述べたが、MSC 議長からは、決議が採択されれば、その方向で進められることとなるとの発言があった。なお、審議終了後、議場外でMSC議長及びWG議長と、最低限、本決議の範囲内でのSTW小委員会検討の必要性を付言したところ、了承された。
その他、締約国会議決議案9「WCOとの協力」等の決議案については、特段の議論等はなく、事務局原案のとおり合意された。
3. 議題8(海事保安関連事項の将来の作業計画・タイムフレームの見直し)関連
本件については、今回、SOLAS条約改正案及びISPSコード案の作成に時間を費やしたことから、実質的審議には至らず、次回に先送りされることとなった。 |