B. 第75回海上安全委員会(平成14年5月15日〜24日)におけるPSC関係部分の議事概要
1. 強制要件の改正に係る検討及び採択(議題3関連)
(1)SOLAS条約等の改正の採択
今次会合では、SOLAS条約第IV章、第V章、第VI章、第VII章及び総会決議A.744(18)の改正案、1988年SOLAS条約議定書の改正案並びに強制IMDGコードが採択された。発効は2004年1月1日を予定。
(イ)総会決議A.744(18)の改正
エリカ号事故や最近のバルクキャリアの事故を防止するための、検査強化プログラムの規定をさらに強化するための総会決議A.744(18)の改正案(主たる改正点は、(a)船齢15年以上のタンカーについて、加熱管を設置している貨物タンクに隣接するバラストタンク内部検査の毎年の実施、(b)船齢15年以上のタンカー及びバルクキャリアの中間検査はその前の定期検査に準じる検査の実施、(c)板厚計測時における検査員の立ち会い免除規定の削除)、及び当該改正案で漏れていた板厚計測立会免除規定を削除すべきとするIACSの修正案(MSC75/3/2)について審議が行われた。これに対し、ノルウェーより、A.744(18)Annex Bのパラ1.3.2をAnnex Aにあわせ、「substantial」を「significant」に修正すべき指摘があった。この修正とIACSの提案を基にドラフティンググループで修正が行われた上で採択された。
2. FSI10からの緊急案件(議題13関連)
(1)第10回FSI小委員会の報告
MSC75/13に基づき標記小委員会の9項目に亘る緊急報告内容について審議が行われ、以下に示す特記事項以外については特段の反対なく承認された。
(2)船舶履歴情報(Continuous Synopsis Record:CSR)
標記事項の検討は、海上保安の向上に資する事項であることから、議題17において検討することとなった。
(3)ISMコード関連
ISMコードに従い重大な欠陥が発見された場合における手続き案に対し、IACSより、船舶の安全管理システムに関連のない欠陥により承認書類が取り消された場合における取り消し後の手続き案の改正等が提案され、これをサイプラスが支持し、特段の反対がなかったため、IACSを中心とした小グループにおいて改正案が作成されることとなった。その後、小グループが作成した改正案(MSC75/WP. 15)をプレナリーで審議したところ、特段の議論なく承認された。
(4)MSC/Circ. 1013の改正
A.746(18)にある「いかなる5年の間」の解釈であるMSC/Circ. 1013を改正する旨のノルウェー提案(MSC75/13/1)については、FSI10において同提案が合意されていたところ、インド及びシンガポールが同提案に反対を示したものの、パナマ、韓及びIACSがノルウェー提案及びFSI10の合意を支持したため、結果、FSI10の合意どおりMSC/Circ. 1013の改正は承認された。
(5)FSI小委員会の名称の変更
バハマより、MSC75/13/2に基づきFSI小委員会の名称を「Implementation of Instruments」に変更し、同小委員会の付託事項(TOR)を改正する旨の提案がなされた。本提案に対し、バヌアツ、中国、サイプラス、シンガポール、ブラジル、マルタ、ライベリア、パナマ等、主に船主国及び発展途上国の約25カ国より支持の表明があった。これに対し、仏は、旗国の条約実施義務の遵守を検討することが本小委員会の主要な課題であるとし、また、現在IMOの構造を見直そうとしている段階であることから、現時点において名称を変更する必要はないとしてバハマの提案に反対し、これを蘭、スペイン、独、スウェーデン、露、ノルウェー、デンマーク、イタリア、豪、加、英等主に欧米諸国の約23カ国が支持した。なお、米国は、当該小委員会において今後海上保安関連の事項を検討することを理由に、バハマ提案を支持した。
議論が二分化し、今次会合で結論づけることが困難な状況であることから、議長より、仲介案として、現時点では現名称及び現付託事項を維持したままで、次回FSI11において名称及び付託事項を検討することとした上で、今後小委員会の構成の見直しにおいて本件を検討していくことが提案され、これが合意された。
3. 海上テロ防止(議題17関連)
来たるG8会合関連部分について、とり急ぎ報告申し上げる(今次会合で作成されたSOLAS条約改正案及びコード(MSC75/WP. 18/Add. 1)並びに外交会議決議案(MSC75/WP. 18/ANNEX5)を別FAX公信にて送付申し上げる。)。
なお、本年12月の外交会議に先立ち、SOLAS条約改正案の詳細検討等のため、9月9日から13日までの間、再度、海上安全委員会中間作業部会を開催することが合意されるとともに、第76回海上安全委員会を、当初予定の本年12月4日から13日までの開催を、12月2日から13日までとするよう理事会の承認を求めることとなった。
(a)AISの早期導入(SOLAS条約改正案・第5章第19規則関連)
(1)プレナリーでの審議
提案文書の紹介が行なわれ、2004/7/1における現存の国際航海に従事する旅客船及びタンカー以外の船舶のAISの導入時期について、米国(MSC 75/17/28)は2004/7/1を、欧州(MSC 75/17/12)は2004/12/31以降の最初の安全設備の検査時期を、ロシア(MSC 75/17/3)は2006/7/1を、それぞれ主張した。また、ICS(MSC 75/17/4)は、AIS機器の製造体制及び陸上基地局の体制整備に対して疑問を呈した(明確な早期導入時期の意見なし。)。
我が国は、AIS機器の供給、船舶への搭載、検査等を本件実施の際の問題点を指摘し、早期導入時期は検査時期との整合が重要であるとの立場から、欧州提案が最適であることを主張し、サイプラス等がこれに賛同した。
審議の結果、議長より、本件の重要性に鑑み、早期導入時期の最終決定は、本年12月の外交会議において行なうこととが総括され、WGに対し、導入時期のオプションを検討することが指示された。あわせて、本件検討のため、AIS製造機器メーカーに対し、AIS供給の詳細情報の提供が指示され、また、NAVに対し、現在検討中のAIS関連基準(ディスプレイ・ガイドライン等)の作成が付託された。
(2)WGでの審議
プレナリーでの審議結果及び各国提案を踏まえ、次のオプションが用意された。
(イ)本年2月開催のMSC中間作業部会原案
・300〜50,000トンの以上の船舶は、2004/7/1以降の最初の安全設備の検査時期又は[2004/12/31まで]のいずれか早い時期
(ロ)米国提案
・300〜50,000トンの以上の船舶は、2004/7/1
(ハ)欧州提案
・10,000〜50,000トンの以上の船舶は、2004/7/1以降の最初の安全設備の検査時期であって、2005/7/1以降まで
・300〜10,000トンの以上の船舶は、2004/12/31以降の最初の安全設備の検査時期
(ニ)ロシア提案
・300〜50,000トンの以上の船舶は、2004/12/31以降の最初の安全設備の検査時期
(3)プレナリーでの審議(WG審議後)
WGの審議結果が特段の意見なく了承された。
(b)船舶の保安要件(SOLAS条約改正案・第11−2章第3規則関連)
(1)保安要件の枠組み(条約改正の方法)
(イ)プレナリーでの審議
船舶の保安要件(船舶の保安計画、船舶の保安職員等)を強制化するためのSOLAS条約の改正方法について、(a)SOLAS条約第11章(船舶及び港湾施設の保安コード:SPFSコード)改正又は(b)船舶の保安要件はSOLAS条約第9章(ISMコード)改正とし、港湾施設の保安要件はSOLAS条約第11章(船舶及び港湾施設の保安コード)改正のいずれの方法によるかが審議された。
各国提案文書の紹介が行なわれ、米国は(MSC 75/17/29等)第11章改正のみで対応すべきことを、ICS等(MSC 75/17/39)はISMコードに配慮した船舶の保安計画の検討(条約改正方法の言及なし)を主張した。我が国は、提案文書(MSC 75/17/20)に基づき、船舶の保安計画とISMコードの関連性及び保安要件に係る検査・証書のISMコードの認証システム利用の合理性から、船舶の保安要件は第9章改正で対応すべきことを主張した。
ロシア及び中国が我が国意見に賛同し、船舶の保安要件の第9章改正を主張し、また、ブラジルが、第11章改正のみで対応することを主張した。一方、ギリシャ、デンマーク、スペイン、スウェーデン、ノルウェー、英国、ドイツ、カナダ、トルコ、バハマ、パナマ、サイプラス等の各国は、我が国主張に理解を示すも、第9章改正によるISMコード実施の船舶への影響(現に保有のISM証書の切り替え、書換え等)を考慮し、今次は第11章改正のみで対応すべきであるが、将来の第9章改正による対応の必要性及びその検討を主張した。
我が国は、米国提案の第11章の認証システム(検査及び証書)は、船舶のみを対象としており、会社を対象としていないこと及び他の検査の時期・証書の整合を目的とした検査と証書の調和システム(HSSC)が考慮されていないことを指摘し、船舶/会社を対象とし、かつ、HSSCを導入しているISMコードの認証システム利用の有用性から、再度、船舶の保安要件は第9章改正で対応すべきことを主張し、あわせて、仮に大勢が第11章改正のみで対応すべきであっても、その認証システムはISMコードのものとの整合を図る必要があることを主張した。当該我が国意見に対し、米国は、第11章改正のみで対応することを重ねて主張する一方、我が国指摘を理解し、会社の検査を含め、第11章に規定する認証システムのISMコードとの整合をWGで検討することを要請した。
議論の結果、議長より、大勢が、将来、船舶の保安要件をISMコードに組み入れることを求めていることが確認され、WGに対し、ISMコードと整合を図った第11章改正案の作成及び長期目標として船舶の保安要件とISMコードの整合(再改正)を要請するSOLAS条約外交会議決議案の作成が指示された。
(ロ)WGでの審議
プレナリーでの我が国主張に基づき、認証システムについてHSSCを考慮等したSOLAS条約改正案が了承された。
(ハ)プレナリーでの審議(WG審議後)
WGの審議結果が特段の意見なく了承された。
(2)適用時期
提案文書(MSC 75/17/20)に基づき、我が国は2004/7/1以降の最初の検査の時期から適用すべきと主張したが、審議の結果、改正条約が発効する2004/7/1から適用することが原則合意された。
(c)コンテナ検査
(1)WCOとの協力
ギリシャは、WCOとIMOの担当分野の明確化を指摘した。我が国は、コンテナ検査に係るWCOの活動を原則賛同するものであり、IMOとWCOが協力し、本件作業を行なうことを支持し、各国からも本件を賛同する意見がなされた。
審議の結果、議長より、前回中間会合が要請した本件に係るIMOとWCOの覚書(MOU)の作成及びIMO理事会でのその承認が事務局に対し、指示された。
また、WCOに対し、コンテナ保安の早期検討を要請する、IMO事務局長からのレターの発出が了承された。
(2)コンテナ保安に係るSOLAS条約の改正
(イ)プレナリーでの審議
各国の提案文書の紹介がなされ、米国(MSC 75/17/32及び33)は、荷主(shipper)によるコンテナシールの確認義務等に係るSOLAS条約第11章の改正を主張し、また、欧州各国(MSC 75/17/12)は提案文書に記載する事項の審議を要請した。
議長より、本件の論点として(a)WCOとの協力、(b)米国が提案するコンテナシール強制化に係るSOLAS条約改正提案及び(c)非シール・コンテナの会社の保安職員による拒否(SOLAS条約第11章改正/保安コード関係)が確認された。
サイプラス、ギリシャ、ロシア等が、本件に係るSOLAS条約改正に理解を示すも、他機関での検討も含めた全体的な検討が必要であることを主張した。バハマ、パナマ等は、米国が提案するコンテナシールの強制化、会社の保安職員による確認・非シール・コンテナの拒否等の米国提案の実施困難性を意見した。我が国は、コンテナシールの強制化を原則賛同するものの、本件はコンテナの安全・保安全体の議論の中で検討されるべきであり、特にコンテナの内容物とシール情報の同一性確認は重要であることから、主管庁によるサンプルチェック等の適切な措置を検討すべきことを主張した。ISOより、電子シールの規格化は改正条約採択の期限までに準備可能であることが報告され、米国が電子シールの規格化が困難な場合のオプションとして提案した機械シールよりも電子シールによるコンテナシールを検討すべきことを主張した。本件に関し、米国より、コンテナシールの強制化がコンテナ保安のすべてではないこと及び非シール・コンテナの拒否は一つのコンセプトであることが説明され、最も重要なことはIMO及び他機関においてコンテナの保安が確立されることであるとの意見がなされた。欧州等の各国も、SOLAS条約において何らかのコンテナの保安措置を扱うことに賛同する意見をなしたが、ICS及びギリシャは、現時点では他機関の動向を見極めてから、SOLAS条約を改正すべきとの意見をなした。
議論の結果、議長より、WGに対し、米国が提案するコンテナシールの強制化等のコンテナ保安に係るSOLAS条約改正の詳細検討が指示された。
(ロ)WGでの審議
審議冒頭、WG議長より、コンテナ保安全般について、今何をすべきか、IMOが何をできるのか(特にSOLAS条約において)を検討すべきことが確認され、IMO及びWCOの間で議論すべきであるとの見解が示された。
ICSが、従前から実施する会社によるコンテナ検査体制及び関税機関の存在から、SOLAS条約改正し、コンテナ保安要件の強制化に反対した。米国は、今次提案のSOLAS条約改正提案は、スクエアブラケットを付し、外交会議で結論を得るべきと主張した。一方、英国等の欧州各国及びサイプラスは、WCOでの議論を待つこととし、SOLAS条約の改正提案は当面見送るべきとの意見であった。
WG議長より、今次のSOLAS条約改正ではコンテナ保安を見送ることとし、WCOと協力のもと、コンテナ保安に係るIMO関連分野の条約の改正を要請する外交会議決議を発出することが提示され、これが了承された。
(ハ)プレナリーでの審議(WG審議後)
WGの審議結果が特段の意見なく了承された。
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